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第三十五話 戦闘準備

「はいはーい。ちゃっちゃと、板を立てかけちゃって!」


 町に残っている住民たちを総動員して、急ピッチで板を組み、簡易の防壁を築かせていく。

 材料は、元々あった家を打ち壊して、用意をさせた。


 柱を地面に打ち、板を立て掛け固定して壁を次々に築いていく。

 これら壁の間に、一部隙間を設けていく。

 銃眼としての機能と、槍を突き出すスペースとを確保するためだ。


「こんなものでも、ないよりは全然マシよね」


 私は簡易砦の出来映えに満足する。


「ねぇ、ちょっと、ルシフ。一応、撃ち手と、弾込め、それに、その補助、と三人一組でチームを組ませてみたけど、大丈夫なの、これで?」


 リーゼルが不安そうに聞いてきた。まぁ、銃を扱うのに、素人に任せて大丈夫なのか、という気持ちがあるのだろう。


「うん。こういった、単純作業は、それぞれの動きをより単純にして、それぞれの単純な作業をより練習させた方が効率がいいんだよ」


「……しかし、ルシフ。なんで、あんたそんなアイデアがポンポンと浮かんでくるのよ。この武器使うの、あなた初めてでしょ?」


「あはは。たまたま思いついただけよ!」


 リーゼルが猜疑の視線を向けてきたが、そっぽを向く。

 人間の長い血塗られた戦いの歴史を舐めてはいけない。


「ルシフ。わたしの方もお前に言われたものを、鍛冶屋に試作をさせてみたが、これはいったい何だ?」


 私が鍛冶屋に頼んで作ってもらった品を持ってきた。

 金属の針金で、四角いフレームを作り、そのフレーム内に複数の針金を横通ししたものだ。


「これね。簡易的だけど小銃用の照準器を作ってみたのよ。各飛距離ごとに、この対応する針金のところに相手を重ね合わせて発射するの。まぁ、少しでも命中率を高めるために、ね」


「ショウジュンキ?」


 聞き慣れない単語だったのか、リーゼルが、しげしげと照準器をつまみ上げて、観察している。


「ま、論より証拠ね。少しみてて」


 私は銃に照準器を取り付け、試し撃ちをしてみた。

 最初の二発で、だいたいの照準を合わせ、百メートルほど遠くの場所に小瓶を立て掛け、見事、破壊するデモンストレーションをしてみせた。


「……す、すごっ! うちの連中にやらせたときにはあの半分程度の距離で、あたるかどうか、という感じだったのに」


 ぶつぶつとリーゼルがなにか独り言を呟いている。

 私は距離を変えてもう一度試射してみた。まぁ、ある程度の誤差はあるものの、魔物のお腹のどこかには当たるくらいの誤差範囲に収まっている。


「そして、これが、この武器の一番大事な点だけど、この銃という武器は、地面に横たわりながら、狙って撃ったり、そこの砦の板の隙間にしっかりと銃を備え付けた上で、よく相手を狙えば、誰が撃っても、ほとんど、毎回同じところにちゃんと当たるのよ。そこが、弓矢や、弩みたいに射手の技量がものをいう武器との違いね」


「……あんた、いったい何者なの? ほんとうに人間?」


 リーゼルが、最早、こちらを化け物か何かのような目で見てきた。

 相当、警戒しているのか、少し、私との間に、距離を取っている感じだ。


 私は苦笑しつつ言う。


「人間よ。ただの、ね。でも、少し違うとすれば、未来を見る力がある、みたいなところかしら」


「……未来視! 噂には聞いたことがあったけど、そんな高等魔術が使えるなんて!」


 リーゼルが驚嘆の眼差しをこちらに向けてきた。

 まぁ、実際は未来を見ているというよりも、私自信が過去を訪問している。に近い気もするが。


「……ルシフ。聖堂騎士団からの連絡が来たぞ。彼らは次の一戦の後に、徐々に後退を始めるとのことだ。喜ばしいことに今回の戦いでは側面からの援護があるぞ」


「それじゃあ、せいぜい、彼らにも活躍してもらいましょう」


 私はカレンからの報告を受けて、机の上に地図を広げた。


 湖近くの開けた平地が決戦の舞台になりそうだ。

 魔物の軍勢は、小鬼(ゴブリン)や、豚顔兵(オーク)が主たる兵員だが、一部、銀狼に跨がった鎧武者の軍勢、これは騎兵に該当する。それと、火力支援の魔法を使ってくる、フードを被った軍勢もあり、その戦力総数は五千は下らない数であろう。


 それに対して我々の方は、聖堂騎士団五百、リットリナ騎士団の支援軍が騎兵百騎、ギルドの傭兵団三百、それと私たちが兵員五十に、それと臨時で編成した、市民で構成された、銃を扱うための義勇軍百チーム三百名といったところだ。

 単純な数だけで言うと相手はこちらの四倍もいるので、攻城戦としても、魔物の軍勢は優位に立っていると言える。


「あんたさっきから、何を計算しているの?」


「え? 」


 私が地図に、ちょこちょこと、書き込んでいる数値が気になるらしい。


「これは、過去の報告から、どのルートを使う可能性がありそうかの可能性の数値ね。まぁ、あくまでも参考かしら」


「ほー。ルシフはそんなことを考えながら指揮を執っていたのか。さすが、わたしの嫁だ」


 誰が嫁だ。

 私はカレンの戯れ言を黙殺する。


「あ、そういえば、もう一つお願いしていた品、用意できた?」


「ん? あぁ。ランタンの明かりの蓋を開閉可能にした、道具だな。これは、合図か何かに使うのか?」


「これはね……」


 私は、このランタン信号燈を用いた信号通信のやり方を実演して見せた。

 簡単に言うと、モールス信号に似たような形で、遠くにいる部隊同士で光の信号を送り合って、瞬時に連絡ができるようにしたものだ。


「魔術師が多ければ、彼らの魔法でなんとかなるけど、今回はそんなに魔術師が多くないし。それに、相手がカウンター魔法を使ってくるかもしれないしね。まぁ、用心みたいなものよ」


「……しっかし、あんた。ポンポンと、色々とよく考えるわねー」


「まぁ、技術だけで勝てればいいんだけどね。……残念ながら現実は厳しいのよ」


 リーゼルからの呆れとも感嘆ともとれる言葉に、私はいかんともしがたい、この物量差に思いをよせるのだった。


次回は、12/29(金)更新の予定です。たぶん。

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