相談屋の日常‐お手伝い希望の少女りんの話 その陸‐
いつも通りの学校での時間を過ごしました。いつも通りと言っても、私たちは受験生です。他の学年に比べ纏う空気は重くピリピリしています。春ならまだしも、もう二学期も後半に入っています。緩いはずがありません。皆目を爛々とさせ眉間にはしわを寄せた怖い顔をしています。壊れた日常。そこから受けたダメージを学校で癒すことは到底無理な話でしょう。もちろん利点もあります。他人の変化を目敏く見つけては大騒ぎする輩に気づかれず、事を水面下で穏便に済ますことができます。友人から色々言われること程めんどうなことはありません。
霜月に入り、本格的に寒くなってきたこの頃。淡々と過ぎていくこの一日一日が“日常”になってきていました。繰り返されるママへの暴力。パパは何故未だにママを殴るのでしょうか。理由なんてもう無いのではないだろうか。そんな私の疑問など戯言にすぎないのかもしれません。ただ、ただ淡々と学校から帰宅後は二人の、否パパによる一方的な争いを傍観する日々。私は何もできませんでした。
「どうして、パパはママをここまで責めるの?」
なんて聞けるはずありませんでした。徐々に衰弱していくママ。それを見ているだけの私。世界はとても小さくそして残酷でした。ひ弱な、パパに対して反発する力の持たない弱い私は、ママを見殺しにしていたようなものでした。
霜月も終わり「師も忙しさのあまりかけ足をする」師走になりました。志望校を定め、自己PRカードの記入が課せられるなど、まだまだ実感の湧いていなかった受験というものを自身に迫りくるものとして感じるようになりました。三年の教室が集まるこの廊下には時より「俺の長所ってなんだ―――――――――!!!」という叫び声が聞こえます。また同じようなノリで自身の短所って何だと言っている人もいます。羨ましい限りです。
家のことで進展がありました。パパは遂に私にも暴力を振るうようになりました。私の服の下の肌は痣だらけです。私にやるようになったことでママのそれが少しでも緩和されると嬉しいのですが、現実問題それは無理みたいです。ママはさらに衰弱していきました。私はどうしたらいいのでしょうか。パパはどうしてしまったのでしょうか。同じ自問自答を繰り返す毎日。
この“日常”はいつまで続くのでしょうか。
終わりは突然に来るものです。何においてもそうでしょう。その“終わり”から始まるものが一体どういったものなのか。そんなことは誰も理解できません。それを起こす者以外の“他人”には到底無理なお話です。幸せか、それとも絶望か。
それは、絶望でした。私の心を体を全ての器官を、後から思い返すと“自分”だと思えないくらいまでに深く深く真っ暗な感情の渦へと落としました。
ママが死にました。
加速していく物語。