第63話
プリエの案内の元、セシルの故郷へと到着したが…。
「ひどい…」
家々は焼け落ち、地面にもところどころ焦げ跡が残っており、襲撃の悲惨さを物語っていた。
「話には聞いていたがまたえらく派手にやられたなぁ」
襲撃を受けた村は住人がいなくなったがゆえに放置されたのだろう、火は完全になくなっているが、炭化した家の瓦礫から雑草が少し伸び始めている。
「セシル様はこの村を旅立つ前に、住人の皆さんを埋葬してから旅立ったようです。なのでどこかにそういった場所があるはずですが…」
プリエがそういって周囲を見回してみるが、そこまで目立つ場所にはなさそうだ。
「とりあえずそれを探しておくか。そっちはそっちで任せる。和也、セレス、ちょい相談事がある」
「ん?」
「なに~?」
「じゃあ私たちは少し見てくるね」
「ああ。大丈夫だと思うが、魔族が戻ってきたら知らせろよ」
「はぁーい」
瑠衣たちが各々歩き出す。まあ広い村ってわけでもないし、すぐに見つかるだろう。
俺はその間に和也とセレスへと相談を持ち掛ける。なんか背中に張り付いているクーも俺の話を聞こうと身を乗り出してきたが、まあ気にしないでおく。
「んで、どうしたんだ?」
「ああ、ちょっと実験がてらやっておきたいことがあってな」
「実験?ここで?」
「ああ」
頷いて俺は万能の書を取り出す。一応これは今後やることの予行練習でもあるから、それをやることになる二人にも話しておく。
「この村全体にちょっとした魔法陣を利用した魔術をかけておきたいんだ。これは今後やることの予行練習でもあるからせっかく機会があるんだしと思ってな」
「それはいいが、俺にはその知識ないぞ?」
「ああ。和也は魔法陣を描く役割を、セレスはそれを構築する役割をしてもらいたいんだよ。発動は最後に俺がやるから」
「どんな魔法陣を構築すればいいの?」
「えーっと、必要そうなのは…鎮魂、浄化、魔よけ…位か?」
「魔よけというか動物除け?荒らされないようにしたいよねぇ」
「そうなると…認識阻害のほうがいいか?まあ、とりあえず必要そうな物は相談して、それらを調べながら構築していこう。で、それらを和也に書いてもらいたい」
「まあ、それくらいならいいが、表面に書くのか?」
「いや、地中…というか埋葬されている人たちより下だな。表面上はわからないようにしたいし、地中から入ってくるやつらに荒らされるのも可哀そうだし」
「ふむ、やったことないから少し練習させてもらうぞ」
「ああ。それで構わない」
「じゃあ書かれた魔法陣に私が魔力の水を流して、それで満たすことで触媒にしよっか」
「できるのか?」
「うん、きちんと全体的に流れるようになってればね」
「となると文字自体を一通りつなげないといけなくなるかぁ…そこらへんも考慮して構築しなきゃだな。思い付きでやろうとしたが結構重労働になりそうだな」
「そりゃあね~、魔法陣なんてそうそう簡単にできるものじゃないよ。特に村一つを取り囲むように、なんて下手したら数か月かけてやることだよ?」
「え、そこまで難易度高いのか?」
さすがに少し見通しが甘かったか?掘るのだって和也がいるし、虚空のところで魔法陣に関して学んだセレスもいるから、今日中は無理にしても、数日でできると思っていたのだが。
「あくまで『一般的に』だよ。魔法陣はただ線を引けばいいってわけじゃなくて、ちゃんとその線にも魔力を浸透させなきゃいけないし、文字で効果を付与するにしても、あまり一つの層に書きすぎると相互干渉して想定外の効果になったりでバランスが難しいの。一応私とカズヤの二人なら何とかなるけど、それでも数日はかかるよ?」
「あ、数日で完成するのか。まあ、それは想定していた。一応今後のことも話しておかないといけないからな」
確かに実験の意味合いが強いのもあるが、それを今すぐやらないといけないというわけではない。だからあまりに時間がかかるようなら無理にやらずにまた今度ってことにしようかとも思ったが、数日でできるというのならやってもいいだろう。
「今後のことって何かあるのか?」
「いや、一応プリエ達に神の使者だってのはわかってもらえたが、それをあまり表立ってもらうと困るからな。それを止める必要もあるし、セシルの後任になる勇者を探す件も話しておかないといけない。それに一応納得されたとはいえ、子供ドラゴンの件も相談しておかないとな」
