優しいんだ
絶対に、来ることは無いと思っていた家
私と、幸紀と、アイツで暮らしていた貧相な家
私は今其処に立っている。
それでもどうしても聞きたかった
なぜ幸紀に逢いにいったのか
どちらかというと『好奇心』より『恐怖』のほうが大きかった
もしかしたら、幸紀の親権を奪いに来たかもしれない
そう、建前上は「旦那の暴力が原因」により別れているが
なぜアイツが酒に溺れたか、私は幸紀や他の人達に話していない
・・・私が・・・あの人の傍から離れたから。であった
その頃私は違う男に惹かれていた
幸紀の世話などせず、毎日のごとく男に逢っていた
それを知ったあの人は・・・・
そしてそれを原因に私はあの人から幸紀を奪った。
最低呼ばわりされても構わない
ただ、それでも幸紀を離したくなかった。
もちろんもう、私には幸紀しかいない
幸紀が離れてしまったなら・・・・私は.....
そんな事を考え、インターホンを押すのをためらっていたら
向こうからやって来てくれた
「安紀・・・?」
あの人はきょとんとした顔で私を見つめていた。ほんと、幸紀そっくり
「ねえ、昨日幸紀に会ったのね」
私はわざときつめの口調で夫・幸哉を問いただした
「えっ・・・・?!どうして・・・・」
幸哉は驚いて手に持っていた箱を落とした。
ラッピングの包装紙から見えたのは、高そうなオモチャだった
「まさか・・・また幸紀に会いに行くつもりだったのね」
「え・・・いや・・・」
「モノで釣ろうっての?!バカじゃない!親権は私のものなの。幸紀にも会わないって約束したじゃない!!!」
「ごめん・・・約束破って」
ほら、またすぐ謝った
貴方はいつだってそう。すぐ自分から折れてくれる
とても、優しい人。
その人から私は宝物を奪っている
罪悪感は残るけど、私だって、幸紀が欲しい。
「お願い・・・これ以上私を・・・私と幸紀を苦しませないで!!」
私は冷たく言い放った。
多分、本心ではないけど
「・・・・・わかった。ごめん」
幸哉はとても、とても悲しそうな顔をした
ああ、苦しませてるのは私の方だ
最低だよね、幸紀?
補足ですが、語り手は安紀
その夫は幸哉です
その二人の子が幸紀です