エピローグ
ここはシュートか。パスか。
ロスタイムまで残りわずか。
迷うな。自分の意思を貫け。
夕日が沈みかけている河川敷では、少年達が砂埃を舞わせながら無我夢中にボールを追い走っていた。
この位置なら打てる!
高らかにボールを蹴り上げたのは結だった。
蹴り上げられたボールはキーパーの手の数センチ先を通り、ゴールネットを見事に揺らした。
ピッピッピーー。
決まったと同時に試合の終わるホイッスルが鳴り響いた。バスケットボールで言うなればブザービートのような終わり方だった。
「よっしゃーー!」
「結ナイスシュート!」
「今日も勝ちだなー!」
歓喜の声の中心で揉みくちゃにされながら、試合の勝利を大いに喜んだ。
「やっぱサッカーって楽しいよなー!」
「次こそはこのメンバーで全国いけるようにこれからも頑張ろうな!」
結は仲間達と来年の少年サッカー大会に向けて意気込みを語り合っていた。
「じゃあ、また来週な!」
「またなー!」
今後のサッカーライフを語り尽くし、結は河川敷を後にした。
「ただいまー。」
家に着き、玄関で泥だらけのユニホームを脱ぎ風呂場に直行しようとした。
「あ、おかえりー!ちーばあちゃん来てるからお風呂出たら挨拶して〜」
リビングの所からひょっこりと顔を出したのはお母さんだった。
「了解〜、すぐ入ってくるわー。」
返事をした結は真っ先に浴槽にダイブした。
「おっす!ちーばあちゃん。」
「久しぶりだね〜。結くんまた背伸びたね。」
「いやいや、先週会ったばかりでしょ。」
「そうだったね〜。けど先週から2mmくらい伸びたよ〜。」
「そうかなー。」
2mm伸びたとか分かる人いないだろ。と、内心では思いつつ返事をした。
「あ!ハワイのお土産買ってきたよ〜」
「お!なになに?」
「結くんにはこれ、はい。」
渡されたのは、日本の書店ならどこにでもありそうな漫画本だった。
「あ、ありがとうなんだけど、これハワイで買ってきたの?」
「これはハワイ行く前に成田空港で買ったよ。」
「ん?それハワイのお土産って言うのかな?しかもだよ?俺サッカー少年なのに、これ野球漫画だよね?」
「その本も一応ハワイには行ってるから、ハワイのお土産ってことでいいんじゃない?野球漫画だけど違うスポーツからも学べることもあるよ!・・・たぶん。」
と、お母さんの微妙なまとめ方で話は終わった。
ちーばあちゃんと家族で夕飯を食べ終え、部屋に戻った結は、先程貰った漫画を眺めていた。
まあ、折角貰ったわけだし読んでみるか。
このハワイのお土産の野球漫画をきっかけに結は大きな転機を迎えることになった・・・。
瞼の重い目を擦りながら結は学校に向かっていた。
眠すぎる。夜更かしなんていつぶりだろう。と、思いながら歩いていると・・・。
どーーんっ!
「痛っ!」
「おっはよー結!」
朝からハイテンションの幼なじみである月に突撃された。
「痛ーなー。朝っぱらからなんだよ。」
「なんだよじゃないよ!亀みたいにノロノロ歩いてるんだもん。ん、なんで月曜からそんな眠そうなの?」
「な、何でもいいだろ。ちょっと漫画を夜通し読んでただけだよ。」
「何でもいいとか言っといてちゃんと答えるんだね。」
軽く揚げ足を取られ少しイラッときたが、寝不足のせいか言い返す気力すらない結は、そうですね〜と軽く返事をし、再び重たい足取りで学校へと歩き始めた。
補足だが、幼なじみの月とは家が近所で母親同士もとても親交が深く、幼い頃からよく遊んでいた。
教室に着くや否や、担任の先生から今日は全校朝礼だから体育館に向かえーと、伝えられ気怠そうにしながらも、荷物を置き体育館へと向かった。
「え〜、〜〜であるから〜、そのように〜〜。」
毎度毎度の事だが、何故校長の話はこんなにも長いのだろうと疑問に思いながら、全く頭に入ってこない話をおよそ15分程聞いていた。
結にとっては退屈な話であるが故に、校長先生の話が終わる前には爆睡状態であった。
「えー、では続いて表彰式の方に移りたいと思います。まず、サッカークラブキャプテン藤坂君。副キャプテン飯塚君前へ。」
校長先生の話が終わりと同時に表彰式が始まった。
「おい、結呼ばれてるぞ。起きろよ。」
「ん。なんだよー。」
「いや、お前呼ばれてるよ早く前行けよ!」
「うーん。」
結の中で校長先生の話よりも睡魔が勝ってしまっていたのだった。
起こされた結は、重い瞼を擦りながら立ち上がり前に歩み出た。完全に脳内はまだ目覚めていない状態だった。
「前日まで行われた少年サッカー市大会で見事優勝したサッカークラブに栄誉を示し、これを表彰します。」
表彰状とトロフィーの授与が行われた。
「では、最後にキャプテン。副キャプテンから今後の抱負を一言述べて頂きます。」
「僕たちは市で1番で満足せず、これからもチーム一丸となって全国大会へ行けるように頑張って行きたいと思います。」
隣の藤坂が今後の抱負を述べると拍手が起こり、そして、司会進行を担当していた先生が次は副キャプテンです。と、合図を送った、、、。
が、しかし、未だ目が覚めてはいない結はピクリとも反応が無かった。
「おい、結の番だぞ。」
「んー。何が?」
「抱負だよ、抱負。何でもいいからとりあえず言え。」
隣の藤坂が小声でそう伝えると、結は頷いた。
そして、、、。
「俺は将来プロの野球選手になる!!」
、、、。
「はぁーーーーーー!?!?!?」
静寂な沈黙がおよそ3秒ほど続き、体育館に集まっていた全員が同じ反応を示した。
何故か、言った当の本人も同じ反応を示していたのだった。




