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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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42/46

第42話 余白係

42話です。

最初に気づいたのは、

清掃の女だった。


授業が終わったあとの教室。

床に落ちた紙くずを拾う。


それが、

仕事だ。



紙は、

半分に折られていた。


名前は、

書いてある。


理由欄は、

空白。


余白に、

小さな字。


「まだ」


女は、

一瞬だけ

立ち止まった。


それから、

紙を捨てなかった。



翌日。


同じ教室。


同じ時間。


また、

似た紙が落ちている。


理由欄は空白。

余白に、

別の言葉。


「決めてない」


女は、

二枚を重ねた。


理由はない。


ただ、

似ていると

感じただけだ。



三日目。


四枚。


五日目。


八枚。


女は、

紙を袋に入れた。


ごみ袋ではない。


自分の袋だ。



女は、

読み書きが

得意ではない。


だが、

空白は読める。


書かれていないことは、

誰にでも分かる。


「……多い」


それが、

彼女の感想だった。



女は、

誰にも言わなかった。


報告もしない。


相談もしない。


ただ、

集めた。



ある夜。


倉庫の裏。


女は、

人影を見つけた。


私だった。


彼女は、

私を知らない。


だが――

紙袋を見せた。


言葉は、

いらなかった。


私は、

中を見た。


理由欄は、

すべて空白。


余白に、

小さな言葉。


「まだ」

「分からない」

「考えてる」

「終わってない」


数は、

二十を超えていた。


私は、

息を止めた。



「……捨てるところでした」


女が、

そう言った。


「でも」


一拍。


「揃ってる

 気がして」


私は、

頷いた。


「揃っています」


女は、

驚いた。


「読めるんですか」


私は、

答えた。


「ええ」


「何て

 書いてあります?」


私は、

少し考えてから

言った。


「考え続けている」


女は、

黙った。


それは、

誇らしい沈黙ではない。


納得の沈黙だった。



女は、

恐る恐る聞いた。


「……これ、

 悪いものですか」


私は、

即答した。


「いいえ」


「なら」


女は、

紙袋を

私に差し出す。


「……持っていて

 もらえますか」


私は、

首を振った。


「あなたが

 持っていてください」


女は、

戸惑った。


「私が?」


私は、

頷いた。


「余白は、

 拾った人のものです」


女は、

紙袋を

抱え直した。


それは、

武器でも、

証拠でもない。


存在の束だった。



翌日。


役所に、

奇妙な報告が上がる。


「……理由欄の

 未記入率が

 下がりません」


上役が、

苛立つ。


「指導している

 はずだ」


書記は、

首を振る。


「理由を書かず、

 余白に書く例が

 増えています」


上役は、

顔を上げた。


「余白?」


「はい」


「誰が、

 回収している」


書記は、

答えられなかった。


誰も、

 回収していないからだ。



夜。


女は、

紙袋を

棚の奥に置いた。


隠したのではない。


保管した。


理由欄は、

管理される。


だが――

余白は、

まだ誰のものでもない。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

余白が、

 集まり始めた日だ。


誤字脱字はお許しください。

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