幸せなんだ
「ねえ、知ってた?今日『中秋の名月』が見られるの」
私は朝、幼稚園に向かう途中幸紀にそう告げた
「ちゅーするめだかぁ~?」
幸紀はきょとんとした顔で私を見つめた
「違うわ、『ちゅうしゅうのめいげつ』っていうのは、とてもきれいなおつきさまのことなの」
「おつきさまはいつもきれいだってママいってたじゃない」
「そうね、でも今日は特別。うんと綺麗よ」
私と私の息子「こうき」は3年前。酒に溺れ、どうしようもなくなってしまった暴力亭主から
逃げるために、このボロいアパートに逃げ込んだ
幸い大家さんは優しいし、主人も後をつけてこなかったので、今は私達二人でのんびり暮らしている
確かに裕福ではないかもしれないが、幸紀の傷が増えてしまうよりましだった。
幸紀を幼稚園に送ったあと、私はふと主人の事を考えた。
「今頃どうしているだろうか」
「また酒に溺れていないだろうか?」
「借金なんて、抱えていないだろうか?」
・・・・私を必要としているだろうか・・・・
そんな考えが頭によぎったとき、それを消すかのように私は頭を強く振った
もう、あんなやつのことは忘れた筈なのに
今日はどこかおかしいようだ
あの男がどうなろうと私の知ったことではない
私は幸せなんだ
わたしはしあわせなんだ
9月22日の中秋の名月記念ということで
2,3話で終わる予定です
あ、決してホラーではありません((