「あー、神龍になっちゃったんだっけ。なにしてんのよもう」
「さすがに想定外だよ…」
まさか孵化を手伝うために与えた魔力でこんなことが起きるとは誰が予測できるっていうんだ。
そんなことを話していると瑠衣がこちらへと来ていた。
「見つかったか?」
「うん。あっちに簡素だけどたくさんのお墓があったよ」
「そか」
瑠衣の言葉にうなずいて和也を見てみると和也が頷いた。
俺自身は墓石のようなものを作りたかったのだが、どうやら和也も同じ考えを持っていたようだ。
瑠衣の案内で俺たちは墓地へと向かった。
案内された墓地にはセシルが作ったのであろう、木材を組んで墓標に見立てたものがいくつも並んでいた。
プリエたちはその墓標をどこか切なげな表情で見ていた。
「ここか」
「はい。セシル様はこちらに皆さまを埋葬してから旅立ったようです」
「和也、頼む」
「あいよ。でかいの一つでいいか?」
「だな。せっかくセシルが作ってくれたやつを取り除く必要はないだろう」
「それじゃ…よっと」
和也が墓地の奥へと行き、地面へと手をつくと地面から巨大な石がせりあがってきた。
「これは?」
「墓石だよ。といってもこの村の住人全員のだけどな。プリエ、この村の名前って知ってるか?」
「いえ…。どうやら名前らしきものはついていないようで…」
「まあ、結構山奥だし、そんなもんか」
「どうするんだ敬?墓石に何刻む?」
「そうだなぁ…」
この村に名前があればその村の住人ここに眠る、って刻む気だったが名前がないんじゃそれもできない。
村の名前がないのなら、住人表みたいなのだってないだろうから、村人たちの名前もわからない。
となると唯一わかっているセシルを主軸にするしかないか。
「『勇者セシル 故郷の村人達と共に眠る』でいいんじゃね?」
「あいよ」
和也へと万能の書を渡して、そこに表示された文字を墓石へと刻んでいく。
「んじゃせっかくだから墓石の前にセシルを埋葬するか」
この世界は調べた感じ土葬が主流だ。だから地面に棺桶が入るサイズの穴をあけ、そこにゆっくりとセシルの棺を納めて埋めていく。
(向こうでは家族や村人と穏やかに暮らしていってくれ)
各々がそれぞれの形で祈りをささげていく。
俺たちもしばらく黙とうをしてから、顔をあげた。
「さて、埋葬は終わったが、ちょっとここでやっておきたいことがあるから数日程滞在するぞ」
「やりたいこと?ここで?」
「ああ。せっかく来たから実験がてらこの村に魔法陣を設置したくてな」
「え、そんなことが?」
プリエが驚いたように声をあげ、魔術師であるルーメンは興味深げに視線を鋭くしていた。
「まあ構築やら準備やらで数日かかるがな」
「実際にはどういう効果なの?」
「とりあえずは浄化と鎮魂…あとは認識阻害?」
「だね。まあ、あまり付けすぎると時間かかるし、その分複雑になるから」
「これ以上荒らされないずに安らかに眠っていてもらうためだからそれでいいだろう。んじゃ和也とセレスはそっちを頼む。プリエと父親ドラゴンはちょい相談。ほかの面々は野営の準備をよろしく」
「はーい」
俺の言葉に瑠衣達はうなずいて野営の準備をし始めた。
セシルたちと行動を共にしていた騎士であるレオナルドに関しては俺の指示に従う必要はない。
だが、ここでほかにできることがあるわけでもなく、プリエがいる以上一人で行動するということもないので、とりあえず野営の準備を手伝うことにしたようだ。
ルーメンはセシルと和也の魔法陣の構築に興味があるようで観察している。
まあ、万能の書は俺が持っているし、わからないことはこっちに聞いてくるだろうから、向こうは任せて大丈夫だろう。
俺は父親ドラゴンとプリエと共に今後のことについて相談していくことにする。
「それで相談とは?」
「さっき話してたこれからのことだ」
『それは良いがなぜ我もだ?』
「あんたには子供ドラゴンに関してだ。紆余曲折はあれど、あんたがちゃんと父親として認識されたが、一度は俺も父親になっただろ?だからその影響が今後どうなるか、あったとしてどうするべきか相談しようと思ってな」
『そういうことか』
俺の言葉に納得したようにうなずく。
