第39話 白い欄
39話です。
申告書は、学校にも届いていた。
配給所だけではない。
井戸だけでもない。
教育の場にも、
理由欄が来た。
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教室の机に、紙が配られる。
副監督官が言う。
「最近、
集団活動に
参加しない例が見られます」
「理由を、
書いてください」
声は、
いつも通り穏やかだ。
だから、
危険だった。
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子どもたちは、
紙を見る。
名前。
居住区。
参加しなかった活動。
そして――
理由。
鉛筆が、
一斉に動く。
短い言葉。
「体調」
「用事」
「忘れた」
どれも、
教えられた安全な答え。
副監督官は、
満足そうに歩く。
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一人の机で、
足が止まった。
理由欄が、
白い。
名前は、
書いてある。
項目も、
埋まっている。
だが――
理由だけが、
空白。
「……書き忘れた?」
副監督官が、
穏やかに聞く。
子どもは、
首を振った。
「書かなかった」
教室の空気が、
わずかに張る。
「どうして?」
副監督官は、
声を落とした。
子どもは、
少し考えてから
言った。
「……理由って、
決めるものじゃ
ないから」
その言葉は、
小さかった。
だが、
教室の端まで
届いた。
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副監督官は、
微笑もうとした。
だが、
口角が動かなかった。
「理由がない
わけでは
ないだろう」
子どもは、
首を傾げる。
「あるかもしれない」
「でも」
一拍。
「今、
書くと
嘘になる」
沈黙。
それは、
教師が教室で
最も恐れる沈黙だ。
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「……後で
書きなさい」
副監督官が言う。
子どもは、
頷いた。
だが――
紙を折り、
しまった。
書かなかった。
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放課後。
副監督官は、
役所に報告した。
「……児童一名、
理由未記入」
上役は、
即座に聞いた。
「指導は」
「……困難です」
「なぜ」
副監督官は、
正直に答えた。
「間違っていない
からです」
沈黙。
上役が、
低く言う。
「子どもだぞ」
副監督官は、
続けた。
「はい」
「だから」
一拍。
「正解を
書かなかった」
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その夜。
家で、
母親が聞く。
「学校、
どうだった?」
子どもは、
答える。
「……理由を
書かなかった」
母の手が、
止まる。
「どうして?」
子どもは、
首を振った。
「分からなかった」
母は、
息を吸い、
吐く。
「……それは、
良くない」
子どもは、
静かに言った。
「分からないのに
書く方が、
良くないと思う」
母は、
何も言えなかった。
それが、
この家で
初めての沈黙だった。
教え込まれていない沈黙。
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翌日。
同じ教室で、
もう一人、
理由欄を空けた。
その翌日、
さらに一人。
理由は、
伝播しない。
だが――
空白が、
増える。
数ではない。
白さとして。
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私は、
その報告を
遠くから聞いた。
紙に、
一行だけ
書き足す。
・理由を書かない(子)
それは、
今までで
一番危険な項目だった。
外で鐘が鳴る。
今日も王都は静かだ。
だが――
理由欄が、
教育によって
空白にされた日だ。
誤字脱字はお許しください。




