8.切符はマーマレード
「見つかったらまずいから、その本は持ってこれなかったんだけど。私はこの目でちゃんと見たの。太陽のオレンジの島は、本当にあるのよ。きっと昔、その島に行っただれかが、昔話として広めたんだわ」
きっと、いくら真剣に話しても、大人には信じてもらえなかったに違いない。だから昔話として、未来の子どもたちに伝わるよう思いを託したのだ。
あの本は、その人物が書き記したものに違いない。この町の人には読めないようなことばで。でも好奇心のある子どもなら、絵を見ただけで理解できるように。
どうしてそんな本がシャルロットの家の書庫にあったのかはわからないけれど。
「でも、その島ってどこにあるの?」
「わからないわ。島の地図しかなかったんだもの」
クッキーはあからさまにほっとした顔をして、
「じゃあ、どっちみち行けないね」
と言った。
「ううん。その本にはね、その島への行きかただって、ちゃあんと描いてあったのよ」
「えっ!」
クッキーの声にあわせて、うさぎの耳がぴーんとたつ。思ったよりも大きな声が出てしまったことに驚いたのか、クッキーはあわてて口を手でおさえた。
「……知りたい?」
シャルロットは、わざとじらしてすぐに教えなかった。もったいぶるように、クッキーに聞いた。
クッキーからこの話に興味を持ってもらいたいのだ。そうじゃないと、話を聞いたあとクッキーがとる行動が、シャルロットの想像どおりになってしまうから。
クッキーは、興味と不安がいりまじった顔をしていたが、しばらく考えたあと
「うん、知りたい」
と答えた。その顔には、隠しきれない期待があふれている。シャルロットはその反応に満足して、話し始める。
「その本にはね、島への行き方だって、ちゃあんと描いてあったんだから。ちゃんと絵で詳しく説明してあったわ」
「それで、その方法って?」
クッキーが先を促す。シャルロットは真剣な顔になってこくんとうなずく。重大な話を打ち明けるときのように、ふたりで鼻先をつきあわせてひそひそ話し。
「……竜にね、頼むんだって」
「りゅ、竜に?」
「うん。十月の満月の夜に、赤と白のしましまの竜が、教会の屋根の、十字架のてっぺんに止まるんだって。竜と目があったら、すかさず渡し賃を差し出してこう言うの。あなたの背中に乗せて! って」
「背中に乗るの?」
「うん。でも、竜だってただで乗せてくれるわけじゃないのよ? 渡し賃にマーマレードが必要なんですって。きっと、竜のお気に召すようなおいしいマーマレードじゃないといけないんだわ」
クッキーは案の定、不安を隠しきれない顔をしている。クッキーは心配症だから、これから話すシャルロットの計画を聞いたら、絶対に止めようとするに違いない。
「シャルロット、まさか」
「うん。今日は十月の満月の日よ。あたし、ためしてみようと思うの」