表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/46

第46話 答えなければならない日

46話です。

通達は、その日の夕方に出た。


短い文だった。


だが、王都の空気を変えるには十分だった。


明日、礼拝堂にて

「理由記入指導」に関する公開説明を行う。


説明。


命令ではない。

禁止でもない。


答えるという意味だ。



役所の部屋は、いつもより静かだった。


上役が机に肘をつき、指を組んでいる。


書記が、低く言う。


「……本当にやるのですか」


上役は頷いた。


「質問は止められない」


一拍。


「ならば、説明する」


書記は小さく首を振る。


「説明は、問いを増やします」


上役は答えた。


「問いを無視すると、

 もっと増える」


沈黙。


それは、役所が一番嫌う種類の沈黙だった。



翌日。


礼拝堂には、人が集まっていた。


子ども。

親。

市場の人間。


説明会の時より多い。


理由は単純だ。


今度は答えが出ると思われている。


それだけで、人は集まる。



司祭が前に立つ。


役人が隣に座る。


紙が机の上に並ぶ。


準備された答え。


準備された説明。


準備された秩序。


だが――


前列に座っているのは、

あの子どもたちだった。


石段の子。


余白の子。


途中と書いた子。


そして、数人増えている。


誰も命じていない。


それでも、前に座る。



司祭が口を開く。


「昨日の質問について」


声は落ち着いている。


説教の声。


王都で最も長く続いてきた声。


「理由を書くのは」


「秩序を守るためです」


礼拝堂に沈黙が落ちる。


それは、受け入れの沈黙ではない。


次を待つ沈黙。



石段の子が立つ。


誰も止めない。


「質問」


司祭は頷く。


「どうぞ」


子どもは言う。


「理由を書かないと、秩序が乱れるのは、どうしてですか」


司祭はすぐに答えた。


「説明できない行動は、不安を生むからです」


子どもは頷く。


一拍。


「じゃあ」


「理由を書いても、不安が消えないときはどうするんですか」


礼拝堂が揺れる。


それは物理的な揺れではない。


思考の揺れ。


司祭は、言葉を選ぶ。


「それは、教育で改善します」


別の子が立つ。


「質問」


司祭の眉がわずかに動く。


「どうぞ」


「教育で理由を書くようになった人が、

 本当に納得しているかは、どうやって分かるんですか」


役人が、初めて身じろぎした。



質問は、止まらなかった。


「理由を書く理由は誰が決めましたか」


「理由を書くことは自由ですか」


「理由を書かないことは、どうして悪いんですか」


一つ一つは、小さな声。


だが――


連続している。


それが恐ろしい。



役人が、初めて前に出た。


「質問は順番に」


声が少し硬い。


子どもが聞く。


「順番は誰が決めますか」


礼拝堂がざわめく。


役人は答える。


「管理者だ」


「なぜ」


一拍。


役人は言う。


「秩序のためだ」


子どもは頷く。


「秩序は誰のためですか」


その問いで、空気が変わった。


今までとは違う。


これは――


制度の中心を刺す質問。



司祭が口を開こうとする。


だが、言葉が出ない。


役人も、書記も、誰も。


理由を書く理由。


秩序の理由。


管理の理由。


すべて説明できるはずだった。


だが――


続けて聞かれると、足りない。



礼拝堂の後ろで、誰かが笑った。


小さな笑い。


馬鹿にした笑いではない。


気づいた笑い。


それは、火種だった。



私は後ろから見ている。


何もしない。


何も言わない。


だが、はっきり分かる。


これは反乱ではない。


革命でもない。


ただ――


教育の結果だ。



子どもたちは叫ばない。


机も叩かない。


石も投げない。


ただ、質問する。


それだけで、


司祭は沈黙し、

役人は紙を見つめ、

説明会は終わらない。



王都は今日も静かだ。


だが――


礼拝堂の空気は変わった。


初めて、


制度が、子どもに説明できなかった日だ。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