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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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40/41

第40話 前へ

40話です。

呼ばれたのは、

昼休みの終わりだった。


名指しは、

静かだった。


だから、

逃げ場がなかった。



「前へ」


副監督官が言う。


理由欄を空けた、

あの子だ。


子どもは、

立ち上がる。


周囲の子は、

視線を落とした。


見ないことが、

正解だと知っている。



教室の前。


黒板の横。


チョークは、

置いてある。


使われないために。


「理由を、

 書かなかったね」


副監督官の声は、

穏やかだ。


怒りも、

苛立ちもない。


だから、

危険だった。


子どもは、

頷いた。


「どうして?」


副監督官は、

問いを短くした。


子どもは、

少し考える。


教室の空気が、

張る。


考える時間は、

許されていない。


それでも、

子どもは答えた。


「……決められなかった」


副監督官は、

微笑む。


「理由は、

 決めるものだよ」


子どもは、

首を振った。


「決まったら、

 書く」


その言葉で、

誰かが息を呑んだ。



副監督官は、

一歩近づく。


「決まらない、

 という理由は?」


子どもは、

即答しなかった。


それでも、

逃げなかった。


「……書くと」


一拍。


「もう、

 考えなくて

 よくなるから」


教室が、

完全に静まる。


副監督官の目が、

わずかに揺れた。


「考えなくて

 いいのは、

 良いことだ」


子どもは、

ゆっくり言った。


「でも」


一拍。


「まだ、

 考えている」



副監督官は、

黒板に向き直る。


何かを書くためではない。


間を作るためだ。


「君は」


背中を向けたまま

言う。


「皆の前で、

 正解を示していない」


子どもは、

頷いた。


「はい」


「それは、

 混乱を招く」


子どもは、

視線を上げる。


「……混乱は、

 悪いですか」


副監督官は、

答えなかった。


答えが、

用意されていなかったからだ。



「席に戻りなさい」


その声は、

少しだけ

硬かった。


子どもは、

頷き、

席に戻る。


歩き方は、

変わらない。


誇らしくも、

怯えてもいない。


ただ、

戻った。



昼休みのあと、

新しい通達が

読み上げられた。


「今後」


「理由欄の未記入は、

 指導対象とする」


誰も、

驚かなかった。


予想通りだったからだ。


だが――

続きがあった。


「ただし」


一拍。


「記入内容の正誤は

 問わない」


教室に、

小さなざわめき。


子どもは、

机の下で

拳を握った。


正解が、

 どうでもよくなった。


それは、

制度の譲歩に見えた。


だが、

違う。


書かせること自体が、

 目的になったのだ。



放課後。


私は、

遠くから

その話を聞いた。


紙に、

短く書く。


・前に呼ばれる

・正解は問われない

・記入が目的


そして、

一行、

余白に書き足す。


「考えている」は、

 まだ処理できない


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

子どもが前に立ち、

 考え続けることを

 やめなかった日だ。


誤字脱字はお許しください。

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