第45話
神徒の遺跡 総合運動場
昼食を終えて午後。それぞれが望むことをするということでシエルとノエルは別のメイドに連れられて家事を、セレスは図書館へと魔法陣に関して調べに向かった。
俺と瑠衣、和也、玲の四人は戦闘訓練と魔法の訓練のために集まっており、クーも獣人としての力を扱えるようになるために一緒に来ていた。
俺達は全員虚空が用意した体操服の様な動きやすい服を着ており、セバスとクロエも似たような服装で俺達の指導に当たることとなった。
二人のほかにも何人かのメイドと執事が運動場の方で何やら準備をしている。
「それでは…まず皆さんの基礎能力を見せていただきたいのですが」
「いいけどどうやって?」
「いえ、難しい事はありません。皆さんが学校で行ったであろうスポーツテストをしていただきたいのです」
「スポーツテスト?なんだそれ?」
「運動能力と体力、両方を調べるテストですよ。たしか…あなた方の時代にはすでにあったと思いますが…」
「知ってる?」
「体力測定は知ってる。スポーツテストは…なんか昔どっかで聞いた気がするが忘れた」
「まあ、とりあえずやる項目はこちらに記載されておりますので」
そういってクロエから渡された紙を見る。そこには複数の品目とそれによって調べられる項目が書かれていた。
運動能力テスト
50m走(走力)
走り幅跳び(跳躍力)
ハンドボール投げ(投力)
懸垂腕屈伸(筋持久力)
連続逆上がり(調整力)
持久走(全身持久力)
体力診断テスト
反復横跳び(調整力)
垂直飛び(跳躍力)
背筋力(筋力)
握力(筋力)
伏臥状態反らし(柔軟性)
長座体前屈(柔軟性)
踏み台昇降運動(持久力)
これらの種目を順番にやっていくようだ。
「当然魔法の使用は禁止です。貴方方の基礎能力を知りたいので。敬様と和也様は私セバスが、瑠衣様と玲様はクロエがお手伝いいたします」
クロエがペコリと一礼した。
「了解。和也、せっかくだし勝負するか」
「お、いいな。その方が燃えるし」
「ではあちらへ行きましょうか」
そういって俺達はセバスと共に少し離れた位置へと向かった。
「男子は元気ね~」
「私達もやろっか」
「はい、こちらへどうぞ」
そういってクロエと共に瑠衣達も俺達から離れた位置へと向かった。
「にしても、なんか懐かしい感じだな」
リストの一番上から順番にこなしながらそんなことを呟く。
「そうか?体力測定なんて年度初めにやっただろ」
「あー、まだあれから数か月ぐらいしか経ってないのか…」
和也の言葉に俺はどことなく感慨深そうにつぶやいた。高校に入ってからそれなりに平和だったのだが、こっちに来てからいろいろとありすぎてずいぶん長い時間いた気がする。
「ま、いろいろとあったからな。だが、まだまだやること山積みなんだ…ろ!」
セバスに渡されたハンドボールを和也が投げ、着弾した場所までの距離をセバスが計る。
ちなみに今のところ50m走と走り幅跳びをやって両方とも俺が勝っている。今やっているハンドボール投げに関しては先ほど俺も投げたのだが、パッと見た感じ和也の方が飛距離があるように感じた。
測定を終えたセバスが戻ってきた。
「測定結果は敬様は32.75m、和也様は47.63mですね」
「約15mも差ができてんのか。平均は?」
「お二人の年齢である18歳男子の平均は25.79mですね」
「惜しいな、あと少しで平均の倍行けたんだがな」
「さっきまでの奴もそうだが、俺達の能力随分平均とかけ離れているよな」
50m走では俺は6秒を切り、走り幅跳びでは6mを超えている。
50m走の平均は7.51、走り幅跳びは4m10~30cmということでかなりの差ができている。
「おそらく魔力があなた方の体にいい作用を起こしているのでしょう。敬様は風使いということで俊敏性に、和也様は土使いということで力に作用しているのです」
「それにしてもずいぶんと差があるが…」
「日常的に魔法を使っていればそれだけ効果が上がりますので」
「そういやこっちに来てから、敬に言われて毎日魔法の練習してたな」
「おや、そうなのですか?」
「ああ、いざ戦闘の時に使えませんでした。じゃ困るからな。ちゃんと扱えるようになるために練習するように言ったんだ」
「なるほど。それなら次の項目もどれだけの記録が出るか楽しみですね」
そういってニッコリ笑ったセバスに従って次の項目をやりだした。
その後も特に問題もなくスポーツテストをしていき、全てを終えてデータが出る事にはそろそろ終わりの時間になっていた。
この後はいったんお風呂で汗を流してから夕飯となる。
「ふむ、こんなものですね。ではこちらのデータを参照して明日からトレーニングメニューを作りますね」
「お願いします。それと午前中に言ってた身体強化の魔法はいつ頃に?」
俺の問いかけにセバスは少し考え込んだ。
「そうですね…。身体強化を使えるようになるのはまず無属性魔力を扱えるようにならなければなりません。夕飯の後にまずはそれをお教えいたしますので、その後各自で無属性魔力の扱いを練習して頂く形になるかと」
「なるほど」
「では、今日の午後の特訓はこれまでということで、入浴の用意はすでにできております。皆様が汗を流している間に夕飯の支度を終えますので、後程食堂へとお越しください」
「わかりました」
こうして初日はそれぞれの基礎能力を調べるだけで終え、各々一旦部屋に着替えを取りに戻ってから自宅にある浴場へと向かった。
