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6.マーマレードコンクール

 木の家が完全に見えなくなると、二人は大きな切り株に並んで腰をおろした。こういった、小さな休憩スペースのような場所が、この町にはたくさんある。今日もここでだれかが休憩したのか、足元にはりんごの芯が転がっていた。

「報告って、何かあったの?」

 悪いほうの報告だと思ったらしいクッキーが、心配そうな顔で訊ねてきた。

 シャルロットはふふふ、と笑って、持ってきた手紙を渡す。

「これ、読んでみて」

 クッキーの心配そうな表情が、表面の宛名を見た瞬間、驚きに変わった。わたわたと中から便箋を取り出すと、真剣な表情で手紙にしたためられた文章を読んでいる。

「……すごい」

 手紙から顔を上げずに、クッキーは熱っぽい声でつぶやいた。

「すごいじゃないか、シャルロット! 長年の夢がかなったんだね」

 シャルロットはにっこり笑ってうなずく。

 手紙の主は、あしたの町収穫祭実行委員。手紙の内容は、マーマレードコンクールの予選通過の通知だった。

 あしたの町ではもうすぐ大きなお祭りがある。毎年十月に開催されている収穫祭だ。その収穫祭で一番盛り上がるのがジャム作りコンクール。今年の課題はマーマレードだ。

 その予選に、シャルロットは応募したのだった。

 シャルロットのママは、このコンクールの優勝の常連だった。優勝すると、町中のいろんな家から、「ジャムを作ってくれ」という依頼が舞い込む。

 シャルロットはずっと、毎年このコンクールに出たくてたまらなかった。ママのようなジャム名人として、たくさん依頼を受けるようになりたかった。

 でも、コンクールに出場できるのは十二歳から。なので泣く泣く、いつも客席からステージを見ていたのだ。

 なので、十二歳になった今年は猛特訓して、マーマレードを実行委員会に送った。その結果が届くのが今日だったのだ。

「でもまだ、夢がかなったわけじゃないの。あたしの夢は、優勝することだもの」

 本番では、ステージ上に作られたキッチンで、みんなの前でマーマレードを作る。そのことを考えると、緊張と嬉しさとで胸がドキドキする。

「そっか、そうだね。でもシャルロットなら大丈夫だよ。シャルロットの作るジャムはどれもとてもおいしいもの。それに、お母さんに特訓してもらってるんでしょう?」

 シャルロットはうなずく。コンクールに出場できるのは家族で一人だけだから、今年はママに無理を言って譲ってもらったのだ。「優勝したいから特訓して」と頼んだら二つ返事で引き受けてくれたのはいいものの、その教え方はほとんどスパルタだった。

「でも、おかげで寝不足よ。うちのママっていつもは優しいのに、教えることになると厳しいのね。初めて知ったわ」

「それだけ、シャルロットに期待しているんだよ」

 本当は、このコンクールに出たいのは優勝したいからではない。クッキーにジャムを食べて欲しいのだ。

 いつも、作ったときに味見程度には食べてもらっているけれど、できることなら毎日食べてもらいたい。

 でも、素直になれないシャルロットには、そんなことはとても言えない。

 だからコンクールに思いを託すことにしたのだ。このコンクールで優勝すれば、甘いものが大好きなプディング先生が、シャルロットのところにジャムの依頼にくるかもしれない。そうしたら、クッキーに一年間毎日、自分のジャムを食べてもらえるのだ。

 こんな動機でコンクールに応募するのは気が引けたけれど、背に腹は変えられない。目的がどうであろうと、優勝したいっていう気持ちは本物なんだから。

「あ、そうだ。このりんご、スプーンおばさんから。来る途中で会ったの。半分をクッキーに渡してねって」

 手に持っていたバスケットからりんごを半分とって、バスケットのほうをクッキーに手渡す。自分のほうのりんごは、スカートをつまんでバックがわりにした。

「わあ、おばさんのところのりんご、僕大好きなんだ。わざわざありがとう」

 バスケットを両手に抱えたクッキーは、瞳の色とりんごの色がそっくりで、シャルロットはほほえましい気持ちになった。

「報告って、それだったんだね。でもなんで、先生に聞かれたくなかったの?」

「先生に秘密にしたかったのは、このことじゃないの」

 シャルロットが、まわりに誰もいないことを確かめてから耳打ちすると、クッキーは目をぱちくりとさせた。

 クッキーには耳が二種類あるため、いつも内緒話しをするときには、うさぎの耳にしようか人間の耳にしようか悩んでしまう。シャルロットのほうが背が低いから、必然的に人間の耳のほうになってしまうのだけど。

 シャルロットは重大な秘密を打ち明けるかのように、たっぷりと間をとってから、言った。

「あのね、太陽のオレンジって知ってる――?」


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