第64話
和也とセレスが魔法陣をくみ上げている間、暇な俺たちはせめてとセシルがいた村を片付けることにした。
とりあえず崩れ落ちている家屋などを片付け、残っていた遺品などを先ほど作った墓石の前へと備えていく。
「…にしても、やっぱり腑に落ちないんよなぁ…」
「なにが?」
ぽつりとつぶやいた言葉に瑠衣が反応した。
村を片付けることによって魔族がどんな感じで攻めていたか。どれくらい本気でやっていたかがわかってくる。
一応神徒の遺跡で虚空にその場面を見せてもらってはいたが、それでわからないことを実際の現場に行くことでわかることもある。
「なんというか、容赦がないというか…徹底的にやりすぎてるんよな」
村の中には食料の保存庫として作られたであろう地下室もあった。
しかしその地下室も徹底的に破壊されており、中にあった樽や壺も砕け散り、あまたの食料が散乱していた。
そこまでの徹底ぶりからして、やはりあの襲撃は何者かの指示によるものであり、あの魔族が独断で行ったという可能性は低く感じられた。
そしてその手口がセレスティアと聖都で関わった魔族のやり方と同一とは到底思えない手口だ。
瑠衣も遺跡で俺が言っていたことを思い出したようで考え込むように呟く。
「やっぱりやり方が違うよねぇ。でもどうしてここまで差があるんだろ?」
「考えられるとしたら…勢力が二つあるってあたりか。必要最低限でことを進めようとする穏健派、敵に対して容赦はなく徹底的にせん滅する過激派。みたいな感じで」
過激派に関しては徹底的にやるからこそ動きが大きくなり、その分わかりやすくはなっている。だが、後手に回ってしまった場合の被害も大きく看過できるものではない。
穏健派に関しては被害は最小限で済むだろうが、その分動きが静か故に感知しにくい。
そして重要な部分だけ抜き取られるような被害となるので、後々大きな脅威ともなるだろう。
どちらに関しても厄介ではあるが、対処のしにくさで言えば穏健派だろう。向こうは見つかりにくいからな。
「魔王さんはどっちだろうね?」
「たぶん穏健派だろうな。魔剣を回収しようとした手順がそっちだ」
聖女派である民衆と貴族派を争わせ、その間に魔剣を回収しようとしていたあの一件。
ある程度先を読めたからこそ何とかなったが、もしあれが成就していたら。魔剣を回収されたという事実だけでなく、民衆と貴族、その二つに大きな溝を作ることになり、それは新たな反乱の火種へとなる。
そうなってしまってはあそこは内部の不和にも目を向けなければいけなくなり、魔族への対処も後手になってしまうだろう。下手すると民衆派の看板でもある聖女のプリエが聖都から動けなくなり、勇者への同行が不可能となってしまう可能性もある。
それは明らかに人類側からすれば大きな痛手であり、魔族側からしたら好機である。
「かなり厄介な奴だってのは事実だが…それでも俺たちからすると希望がないわけではない」
「というと?」
「魔王が過激派なら話し合いすらできんだろう。だけど穏健派なら魔族に利があればワンチャン協力関係を築ける可能性もある」
人類即抹殺とかいう思想のやつだったら協力関係を築くことは無理だろうが、穏健派のような搦手を使うタイプはある程度の利点さえあれば、仲間といわずともある程度の協力関係を築くことも可能だろう。
そこらへんは俺の交渉次第ってところかな。
「…ねえ、本当に戦争って止めれるのかな」
瑠衣がどこか不安そうにぼそりとつぶやく。
不安になるのも無理はない。今までは魔族と交戦することはあれど、ここまで大きな被害を見ることはなかった。
それゆえにどこか楽観的な考えを持っていたんだろうが、この村のこと、そしてセシルが抱く憎悪。それらを目の当たりにしてやはりその根深さに気づいたんだろうな。
でも、残念ながらあれはあくまで氷山の一角。
人類と魔族の争いははるか昔から続いている事柄だ。それゆえにその憎悪も根深く広い。
それら一つ一つ潰すとなるとそれは途方もない時間がかかるだろう。
しかも、その憎悪はとどまることもなく広がり続ける。そうなってはまず潰すことなど不可能だろう。だが…
