第46話
神徒の遺跡に来て3日目。虚空たちにいろいろと教わりだして二日目の午前中。
朝食を食べ終えたので虚空にいろいろと教えてもらう時間になったのだが。
「そういえば昨日セバスとクロエに無属性の魔力の扱い方を教わったんだっけ」
「ん?ああ。昨日の夜から感覚忘れないようにちゃんと練習してるよ」
「そか、じゃあせっかくだし今日は身体強化の練習をメインにしよっか」
「いいのか?」
「うん。君たちに教えることはまだまだあるけど、急ぎって訳でもないしね。早いうちに身体強化を覚えておいて体に慣らせた方がいいからね」
「そか、じゃあ…みんないいよな?」
俺の問いかけに全員が頷いた。
「うん、じゃあやっていこうか。じゃあ敬君ちょっとこっちに来てもらっていいかな?セバス、少し頑丈なちょうどいい的とボールを持ってきて」
「かしこまりました」
一礼してセバスが出ていくのを見つつ、俺は虚空がいる教壇の近くに降りていく。
「さて、じゃあ基礎的な知識から。身体強化というのは無属性の魔力を自らの体に流すことで、細胞を活性化、従来以上の力を引き出す魔法だよ。ただ、気を付けることがいくつか。一つは魔力によって強化されるとはいえ、過剰な身体強化は細胞や筋組織を傷つけてしまう。だから、やりすぎるとむしろ自分の体を壊すことになってしまうんだ。最悪の場合、強化に耐え切れずに吹き飛ぶこともある」
その言葉に女性陣の何人かが血の気が引いたような顔をしていた。
「君たちの体というのは本来の力を100%引きだせてはいない。引き出しちゃうと体が壊れかねないから脳が制御しているんだね。身体強化はその制御している力を引き出した上に魔力によって能力を上乗せする手段なんだよ。そしてその力は君たちが鍛えれば鍛えるほど力が増していく。これから戦闘訓練と基礎トレーニングをしてもらって地力を上げてもらうけど、それによってさらに身体強化は強力になるんだ」
「ふむ」
「だけどそれは裏を返せば自分の能力が下がればその分身体強化の効果も下がる、ということ。慢心して鍛錬を怠るとそれだけ能力も下がるからそれだけは忘れないようにね」
「わかった」
話に一区切りついたところで、セバスが丸太を少し削ったような的とゴムボールを持ってきた。
「虚空様、お待たせいたしました」
「うん、ありがと。じゃああそこにおいてくれるかな。ボールは敬君に渡してね」
「はい」
セバスは俺にボールを渡してから、俺から2m程離れた位置に丸太を垂直に立たせた。
「じゃあ敬君、そのボールをあの的に向けて投げて欲しいんだけど、肘から先だけを使うようにして投げてもらえるかな」
「なんでだ?」
「身体強化はさっき言ったように危険を伴うからね。慣れてないうちに全身をやるわけにはいかないんだ。だからまずは片腕だけ練習し、慣れたら強化する部位を一つずつ増やすってやり方をするんだけど、差を見せつけるためにもできる場所だけでやった方がわかりやすいでしょ?」
「まあ確かに。んじゃやっていいか?」
俺の問いかけに虚空が頷いた。右手でボールを持ってまっすぐ立ち、右腕を横へと伸ばして肘(というか主に手首だが)を動かしてボールを投げる。投げたボールは放物線を描いてポスンと的の下部分へと当たった。
「意外と当たるな」
「ま、これくらいはね。じゃあ次は右肘から先だけ強化してから投げてもらおうか」
「わかった。で、どうやって強化するんだ?」
「無属性魔力は扱えているよね?それを体内で右腕へと流し、右肘から先に広げ、細胞一つ一つに魔力を浸透させていくんだ。骨、筋組織、全てに魔力がいきわたる様に」
「まった難しいなぁ…」
体内で渦巻く自らの魔力をゆっくりと右腕へと動かしていく。心臓あたりから喉下へと登らせ、そのまま右肩、右腕へと移動させて右肘から先に広がる様にゆっくりと伸ばしていく。そして右肘から右手の指先、全てに魔力が満たされるようなイメージを浮かべ、どんどん浸透させていく。
「うん、いい感じ。あとはその魔力をそのまま強くして」
「強く?」
「そう、魔力を使って力を込めるようにゆっくりゆっくり魔力を強くしていくんだ」
魔法を扱っていたからうまく魔力操作はできるようになっている。腕に力を込めるように、魔力へと力を込めていく。満たされている魔力が徐々に熱を帯びていき、その熱が少しずつ上がっていく。
「ストップ。そこで止めて」
虚空の言葉でイメージを止める。