「とりあえずプリエだが、俺たちが神の使者だってことはできれば伏せてほしい」
「なぜですか?」
「下手にばらされると動きにくくなるからだ。おそらく皇国も放っておくことはないだろうし、聖王国だって動かないといけなくなる。そうなると俺たちの目的の邪魔になるんだよ」
「…ですが、セシル様の件を話すには伝えなければ…」
「とりあえず大っぴらにさえならなければいい。実際勇者が死んだことを公表するわけにはいかないだろうから、教皇にだけ話して公表しないようにってのと、新しい勇者は俺が見つけるってことを伝えればいいだろう」
「それで納得してくれるかどうかはわかりませんが…とりあえずやってみます」
「ああ。まあ、たぶんあの人なら様子見すると思うけどなぁ…」
聖王国の一件でかかわることになったが、あの人はなかなか食えない人だった。
まあ、一国の主となった人物だ。腹芸お手の物だろうし、自国の得になることはすれど、神の使者と思わしき人物を敵に回すなんて損になりかねないことをするとは思えない。
「皇国にはどう報告を?」
「しなくていいんじゃね?逆にあんたらが勇者死なせた報告したらめっちゃ怒られるんじゃね」
「それは確かに…ですが、私はともかく、レオナルドさんとルーメンさんは報告の義務があるのでは?」
「そこらへんはあいつら次第だが…緊急で極秘ってことで文を皇国に飛ばして、勇者が死んだこと、それによって発生する混乱、それを危惧し現在は新たな勇者を探しています。でいいんじゃね?」
下手に直接向かって詰められて変なこと言われても困る。
実際俺の存在は皇国では門番であるスティクとクロイローツ公爵、冒険者ギルドマスターのリコ、マルシャン商会の会長であるシリウスくらいだ。
公爵はともかく、ほかの面々は皇国のお偉いさんに報告するようなことはそうそうないだろう。
公爵家に関しても、俺のことを報告して下手に取り込まれるより、ある程度情報を抑えておいたほうが後々に役に立てるかもしれないからな。
「それで大丈夫でしょうか」
「少なくとも時間は稼げるだろう。二人の説得はプリエ任せた。たぶん俺が言ってもうなずかないだろうから」
「うぅ…頑張ってみます…」
「さて…それで子供ドラゴンに関してだが、何か必要なことはあるか?」
『いや、とくにはない。だが、どうもお主と我が子に魔力のつながりができておってのう、おぬしの居場所がどこにいてもわかるようなのだ』
「…それってまずいのか?」
『まずくはない。じゃがおぬしに何かあった際…例えば死んでしまったり、もしくは魔力が届かないような場所へと行った際にそのつながりが一時的に切れ、あの子が不安になるというくらいじゃろう。場合によっては飛び出すやもしれぬが…』
「そこらへんはそっちで抑えてくれ。じゃないと俺たちだってそういうところにちょくちょく行くんだから」
『わかった、なら急に消えたのならそういう場所に行ったと伝えておこう。たまにあの子が会いに行くかもしれぬがそれは許せ』
「へいへい」
まあ、なついているやつを邪険に扱う必要はないだろう。
「あのドラゴンの子…これから一緒?」
背中に張り付いているクーが聞いてきた。
「いんや、たまに会いに来るかもだとさ」
「そうなんだ…名前なんていう子?」
「名前…ないよな?」
『うむ。我らに名付けの概念はないからのう』
「名前ないってよ」
「………じゃあドラコ」
「…その子の名前?」
俺の問いかけにクーが笑顔でうなずいた。
視線を父親ドラゴンへと向け、確認をすると父親ドラゴンもうなずいた。許可を得たということだろう。
「いいってよ」
俺の言葉にクーが笑顔になり、背中から降りて子供ドラゴンへと歩み寄っていった。
「君の名前はドラコだよ、よろしくね」
そういってクーが自分の額をドラコの額へと押し当てると、ドラコとクーの体が輝きだした。
「…これは?」
『…そういえば名前を与え、お互いの魔力をつなぐことをすれば主従関係がなりたつんじゃったのう』
…名前を与える=ドラコと名付ける。魔力をつなぐ=額を合わせる。
結果的にクーとドラコに主従関係が結ばれたってことか?
「…なんでそれをやってからいう?」
『忘れてた☆』
悪びれない父親ドラゴンへと全力のジャンプアッパーを叩き込んだのは言うまでもない。