「策はある」
「え?」
「以前言っただろ?国を作るって。それは魔族と人類。それら二つと敵対関係でいることで戦いを抑制させるために作るんだ」
以前大雑把にしか話していないし、せっかくだからと話すことにした。
まあ、後で和也と玲にも同じことを説明しなきゃいけないが、そこらへんは仕方ない。
今の戦争の形は魔族と人類が向かい合う形で成り立っている。
それがどういうことかというと、お互いにその戦う相手以外を気にする必要がなく、ただただ目の前にいる敵を倒すことだけを考慮すればいい、ということになる。
しかし、ここに第三勢力が入ると話が変わってくる。
魔族も人類も、相手を攻めている間に第三勢力によって攻め込まれる可能性が出てくるんだ。
最初はそれを考慮することはないかもしれない。だが、攻め込んだタイミングでそれぞれを小突いてやれば、否が応でも気にしないといけなくなってしまう。
それは今までのようにただ眼前にいる敵へと注意を向けないといけない状況ではなく、ふいに襲ってくる輩にも警戒しないといけないということになる。
その状況は確実に戦争の勢いを削ぐ。
そして勢いが削がれた戦争は停滞しやすい。勢いを削ぎ、停滞した戦争を持続させ続ければ、そのうち争う気力も消えていくだろう。
中には血気盛んな奴らもいるだろうが、そういうやつが引き起こす小競り合いは、第三勢力の存在を浮き彫りにさせる役割にできるからむしろ好都合となる。
あとはその状態をできる限り長続きさせること。
戦争によって植え付けられた憎悪なんてそう簡単には消えない。
だがそれが子、孫、ひ孫と世代を追うことで少しずつ薄れさせることは可能だ。
親が受けた迫害に怒りを覚える子はいるだろう。だが、その子である孫に関しては心を痛めることはあれど、そこまで大きな怒りを抱くことはない。しかもさらにその子であるひ孫まで行けばもはや他人事にまで行く可能性もある。
そういって長い時をかけ、憎悪を薄れさせれば、最終的には共存の関係にまで行けるかもしれない。
どれだけ時間がかかるかわからない。それにそこまで行くと完全に俺たちの手から離れているだろう。だから成功する保証もない。だが…
「夢は見れるだろ?」
説明の最後にそういって瑠衣へと笑いかけると、あきれた表情をしていた。
「その夢の先を見ることはできないけどね」
「親が抱く夢を子に託す。それもそれで悪くないんじゃね?」
「もう、どれだけ先の話なのよ」
俺たちはまだ18だ。この先子供ができ、そのまま老いて逝くとしてもどれだけあるかなんてわからない。
むしろそれができずに途中で果てるかもしれない。それだけ困難な道のりでもある。
だが…ま、やるだけやってみるべきだろう。
そもそも、あんな無茶な要求、俺たちだけでできるわけがないんだから。
「ま、まだ国を作れているわけじゃないし、そもそもその準備段階だ。これから先、俺たちが想像もできないような問題だってたくさんあるだろう。だけど、それらを一つ一つ解決していけば、望む未来へたどり着けるんじゃね?」
「そうかもね」
そういって笑う瑠衣の表情からは先ほどの不安が消えていた。
さて、話も片付けも一区切りついたので、おそらく村の広場であっただろう、開けた場所へと行くと、ほかの面々も集まっていた。
ちなみに和也とセレスも広場にいるが、邪魔をしないように隅のほうに椅子を作ってそこで魔法陣の構築の準備をしている。
それをルーメンが眺めているが、そこらへんも特に気にすることはないだろう。
「ケイといったか?」
「ん?」
やることが一通り終わり、手持無沙汰となってしまったのでまったりとしていると、レオナルドから声をかけられた。
「どうした?」
「時間が余っているのであるならば一度、手合わせをしてもらえないだろうか。神の使徒であり、勇者セシルを打倒した貴殿の実力、それを知っておきたい」
「ふむ…あんた、皇国の騎士だろ?役職は?」
「魔物討伐部隊隊長だが…それがどうしたのだ?」
「いや、あんたの大雑把な立ち位置が知りたくてな」
魔物討伐部隊ということは、主に前線にでて戦う部隊ってことだ。
