第7話 「それ、先に分かってたの?」
午前十時。
ありさは会議室で、来週の社内ミーティングの準備をしていた。
「ありさ、この会議の資料なんだけど」
悠斗が資料を渡す。
「はい」
「参加者が多いから、質問が出そうなところを先にまとめておいて」
「分かりました」
ありさは資料を開いた。
一枚目。
二枚目。
三枚目。
「……」
「どう?」
「質問、七つくらいです」
「え?」
「この三つは同じ内容なので、一つにまとめられます」
「いや、まだ誰も質問してないけど」
「はい」
「なんで分かるの?」
ありさは不思議そうな顔をした。
「資料を見れば分かります」
「そういうもの?」
「はい」
悠斗は少し嫌な予感がした。
「じゃあ……一番最初に質問するのは?」
ありさは少し考えた。
「課長です」
「なんで?」
「この数字についてだと思います」
「……」
そこへ課長が入ってきた。
「じゃあ、始めようか」
ミーティングが始まる。
説明が進み、課長が資料をめくる。
そして――
「ちょっといい?」
ありさが顔を上げる。
「はい」
「この数字なんだけど」
悠斗が固まった。
美咲もありさを見る。
ありさは普通に答える。
「そこですよね」
「……」
悠斗が小声で聞く。
「なんで分かったの?」
「さっき言いましたよね?」
「いや、そうじゃなくて!」
「?」
「先に分かってたじゃん!」
ありさは少し考える。
「たまたまです」
「たまたまで当てるなよ……」
美咲が笑う。
「ありさって、こういうのだけ妙に鋭いよね」
「そうかな?」
「うん」
「でも私、今日の朝はトースト焦がしたよ」
「そこは関係ないよ」
「あと靴下も片方なくした」
「それも関係ない」
ありさは笑った。
「じゃあ、普通ってことだね」
「どういう理屈?」
その日の昼休み。
ありさが自分のスマートフォンを見る。
「……あれ?」
画面には、まだ誰にも話していない予定が表示されていた。
**明日 14:00 面談**
「……?」
ありさは首を傾げる。
「私、明日面談なんてあったっけ?」
数秒考える。
「まあ、いいか」
スマートフォンを閉じる。
その直後。
画面の通知が一瞬だけ変わった。
**SCHEDULE CONFIRMED**
ありさは気づかなかった。
そして翌日。
午後二時。
「ありさ、ちょっといい?」
課長が声をかけた。
「はい」
「少し話したいことがあるんだけど」
ありさは立ち上がる。
「……面談ですか?」
課長が驚く。
「なんで分かった?」
「昨日、予定に出てたので」
「昨日?」
ありさはスマートフォンを見る。
そこには、何も表示されていなかった。
「……あれ?」
ありさは首を傾げた。
「消えちゃった」
課長は黙ってありさを見る。
ありさは笑った。
「まあ、いいか」
――誰も知らない。
その予定が、誰によって登録されたのかを。




