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第6話 残酷なお告げ。


「私がジャン様の婚約者だった事......ご存知なのですね」


「ええ。私は全てを知っています。あなたとジャン王子が、どんなに愛しあっていたのかも。そして、その婚約を一方的に破棄してしまった事も」


 そこまで言って、彼女の反応を見る。メアリーは、とても辛そうに見えた。心の中にも、わずかに後悔の念が見える。


「仕方がなかったのです。王国最高の聖騎士である、ワトソン・ディンドリー様に見初められてしまったのですから。国王様も、私がワトソン様のものになるのを承諾されていました。ジャンの事は忘れて、聖騎士の妻になれと、そうおっしゃいました。私も父も、その言葉に従うしかありませんでした」


 やはり父上の差し金か。あのクズ国王が。八つ裂きにしてもまだ足りない。


 僕は各個人の思考、決定された様々な意思が複合して生まれる「未来」を予知する事は可能だ。だが、誰がいつ、何処で何を話したかまでは知る余地がなかった。


「では、あなたはまだジャン様を、愛しておいでなのですね」


 僕はメアリーに問う。お願いだ。愛していると言ってくれ。そうすれば君の事は救える。罰するのは、ワトソンだけになる......!


 だが僕が読み取ったメアリーの思考は、ワトソンと交わした男女の交わり。それがいかに彼女に快楽をもたらしているか。身も心も既にワトソンのモノになっていると言う、強い意思だった。


 その淫靡な光景が、僕の心をズタズタに切り裂く。


「私は、ジャン様ではなく......今はワトソン様を愛していますわ」


 メアリーはキッパリとそう言った。どうやらもう、後戻りは出来ないようだ。


「そうですか......分かりました。ではあなたに、少々残酷な事を告げなくてはなりません」


 僕は深呼吸した。メアリーの目が、不安そうに見開かれる。


「残酷な......それが、神のお告げですか?」


「ええ、その通りです。お告げによれば、どうやらあなたを毒殺しようと企んでいる者がいるようです。その者は、あなたを心配する振りをして、あなたに毒入りの食事を与えようとするでしょう。ですが騙されてはいけません。自分の身は自分で守るのです。いいですね」


 僕はそれだけ伝えると、きびすを返して立ち去ろうとした。


「お待ち下さい、ジャンヌ様! 私は、私は一体どうすれば......!」


 メアリーの声は、恐怖に満ちていた。


「もはや手遅れです。お告げでは、あなたを唯一救える筈だったのはジャン王子でした。ですが彼は、きっともうあなたを助けたりはしないでしょう。あなたの心にはジャン様への愛がない事を、彼はもう気付いているからです。ですから先程お伝えしたように、自分の身は自分でお守り下さい。では、さようなら」


 僕は彼女を振り返らずにそう言った。そしてゆっくりと部屋を退室し、ドアを閉める。


「そんな......! 助けて、助けてジャン! ああ......! お願いジャン......! 私が間違っていたの......! あなたにあんな事を......! 許して......!」


 メアリーの叫ぶ声が聞こえた。もちろん僕に言っている訳ではなく、彼女の心の中にいる哀れな第三王子に謝罪しているのだろう。


 僕が彼女に告げた言葉は嘘だ。誰も毒殺など企んではいない。だが聖女ジャンヌのこれまでの予言の数々。それによって救われた人々の証言。全てが聖女ジャンヌを信頼に足る、そして崇拝に値すべき存在として確立させていた。


 その為に、僕は予言やお告げをハンカチや手紙など、形に残る物に示してきた。全ては嘘を本当にする為。聖女ジャンヌの告げる言葉は、全て真実。それによって、人心を支配するのが目的だった。


 使用人やメイドに見送られ、シュリーレン邸を後にする。


 僕には見える。メアリーの未来が。誰も信じられなくなった彼女は食事を一切取らなくなり、人を寄せ付けなくなる。そして心配してやってきたワトソンが食事を彼女に食べさせてようとした時......! 護身用の短剣でワトソンの喉を刺し貫く。


 ワトソンは絶命。メアリーも自害する。


「ふふっ。見事な聖女ぶりでしたよ、ジャンヌ様。おや......何故泣いているのですか?」


 僕は涙を手で素早く拭い、不思議そうにしているキリクに笑って見せた。


「嬉し涙さ。罪人に罰を与えた喜びを、噛み締めていたんだ」


「そうでしたか。ふふっ、なるほど」


 いや......キリクにはそう言ったけれど、きっとそうではないのだろう。メアリーの謝罪の言葉に、心を動かされてしまったのだ。


 こんな事ではいけない。王国を滅ぼすには、王族を全員殺さなくてはならないんだ。母上の名誉を回復する為には、皆殺しにしなくてはならないんだ。


 情けをかけてなど、いられない。僕はギリッと歯を食い縛り、歩き続けた。


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