「うん、いい強化具合だ。まだ強化としては上げれるけどそれ以上はまだ持たないからね。その状態で同じように投げて」
先ほど投げたゴムボールを再度受取、先ほどと同じように投げる。すると先ほどは放物線を描いていたのに、今回はまっすぐ一直線に的まで飛んでいき、パァン!という激しい音と共に的である丸太を揺らし、鈍い音を立てて倒れさせた。
「…マジ?」
「うん、これが身体強化の結果ね。あ、きちんと強化解除しておいてね」
「解除はどうすれば?」
「さっきの手順をそのまま逆にすればいいんだよ。魔力から力を抜いて、染み込んでいる魔力が減る様にイメージをしていけばいい」
「わかった」
虚空の言う通りにまずは魔力から力を抜いていく。高まっていた熱が徐々に引いていき、満たされていた魔力が少しずつ減っていき、そしてすべてが消えるように感じられなくした。
「ん、無事にできたみたいだね。さて、これが身体強化だ。何か質問はあるかな?」
そういった途端和也が手を挙げた。
「敬がやっているのを見た感じかなり時間かかるみたいだが、毎回それだけかかるのか?」
「いいや、あれはあくまで最初にやる際にうまくできるように順序だててやっただけ。慣れればもっと早く、こんな感じに…」
虚空の全身からすさまじい威圧感が放出された。魔力が全身にいきわたり、虚空の存在感そのものを高めている感じだ。
「即座に発動させることも可能だよ」
そして即座に身体強化を解除したようで威圧感は収まった。
「まだ全身の身体強化は危険だから部分部分でならせていこう。じゃあ今日の午前中は身体強化の発動と解除を練習し、午後はトレーニングメニューを決めてあるからそれをこなしてから身体強化を発動して体を動かす練習をしようか」
虚空の言葉に全員が頷き、午前の授業が始まった。
午前の授業が終わり、昼食、食後休憩をはさんだのちに俺達は総合運動場へと場所を移した。
「さて、それでは皆様には体を鍛えるトレーニングメニューを行っていただきます」
午後の授業を取り仕切るセバスが俺達にそれぞれメニューが書かれた紙を差し出してきた。
セレスは昨日と同じように魔法陣の研究。シエルとノエルの二人は家事を教わっている。クーは同じく総合運動場に来ているが、少し離れた位置で魔獣化の勉強をしている。
「男性は私セバスが、女性はクロエがお手伝いいたします。メニューは今お渡ししたものをワンセット、最初は時間をかけて行います。それを徐々に負担を増やし、早くこなせるようにしましょう」
「わかった」
「ではまず皆さん同じものを。持久力を高めるための持久走、そして全身運動となる縄跳びをしていただきます。昨日調べたスポーツテストとして皆さんには7kmほど走っていただきます。その後縄跳びは300回程飛んでいただきます」
「あいよー」
俺達は言われた通り7kmほど走った。グランドのトラックは一周500m。7kmだから14周と地味に多く感じたが、まともに疲れることもなく、30分から40分ほどで終わってしまった。
「7kmを3・40分って言うと…どれくらいの速さだ?」
「時速12・3kmってところか」
「それって早いの?」
「ランニングが大体時速8kmほどって言われているわね~」
「…ほぼ全力疾走レベルじゃね?」
「その割に俺達疲れてないし、軽く走った感じなんだがな」
「敬は身体強化が残ってるんじゃないの?」
「それならお前らもだろ」
急に止まると体に悪いので軽く歩きながらそんな雑談をしていく。そしてある程度歩き終えたところでセバスとクロエが縄跳びに使う縄を持ってきてくれた。
「では次はこちらでんわと美をしていただきます。その後個人個人のトレーニングに以降いたします」
「了解」
「あ、そうだ敬」
「んあ?」
縄を受け取り、跳ぼうとしたところで瑠衣に声をかけられる。
「敬は一度でも引っかかったら最初からやり直しね」
「なんでや」
「さあ、なんででしょうね」
少しそっけない感じで危なくない位置まで移動した瑠衣に首を傾げていると、後ろから和也が小声で声をかけてきた。
「多分あれだ」
そういって示したのは玲のほうで、玲が軽いウォーミングアップでピョンピョンとその場でジャンプしていると、強調されている一部がたゆんたゆんと揺れていた。
「お前があれに目を奪われて失敗すると思ってるんじゃね?」
「解せぬ(´・ω・`)」
そんな俺に笑いながら肩を叩き、和也も危なくない程度に距離を取った。俺はため息を吐きつつも他の人と距離を取って縄跳びをし始めた。
