7.おひさま色の古い本
夕陽が落ちて、町のオレンジ色がだんだん濃くなってきた。まるで、町がオレンジジュースの中に沈んでいるみたい。
太陽のオレンジは、太陽みたいな色をしているらしい。山の稜線に沈んでいく夕陽を見ながら、きっとあんな色をしているのかしら、とシャルロットは思った。
「太陽のオレンジって……あの昔話の?」
オレンジ色に染まったクッキーの白い髪を見ながら、シャルロットはこくんと頷いた。赤い瞳が柔らかいオレンジ色に照らされて、とてもきれい。
見とれてしまいそうだったシャルロットはあわてて言った。
「そう、クッキーも子どものころに聞いたことあるでしょう? セカイのどこかに、すっごく甘くてほどよくすっぱい、太陽の色をしたオレンジがあるって」
それはそれは夢みたいにおいしいオレンジなのだそうだ。この昔話をきくたび、太陽のオレンジってどんな味なんだろうと想像していた。話している今も、口の中がすっぱくなってつばがたまってくる。
「あの昔話って、実は本当だったのよ」
シャルロットが低い声で打ち明けると、クッキーは驚いて目を見開いた。
シャルロットがこの話を知ったときと、同じような顔。無理もない。だって昔話っていうのは現実じゃなくて「物語」だから。もう小さな子どもじゃないシャルロットたちは、「物語が本当」だなんて信じられなくなっている。
でも逆なのだ。本当にあったことだから、それをもとに昔話ができたのだ。
シャルロットが知ったきっかけは、家の書庫だった。マーマレードをおいしく作るための秘伝の書があるんじゃないかと思って、地下にあるパパの書庫に足を踏み入れたときのこと。
書庫の天井には、クモの巣がハンモックのようにたくさん張っていて、歩くたびに白っぽいほこりが舞い上がり、シャルロットをせきこませた。
薄暗い書庫をランプを持って物色しながら、「このお部屋、あとで大掃除しなくちゃ」とシャルロットは決意を固めた。
本棚のはじから本を物色していく。さすがパパは町長だけあって、町の歴史などの資料が多かった。皮張りの、分厚いむずかしそうな本ばっかり。お料理の本なんか、ありそうにない。
「やっぱり、こんなところにはないか」とため息をついて書庫から出ようとしたとき、視界のはしっこで、濃いオレンジ色をした本が、きらりと光った……ように見えた。
さっき見たとき、こんなところにこんな本、あったかしら? いぶかしがりながらも、ふらふらと誘われるようにその本を手に取る。
赤でもない、オレンジでもない。例えて言うなら太陽の色。そんな不思議な色の表紙には、金の飾り文字がタイトルが書いてあった。けれど、シャルロットには読めない。きっと古代文字か、外国のことばなのだろう。
中を開いてみると、インクはセピア色に変色し、紙の端もボロボロになっている。これ以上壊さないように、そうっと中のページをめくった。
中に書いてある文字もタイトルと同じだったので、さっぱりわからない。でも、絵や地図が入っているから、なんとなく内容をつかむことはできた。
太陽のかたちをした島の地図。しましまの竜の絵。大きなオレンジ、マーマレード。
「もしかして、これって……」
それらの絵から導きだしたシャルロットの答えはたったひとつ。
「太陽のオレンジは本当にあるのよ。竜が守る、太陽の島に!」




