第43話 同じ場所
43話です。
最初は、偶然だった。
放課後。
校舎の裏。
理由を書く授業のあと、
子どもたちは
まっすぐ帰るのが
正しい。
だから、
誰も立ち止まらない場所。
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一人が、
石段に座っていた。
あの子だ。
理由欄を空けた子。
何をするでもなく、
膝に紙を置いている。
書かない。
破らない。
ただ、
持っている。
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少し離れた場所に、
もう一人。
同じ紙を、
折っている。
理由欄は、
空白。
余白に、
小さな文字。
「まだ」
二人は、
目を合わせなかった。
合わせる理由が、
なかったから。
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三人目が、
来た。
井戸の列に
最近並ばなくなった子。
歩きながら、
紙を見ている。
同じ様式。
同じ空白。
石段の子が、
ふと顔を上げた。
目が合う。
それだけ。
合図は、
ない。
だが――
三人とも、
同じ場所に
座った。
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「……書いた?」
誰かが、
小さく聞く。
石段の子が、
首を振る。
「まだ」
三人目が、
頷く。
「私も」
沈黙。
だが、
重くない。
初めて、
説明しなくていい沈黙。
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「先生が」
二人目が言う。
その言葉に、
全員の肩が
わずかに動く。
名前は、
出さない。
出さないのが、
安全だから。
「考えてるって
書いたら」
「……怒られた?」
石段の子が、
聞く。
二人目は、
首を振った。
「怒られなかった」
「でも」
一拍。
「見られた」
三人とも、
頷く。
それは、
同じ経験だった。
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四人目が、
来た。
少し遅れて。
立ったまま、
言う。
「……ここ、
理由書かない人?」
誰も答えない。
だが、
誰も否定しない。
四人目は、
そのまま座った。
それで、
十分だった。
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「……何で、
書かないの?」
誰かが、
聞く。
石段の子が、
考えてから言う。
「書くと」
一拍。
「終わる気がする」
三人目が、
小さく笑った。
「分かる」
二人目が、
続ける。
「私、
理由を三回
書き直した」
「でも」
一拍。
「全部、
違う気がして」
四人目が、
紙を広げる。
理由欄は、
白い。
余白に、
一言。
「途中」
⸻
その言葉で、
空気が変わった。
途中。
終わりでも、
始まりでもない。
ただ、
続いている状態。
「……いいね」
誰かが、
呟く。
四人目は、
驚いた顔をした。
「いいの?」
石段の子が、
頷く。
「終わってない感じ」
それが、
この場所の
最初の共通語になった。
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遠くで、
足音がした。
四人は、
一瞬だけ
静かになる。
逃げない。
隠れない。
ただ、
話を止める。
それだけで、
十分だった。
足音は、
通り過ぎた。
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その夜。
清掃の女は、
また紙を拾った。
余白に、
新しい言葉。
「途中」
彼女は、
袋に入れる。
数は、
三十を超えた。
だが、
数えなかった。
揃っている
という感覚だけが
あった。
⸻
役所では、
別の報告が上がる。
「……児童同士の
非公式な接触が
増えています」
上役が、
低く聞く。
「内容は」
書記は、
答えた。
「……不明です」
沈黙。
制度は、
名前を付けられないものを
最も恐れる。
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夜。
私は、
紙に一行書いた。
・余白(子)→集合
それだけ。
理由は、
書かなかった。
外で鐘が鳴る。
今日も王都は静かだ。
だが――
余白を書いた子どもたちが、
互いを見つけた日だ。
誤字脱字はお許しください。




