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ch.23 ジャンクション・ライン

 俺とエドは月曜の昼食を、ドミトリーの食堂で並んで食べていた。

「エド、『孤独の実験』は午前までだっけ?」

「ん? ああ。もう終わりでいいよな」

 よく言うよ。


「女の子とデート楽しかった?」

 エドのフォークが止まって、キャベツがポロっと小皿に落ちた。

「お前も俺を付け回してたのか?」

 俺も?

「付けてないよ。たまたま見かけたんだよ」


 エドは難しそうな顔をしはじめた。

「2人だけになれそうな場所探してたんだけど、なんか変な奴が遠巻きに付いてきててさ。結局、キスしかできなかった」

「え? あの子とキスしたの? どうだった?」

「実際にしてみると、なんか、別に大したもんでもなかったな……」


 俺もユキとキス出来たりするのかな。1回くらいは、しておきたい気もする。

 そんな風に考えていると、またなんとなくムズムズしてきて、一番言わないといけないことを言い忘れてしまった。


 午後はまたARとウマ上げされた船の掃除に行く。


 ARの態度が悪いからか、俺が要領良くなったからか、指導役のお兄さんは俺に楽な仕事をやらせてくれていた。

 ARは相変わらずフジツボ剥がし。


 逆さまにした木箱に座って、よく分からない部品やフィルターを洗いながら、苦労しているARを見ると、つくづく頑張って良かったって思う。


「なんで、体力がない俺がこんなことばっかやって、お前はそんな楽そうな仕事してるんだ?」

「ARの体力が付くのを待ってるのかも」

 ARは両腕を垂らし、コロンとケレン棒を地面に落として、がっくりうなだれた。


「彼女も出来ない、仕事もできない。俺どうしたらいいんだろう」

「彼女なんかいなくても生きていけるよ。それよりコーガク(港湾工学校、騎炉区の高校)にいるうちに、就職先を探しとかないとね」


 ARがケレン棒を拾うのを見ながら、フィルターのクランプを外す。

 こういうのをいじくっていると、贅沢をしていた頃に遊んでいた、ラジコンを思い出す。

 タイヤやモーター、そういう部品を付け替えるのが面白かった。


 そんな思い出のワンシーンも、ARの声で消し飛ぶ。

「俺、パソコン使えるようになりたいんだよ」

「パソコン?」

 ARとパソコン。なんか似合いそうな気はする。


「座ってできる仕事っていいじゃん」

「俺も今座ってるよ」

「そんな汚いフィルターにも触らずに、エアコンの効いた部屋で一日過ごせるんだぞ?」

「この街にそんな仕事ないでしょ」

「勉強頑張って、東高行って、成績良ければやっと向こうの街に行ける……夢のまた夢……」

「そうだね……」


 俺はこっちが好きなんだけど。



 仕事の後、しつこく話しかけてくるARを振り切った俺は、エドとドミトリーの前に行った。


 オウガ君とカゲスゲ君はすでに、門の前で待っていて、それを見たエドが立ち止まった。

「おい、どうなってんだ?」

「あ、ごめん。言っておくの忘れてた。オウガ君達と、一緒に行こうってなって」

「いつなったんだよ?」


 しまった……。


「まあ、週末に色々あって」

「そっか……。じゃあ、一緒に行くか」


 『孤独の実験』の話はかけらも出ない。


 それはさておき、いざ東高へ。

 エドを先頭に、俺とオウガ君が並んで、カゲスゲ君は最後尾を歩き出す。


「エザキって、コーガク行くの?」

「行くつもりだよ。成績危ないけど」

「やっぱ、その方がいいよな。俺も勉強しないとなぁ」

「オウガ君はてっきりギャングになるんだと思ってた」

「なんかそれも違うなって思ってさ……」

 エドに脅かされて、随分と懲りたみたいだ。


 2番街に入ると、空気が美味しく感じられる。このあたりは機動隊の基地も近いから、頭の悪い奴が、ゴミをそのへんにぶちまけたりもしないんだろう。

 ユキのアパートのあたりから、さらに西へ進むと東高の正門に着いた。


 長髪、長身、白シャツ、ブルージーンズでよく目立つタガさんは、一人で待っていた。


「お、エザキと……?」

「エド・リンジです」

「オウガです」

「カゲスゲっす」


 俺以外の3人が名乗ると、タガさんは近くの水路脇にある、ちょっとした緑地に案内してくれた。

 タガさんのすぐ後ろに、俺とエドとオウガ君。カゲスゲ君は少し離れてついてくる。


「今日は午後、仕事だった?」

 タガさんがエドに聞くと、エドは頷いた。


 背もたれのないベンチが2個。

 俺とエド、オウガ君とカゲスゲ君が向かい合わせに座り、タガさんはその間に放った一斗缶に座った。


「オウガ君って、前はヤンキー従えてたんだっけ?」

「あ、オウガでいいっすよ。従えてたっていうか、まあそうですね。今は狙われる側ですけど」


 タガさんは忙しそうに俺達の方もチラチラ見ながら、オウガ君と話す。


「銃撃戦やったって噂になってたけど、本当?」

 オウガ君は気まずそうにエドを見たが、エドは腕を組んでとぼけた。

「いや、それは……ちょっと……違いますね……」


 タガさんはオウガ君が誤魔化し終えるのを待ってから、エドの方を見た。

「オウガ君とエド君は対等なのか?」

 エドはオウガ君を見ながら答えた。

「俺は対等だと思ってますよ。タガさん。あんたともね」

 その言葉を聞いた途端、カゲスゲ君がすごい怒った顔をしたけど、エドはちらっと見ただけで気にしない。

 そしてそのまま続ける。


「この街は弱肉強食。ここ、2番街。あとはドミトリーとか学校がある3番街なんかは、まだいいけど、他のどこにいても警察は助けてくれない。だったら俺達なりの司法を作るしかない」

 タガさんが、嬉しそうに頷いているのを見て、ちょっと驚いた。


「俺達全員が、タガさんをリーダーにしたチームになる。俺達の中の誰かがやられたら、やった奴にはみんなで報復する。それでどうですか?」


 エドが知らない人に、しかも先輩にこんなにたくさん話すとは思ってなかった。

 自分にも、そんなことができたらいいのにと思った。

 なんでかわからないけど。


「それ決めるのは、タガさんだろ?」


 カゲスゲ君が噛みつこうとしたけど、タガさんがそれを遮った。

「エド。相手が川倉だったらどうする?」

「ギャング連中は、ガキには手出ししないって言ってるし、実際そうじゃないですか」


 タガさんは追い詰めるように聞く。

「それでも揉めたら?」


 エドは組んだ腕を下ろしながら即答した。

「抗議するべきです」


 タガさんは立ち上がって言った。

「全部賛成だ。じゃあ、今日から俺達とお前らの学年は一つのチームになる。それでいいな?」


 みんなで頷くと、タガさんも頷いた。

「よし。ただ、問題がある」


 エドが素早く口を挟んだ。

「俺が撃ったやつですか?」

「そうだ。エドが撃ったヤンキー2人だけどな。あいつら川倉に入ったらしいぞ」


 オウガ君がびっくりして立ち上がった。

「あいつら、まだ怪我治ってないんじゃ?」

「内定だ。ケガが治れば、来月どこかの襲撃に駆り出されるらしい」


 エドが首を傾げた。

「なんでそんなに、川倉のことを知ってるんですか?」

「オヤジが仲良くしてるからな」

「え?」


 俺達みんなで固まった。

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