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相談屋の日常‐お手伝い希望の少女りんの話 その漆‐

 ママが死にました。死因は自殺です。“自殺”とはいっても、過労精神的肉体的ストレス栄養不足など付属原因はいくらでも付くでしょう。その日、私が学校から帰宅するとパパは仕事でいませんでした。私はそっとママの様子をママがいる部屋の外から窺ったのです。そこには倒れているママがいました。私は部屋へと足を踏み入れ、ママに触れました。とても冷たかったです。手から伝わる感触は死人のそれを連想させました。もちろん死んでしまった人を触ったのは初めてですからわかりませんが、ただただ冷たかったです。胸は動いていません。脈も感じられません。私の中では様々な感情が入り乱れました。その中でも一番初めに名を付けることができた感情は、喪失感でした。どんな酷い姿でも確かに私の身近にあった温もりが消えてしまったという喪失感でした。ママの横で呆けていた私は、ママの近くのテーブルの上に紙が置いてあるのを見つけました。私はすぐさまその紙を手に取りました。そこにはママから私への言葉が綴られていました。自分だけ逃げてしまってごめんと。今後のあなたの生活に掛かってくるものはここから使いなさい、これの存在はパパは知らないから安心しなさいと。この他にもどれだけ自分が娘のことを思っているのかがひたすら綴られていました。私は自分の頬を何かが伝っているのにも気づかず、何度も何度も繰り返し読みました。そして気のすむまで読んだら、ママの部屋の状態を紙以外元に戻し自室へと上がりました。

 あの後、パパが帰っていました。パパはママを見てどんな反応をみせたかなんてことは私は知りません。私はママを見殺しにしました。私はママが苦しんでいるのを只傍観していたのですから、間接的に私が殺してしまったといっても過言ではありません。私はママを殺しました。けれどそんな私よりママを殺したのは、パパです。パパがママを殺しました。間接的なんて甘いものではなく、直接です。パパがママの首を絞めママを痛みつけママをママをママをママをママを。全ての原因はパパだ。パパがせいでママは死んでしまった。パパがいたからママは傷ついた悲しんだ苦しんだ。ママのストレスはパパが原因となっていたのにパパは悠々とのんきに生きていやがった。ママの苦しみも知らずに、己のストレス発散をママにしていた。此れをパパに問い詰めたらきっと二の句が継げないだろう。最低なパパ。それでも人間か?否、パパは恐ろしいほど“人間”なんだ。“人間”だから弱者を痛み付け快感を得るのだろう。吐き気がでる。家族までもそれの対象にするのか。他人なら“人間”なのだからやるかもしれないが、“家族”までもするか。否、家族だからするのか。世間体を気にするパパのことだ。きっとそうに違いない。

 私の中にパパに対するどす黒い感情が渦巻きました。そして私を覆い尽くしていきました。私の頭の中は常に黒い暗い感情が占めていました。そんな中でも受験のことは忘れなかった私は我ながら面白いと思います。ママの言葉が効いていたのでしょうか。もしそうなら嬉しいですが、悲しくもなります。

 

 年末年始ということで辺りは、奇妙な静けさと盛り上がりを見せています。これは私の家とて同じでした。ママが死んだからといって、パパからの暴力が増えることはありませんでした。その代わり酒の量が増えました。本格的に荒れだしたようでした。それに並行して私の中である計画が練られはじめました。年末年始はこのように賑やかそうで静けな奇妙な空気が流れていました。

 “ある計画”というのはもちろんパパ(ゴミ)の処分です。どうすれば私がやったという形跡を残さずに消すことができるか。挙げられるだけのシチュエーションを挙げ、私は計算しまくりました。考えました。そして、決行日を受験後の三月のある日に定めました。

 直前期の受験生ということで、狂気に満ちた私の瞳に気づく者は誰一人いませんでした。


 受験も見事終わり、本格的に準備を始めました。表面では“華やかな高校生活”を待ち望む子を演じ、裏ではパパ殺害計画を進めていました。感情を制御する事に少々長けていたようで、誰も気づく者はいませんでした。そう、その日までは。