もしこれが王族を守る近衛兵や、王宮や王都を守る部隊であれば、それは練度や戦闘の経験値に差が出てきてしまう。
命のやり取りとなる魔物との戦いと、侵入者や盗人などを捕えるための戦い。
後者であっても当然命の危険がないわけではないが、前者よりかは低い。
だからこそそれぞれ得られる経験値のようなものだって変わってくる。
勇者への同行を任された件も踏まえて、レオナルドの実力はかなりのものだろう。それならば彼の実力を指針の一つとして皇国の実力を探るのも悪くない。
「んじゃやるのはいいけど、俺もあまり加減できないぞ?」
「それでいい。むしろ全力で来てくれたほうがありがたい」
「あいよ。んじゃ手合わせだし、簡単なルールでも決めておこうか」
そういって俺は少し離れた位置へと歩いていき、俺を中心に直径3mほどの円を風で地面に描いた。
「一本取るか、もしくはまいったというか、そして俺はこの円から出たら負け。それでどうだ?」
そういうとレオナルドの目つきが鋭くなる。
「先に行っとくが別に加減するためのルールってわけじゃないぞ。もともと俺の戦い方は待ちが主体なんだよ」
「待ち?」
「そ、相手の行動に合わせて俺も動く。俺が教わった先生は『後の先を取る』って言っていたな」
相手の動きを見、その動きに合わせて相手を制す。それが待ちを基本とした俺が学んだ居合の戦い方。
まあ、まともにそれが活かせる相手がいないがな!!
セシルなんて雷属性のせいで、触れることすら危険だったから動き回らされたからな。
「つまり、そっちのほうが貴殿の実力が出せるということか?」
「そういうこと」
円の中心で足元を確認する。
基本的にどこでも戦えはするが、足場がしっかりしてないと踏み込みが浅くなってしまう。
「んじゃ、やるか」
俺は腰に差してある二本の刀へと手をかける。
そしてそのまま深く腰を落とした。息を一つ吐き、そのまま集中していく。
俺の集中が高まるたびに空気がピンッと張り詰める。
「いつでもいいぞー」
声はあっけらかんとしているが、それでも集中している俺の周囲の雰囲気が張り詰めている。
その雰囲気に圧倒されているのか、レオナルドがわずかにひるんでいた。
しかし、そこは魔物討伐部隊の隊長。自分の剣を抜くとそのまま一直線に俺へと突っ込んできた。
そして円の中へと入り、剣を振り下ろすが、俺はそれを左手で抜刀した刀の刃で滑らせるように軌道を逸らし、即座に右手で抜いた刀を横なぎに振るうが、それが当たる直前にレオナルドが後ろへと跳んだ。
「へぇ…」
振り下ろしている途中で放たれた俺の一撃。カウンターとして確実に入ると思ったが、それを踏み込みの力をそのまま利用して後方へとジャンプして回避した。
生半可な反射神経では回避できないその動きは、今まで何度も繰り広げていた魔物との戦いで培われたものなのだろう。
さすが魔物討伐部隊の隊長ってところか。
「………」
そんな感想を敬が抱いている中、レオナルドは息を整えようとしていた。
確かに最初は様子見で放った一撃だった。
それを受け止めたり、はじかれたりは何度もされたことはある。
しかし、今やられたのはそのどちらでもない。
一切の抵抗もなく、力の方向を変えられた。そして間髪入れずに反撃が飛んできた。
ぎりぎりのところで反応はできたが、ほんの一瞬でも反応が遅れていたら確実に攻撃を受けていた。
これが先ほど言っていた後の先。相手より後に動き、相手より先に制す。
それは今まで受けたことがない技術だった。
面白い。今まで受けたことのない技術。その戦い方。それを体験できる。それがすごくゾクゾクと面白く感じた。
彼はまた納刀し、こちらを見据えていた。
以前ならばあれは余裕からくる物だと思っていただろう。だが、一度切り結んだ今ならわかる。あれこそが彼の構えなのだ。油断も侮りも一切ない。あれこそが正しい構えなのだ。
先ほどの短い切り結びで理解した。自分では彼には勝てない。
だが、それでもこの手合わせはいい経験になる。
自らの実力を高めるために、また剣を構え、向かっていく。
少しでも己が実力を高めるために。