その後そこまで時間もかからずに全員が縄跳びを跳び終える。ちなみに俺は一度も引っかかることはなかったが、ちょくちょく和也は引っかかっていた。そして瑠衣も特に引っかかることはなかったが、玲は時々胸が痛いといって一休みしていた。
「では、これより個人トレーニング入ります。ここにそれぞれできる場所をご用意してありますので、そちらでトレーニングをおこなってください」
そういって俺と和也はセバスに、瑠衣と玲はクロエの後をついてそれぞれの場所へと向かった。
俺が連れてこられた場所には膝ほどの高さの壁が迷路のようにくみ上げられている場所だった。そしてその迷路は人一人が通れるほどの狭さだ。
「これは?」
「敬様にはこちらで全力疾走でこの迷路を抜けていただきます」
「全力疾走で?」
「はい。こちらの壁は軽く立ててあるだけで、このように…」
壁の一つを指で軽く突くとぱたんと倒れて道をふさいだ。
「触れた瞬間、簡単に倒れてしまいます。一枚も倒さずにゴールを目指してください」
「…移動時に発生する風で倒れたりは?」
「さすがにそれはないです。ですが、最終的には移動時に発生する風を操作し、抑制しつつ移動して頂くことになります」
「マジか、でもなんでこんなトレーニングを?」
「敬様の戦闘スタイルは高速で移動しながら死角から切りかかるタイプです。動き回ることから急加速、急停止のそれぞれを瞬時にそして正確にできるようにこちらのトレーニングおこなってもらうのです」
「なるほど」
「なあ、セバスさん、俺は何なんだ?」
そういって和也が自分のトレーニング場所を指さすと、そこには縦に置かれているレンガがいくつかあった。
「和也様は盾を使っての戦闘となります。それ故に必要なのは盾を扱う腕力ともう一つ、受け止める際の重心の安定です。和也様のトレーニングは重心の安定を主にします。煉瓦の上で片足立ちして、倒れないようにしてください」
「それだけでいいのか?」
「はい、最初はそれだけでいいです。その後きちんと立てるようになった場合、煉瓦の上でジャンプし、左右交互に片足立ちで着地し、その後は並んでいる煉瓦の上を跳び歩いてもらいます」
「まじか」
「はい。ただ、転んで足首をひねることも考えられますので気を付けてください。一応私が治療できますが、できる限り無理せず、怪我をしないように」
「わかった」
「そういえば瑠衣と玲は何をしているんだ?」
「瑠衣様は的当てです。クレー射撃というのはご存知ですか?」
「あのオリンピック競技にもなっている奴だろ?確か陶器の的が出てきてショットガンで壊す奴」
「はい。瑠衣様はそれを弓で行う予定です。しかし今はまでそこまではできないでしょうから、今はここでアーチェリーを使った的当てをしています」
「なるほど、玲は?」
「玲様は杖をご使用いたしますので杖術の勉強をメインに腕力のトレーニングを行ってもらっています」
「へぇ…」
「お二人は魔法をメインに戦うので魔力制御も覚えていただきますが、それよりも接近時の戦闘やそれぞれの武器の扱いに慣れていただくことが大事と考え、こういったプログラムを組みました」
「ふむ」
「ではお話はここまでにして早速取り掛かってください」
「あいよ」
俺と和也はそれぞれの場所へと移動してトレーニングを始めた。
「さて…んじゃやりますか」
迷路の入り口に立って軽くジャンプして準備を整える。
迷路といっても壁の高さは膝ほどで、そこまで広くもないので迷うことはまずない。
ただ、触れると倒れる壁を倒さないように駆け抜けるのはなかなかに骨が折れるだろう。
セバスに言われて全力疾走でと言われたので、駆け出す。最初の角に入る前に左足のつま先でブレーキをかけ、右足で円を描くように動かして方向転換しようとしたが、コツンと踵が壁に当たってぱたんと倒れた。
「はい、やり直しです」
「(´・ω・`)」
セバスの無情な言葉に落ち込みつつ、倒れた壁を戻して入口へと戻る。
「なーにやってんだよ敬」
「うっせ、意外とむずいんだよこれ。狭いところを全力疾走でぶつからないようにいけとかきついんだよ」
「しっかりやれよーってうおっ!」
挑発するような笑みを浮かべていた和也がバランスを崩して煉瓦から落ちてしまう。
「はい、和也様も最初からです」
「くっそー…」
「ほらみろ、茶々入れてるからお前もしくじったじゃないか」
「うっせぇ!」
そんなじゃれ合いをしつつ、俺達はトレーニングをやっていった。




