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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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47/47

第47話 一つだけの答え

47話です。

礼拝堂は、まだ静かだった。


静かすぎた。


誰も動かない。

誰も咳払いをしない。


子どもたちの視線が、

前に集まっている。


逃げ場はない。



司祭は、目を閉じた。


長い時間ではない。


だが――


考えている時間だった。


王都で、最も許されていない時間。



「……秩序は」


司祭が、ゆっくり口を開く。


声が、わずかに低い。


「秩序は」


一拍。


「弱い者を守るためにある」


礼拝堂に、微かな揺れが走る。


それは、美しい答えだった。


誰もが納得できる形。


誰も否定しにくい言葉。


だからこそ――


危険だった。



子どもたちは、すぐに動かなかった。


沈黙。


だが、それは停滞ではない。


処理の沈黙。



石段の子が、立つ。


ゆっくりと。


急がない。


「質問」


司祭は頷く。


「どうぞ」


子どもは言う。


「弱い者って、誰ですか」


その問いは、優しかった。


だが、鋭かった。



司祭は答える。


「支えがなければ、生きられない者」


子どもは頷く。


一拍。


「じゃあ」


「理由を書かない人は、弱いですか」


礼拝堂の空気が、固まる。



司祭は、即答しなかった。


だが、逃げなかった。


「……状況による」


曖昧な答え。


だが――


逃げきれていない。



別の子が立つ。


「質問」


「どうぞ」


「前例の子は、守られましたか」


その言葉で、空気が裂けた。


名前は出ない。


だが、全員が同じものを思い浮かべる。


布団の中の、静かな顔。



司祭の指が、わずかに動く。


初めての動揺。


「……あれは」


言葉が止まる。


初めて、止まる。



「守るための秩序なのに」


子どもは続ける。


「どうして守られなかったんですか」


その問いは、静かだった。


だが――


逃げ道を完全に塞いでいる。



役人が口を開こうとする。


だが、司祭が手で止めた。


そして――


言った。


「……守れなかった」


礼拝堂が、揺れた。


誰も声を出さない。


だが、空気が変わる。



その一言で、すべてが変わった。


「守るため」と言った秩序が、

「守れなかった」と認められた。


それは、失敗の認定ではない。


前提の崩壊。



子どもは、さらに聞く。


「じゃあ」


一拍。


「どうすれば、守れますか」


司祭は、答えられなかった。


今度は、本当に。



沈黙。


長い沈黙。


礼拝堂全体が、その中に沈む。


誰も動かない。


誰も助けない。



その時。


後ろの席から、声がした。


大人の声。


「……考えないと、守れない」


一人。


また一人。


「理由を書くだけじゃ、足りない」


「見てないと、分からない」


声は、小さい。


だが、増える。



司祭は、それを止めなかった。


止められなかった。



私は後ろで立っている。


何もしない。


だが、分かる。


これはもう、戻らない。



「先生」


誰かが、小さく呟いた。


誰に向けた言葉かは、分からない。


だが――


継承された呼び方だった。



王都は今日も静かだ。


鐘も鳴る。


配給も行われる。


だが――


礼拝堂の中で、


秩序が“守れなかった”と認められた日だ。


火は、もう小さくない。


誤字脱字はお許しください。

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