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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革王都裁判編〜』  作者: くろめがね


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38/41

第38話 理由欄

38話です。

紙は、増えた。


掲示板の一番目立つ位置に、

新しい様式が貼られる。



不参加理由申告書


・氏名

・居住区

・不参加項目(配給/井戸/説明会 等)

・理由(簡潔に)


最後に、小さな文字。


※虚偽の申告は、

 指導対象となります。


それだけで、

十分だった。



最初に並んだのは、

老人だった。


配給を受け取らなかった者。


係員が、

紙を差し出す。


「理由を」


老人は、

しばらく紙を見てから

言った。


「……書けません」


係員は、

慣れた声で言う。


「簡潔で

 構いません」


老人は、

首を振った。


「簡潔に

 できる理由なら、

 来ていました」


係員の手が、

一瞬止まる。


だが、

言い返さない。


規定外の答えだった。



次は、

若い母親。


井戸に来なかった者。


紙を受け取り、

指が止まる。


「……これ」


「何でしょう」


「理由が

 先に決まっている

 気がします」


係員は、

答えなかった。


答えられなかった。



昼までに、

申告書は

十数枚集まった。


だが――

理由欄は、

 ほとんど空白だった。


書かれているのは、

短い言葉だけ。


「都合」

「体調」

「個人的事情」


どれも、

理由にならない。


だが、

嘘でもない。



役所の一室。


書記が、

報告する。


「……理由が

 集まりません」


上役が、

眉をひそめる。


「書いているだろう」


「形式上は」


書記は、

紙を差し出す。


「ですが、

 判断できません」


上役は、

紙を読む。


「都合」


「事情」


「……これでは

 何も分からん」


書記は、

小さく言った。


「分からない

 ままにするための

 書き方です」


上役の視線が、

上がる。


「誰が、

 そんなことを」


書記は、

答えなかった。


答えは、

分かっていたからだ。



夕方。


配給所で、

小さな騒ぎが起きた。


係員が、

申告書を突き返す。


「これでは

 理由にならない」


男が、

静かに聞き返す。


「理由とは、

 何ですか」


係員は、

言葉に詰まる。


「……参加しない

 合理的根拠だ」


男は、

頷いた。


「では」


一拍。


「参加する

 合理的根拠は

 どこにありますか」


周囲が、

凍りつく。


係員は、

声を落とす。


「……書き直してください」


男は、

紙を受け取り、

折り畳んだ。


書き直さなかった。


帰った。


それだけだ。



その夜。


倉庫の裏ではなく、

市場の裏でもなく。


別々の家で、

同じことが起きていた。


人々が、

理由欄を

空白のままにする。


あるいは、

書いた理由を

読めなくする。


文字を、

崩す。


意味を、

ぼかす。


理由を、

 渡さない。



私は、

紙に新しい項目を

書き足した。


・来ない

・理由を書かない


二つは、

違う。


だが――

同時に起き始めている。


外で鐘が鳴る。


今日も王都は静かだ。


だが――

理由が、

 制度にとって

 回収不能になった日だ。


誤字脱字はお許しください。

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