 商店街をいつものように歩いていたその日。私はめずらしくお店の外で、そして久しぶりにクリビアさんに会いました。商店街の人からの相談があり、それの帰りだそうです。私は他愛のない話をしながらも早く帰りたくて仕方ありませんでした。何せこの日はパパを殺す日でした。ここで時間を食ってしまったら今後に影響が出ます。さすがに商店街で誰かに話しかけられ、長居することまでは考えていませんでした。私は内心焦りました。そんな私の思いも届かず、クリビアさんに店に寄っていくように言われてしまいました。クリビアさんからの誘いです。断れるはずがありません。断ったとしてもなんと理由づければいいのでしょうか。私はクリビアさんの誘いに乗りました。

 お店に着き椅子に座るよう促された後、クリビアさんはお茶を取りに奥へと行きました。私はその間始終そわそわしていました。クリビアさんがお茶を持って戻ってきました。そして、私の正面に座るとすぐに開口しました。

「りんちゃん。りんちゃんが最後に僕のお店に来たのは弟さんの遠足があった日以来だね」

「そうですね」

「……僕がその日別れ際に言ったこと、覚えているかい?」

「えっと…」

「『何かあったらまたいらっしゃい。ここは“相談屋”だから』」

「あ」

「そういったんだよ」

「…」

「君は何か僕に相談することがあるんじゃないかな」

「…ない、ですよ。そんなの」

「――――じゃあ聞こうか。なぜそんな狂気に染みた瞳をしているんだい?」

「!」

「周りの人には隠せたのだろうけど、僕にはわかるからね。伊達に“相談屋”は名乗っていないよ」

「…」

 私は二の句が継げませんでした。どうして気づかれてしまったのか、そして気づかれた今どうしたらいいのか。必死に混乱する頭の中で思考しました。

「怒らないから、言ってごらんなさい。聞いてあげます」

 そうクリビアさんは優しい眼差しで口調で言いました。冷たく凍りきっていた、愛に飢えた私の心を溶かすのには十分でした。私は今までのことを洗いざらい吐きました。その間クリビアさんは相槌を打ちながら静かに聞いていました。私が話終えてクリビアさんは第一声こう言いました。

「一人で頑張ったね」

 私は泣いてしまいました。ママが死んでしまってから、いやその前からずっと私は独りでした。一人で考えて一人で抱え込んでいました。寂しかった。助けてほしかった。けれどそう言えずにいました。私が嗚咽を漏らしながら泣き叫びました。クリビアさんはそんな私の頭を撫でていました。長い間泣いて少したった後クリビアさんはこう言いました。

「……君は本当に“パパ”を殺したいかい」

「!」

「どうなんだい?」

「…私は、殺すというより、パパにママの味わった苦しみを味わあせたいだけです」

「そう………わかった」

「え?」

「僕に君のその思い託してくれないかな?」

「?」

「君の、りんちゃんの望む処罰を君のお父さんに与えてあげる」

 そういったクリビアさんに、私はお願いしますっと間を置いてから言いました。そのときのクリビアさんは少しだけいつもと違っていました。いつもはのほほ~んとしているそれが、その時はとても冷たい感じがしました。

 クリビアさんは私の返事を聞いてすぐ、どこかに電話をしました。そしてそのあと私は、クリビアさんと私の家に行きました。そこには、パパとクリビアさんが呼んだと思われる黒ずくめの人が四人いました。そのうち三人がパパを拘束していました。そしてもう一人の人とクリビアさんが二、三言話をすると、黒ずくめの人たちと伴にパパは消えました。クリビアさんは終わったよっと言いました。

 本格的に一人になった私にクリビアさんは、家に来るように言いました。私はすぐにお願いしますと言いました。そして続けて、高校には通わずお手伝いしますと言いました。それに対し、クリビアさんは高校に通うように言いました。お金のことは気にしなくていいと。私は申し訳なくなりました。困惑する私にクリビアさんは、「りんちゃんは遠慮せずに自分の行きたい道を歩みなさい」と言いました。こう言われてしまったら断るなどできません。私は、クリビアさんの家に居候し学校に通うことになりました。



 そして、今に至ります。

 私のこの“物語”が今後の“物語”への序章に過ぎなかったのだと、私が痛感することになるのはこれからずいぶんの後のことでした。

りんちゃんの話完結。

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