「ふいー…しみわたるぅ…」
「おっさんか」
体を洗い終え、湯船につかって思わずつぶやいてしまった言葉に、和也が苦笑交じりに返してきた。
「なんか気が抜けてな。昨日までなんだかんだとずっと気を張ってたからな…。少し緩んできてるんだろう」
「ま、虚空たちも味方みたいだし、ここは安全だからな。今までみたいに魔族が絡んでいたり、何かしら事件に巻き込まれたりとかそう言うのがないから気が抜けるのも無理はないか」
二人で使うにはでかすぎる浴室。その湯舟に二人で入りつつ、体をほぐしていく。
「にしても、最初はスポーツテストするとはな。初日から模擬戦でもするかと思ったよ」
「確かになぁ…」
和也の言い分ももっともだ。俺も修行とか魔法の練習と聞いたから模擬戦を主体にすると思っていた。しかし基礎能力を調べたってことは、そっちを伸ばすこともするんだろう。
「基礎能力を上げて、そのうえで戦闘技術も向上。そうさせないといけないということなんだろう」
それはつまり、それだけの敵を虚空たちは想定しているということ。
その想定が魔王や勇者を想定しているが故か、それとも…。
どちらにしろ、これからも戦いが激しくなる可能性が高い以上、身体強化もしっかり身に着けられるようにしておかないと。
「にしても、無属性魔力ってどんなもんなんだろうな」
「さてなぁ…いつも俺達は自分が扱う属性のイメージを外に出すようにしてるから、それをしないで魔力を外に出すって感じになるかもしれんが…いまいち俺もよくわからん」
「そこらへんきちんとできるといいんだがな…俺は深く考えるのは苦手だぞ」
「とりあえず魔力を感じるのが必要だろうから、そこらへんは感性次第じゃねぇか?」
「それならうまくいくかねぇー」
「ま、何事もやってみなけりゃってとこだろ」
「だな」
パシャっとお湯を自分の顔にかけ、体を思いっきり伸ばした。
お風呂から上がり、全員が集まって夕飯を食べた後にセバスとクロエから無属性魔力に関して教わる。
「さて、ですは無属性魔力ですが、これに関してですが、セレス様は残念ながらお使いになれません」
「そうなの?」
「はい。本来魔力という物は魔素が集まった物と考えていただいて構いません。そして魔力はそれぞれ属性に変化させない限り、空気中に霧散して魔素となってしまいます。人や魔族であれば、体内にある魔力は無属性のままで、それを外部に放出する際にイメージによってそれぞれの属性に変化、放出されるのですが、精霊に関しては内部にある魔力自体にすでに属性になっているので、無属性の魔力という物が存在できないのです」
「じゃあセレスは身体強化ができないのか?」
「いえ、精霊には精霊の身体強化。属性強化という物があります」
「属性強化?」
「はい、精霊の体は純粋なその属性の魔力で構築されております。それ故に、その魔力を凝縮、高純度にすることで精霊自体の力が上昇させることができるのです。それによって身体能力が上昇します。それが精霊にとっての身体強化である属性強化なのです」
「へー」
「属性強化って言うからにはやっぱり使う魔法も強化されるのか?」
「そうですね。分かりやすく水で言いますと放たれる水も圧縮されて高圧力による水の攻撃になります。それだけでも巨大な岩を穿つことも可能でしょう」
「すげぇな…それが精霊が使える属性強化か」
「はい。人や魔族では扱うことはできませんが」
「亜人はどうなの?」
「亜人も身体強化ですね。属性強化ができるのは純粋な魔力によって構築されている精霊だけです。それ以外の方々はできるのは身体強化のみです。とりあえずまずは皆さまに無属性の魔力を認識して頂きます」
「どうやって?」
「私とクロエで皆様の中にある魔力を動かします。それで体内にある無属性の魔力を把握して頂き、あとは体内でそれを動かせるようになってもらいます」
「他者の魔力に干渉できるのか?」
「はい。直接肌に触れないとできませんので、これから敬様と和也様には別室へと移動して頂きますが」
「それは構わんが、他人の魔力に干渉して何か影響があったりはしないのか?」
「確かに体内にある魔力を暴れさせることができれば相手に大きなダメージを与えることは可能です。ですが今我々がそれを行う理由はございませんので、そのあたりは信用してくださいとしか申せません」
「ふむ…」
チラリと瑠衣達を見ると、全員が俺を見て頷いていた。
リスクはある。だがそれ以上のメリットもあるだろう。なら…
「わかった。やってもらおう」
「かしこまりました。では敬様、和也様こちらへ」
「おう」
「んじゃあまたあとでな」
「うん」
「またね~」
セバスと和也と共に別室へと行く。
「では上着を脱いで背中をこちらへ向けてください」
「あいよ」
二人で上着を脱いで上半身裸になってからセバスへと背を向けた。
「にしても服とかあるとだめなのか?」
「あっても出来なくはないのですが、操作が鈍るのですよ。体内の魔力を操作するのですからね、わずかな鈍りで妙な感じになっても困りますので」
「なるほど」
「では、まず敬様いきますよ」
「ああ」
セバスの手が俺の背中へと触れる。そして背中越しにわずかなぬくもりが徐々に広がり、俺の胸に渦のよう回転していく。
「今ゆっくりと回していますがわかりますか?」
「ああ、なんか暖かいものがゆっくりと動いてるのがわかる」
「それが今あなた様の中にある無属性の魔力です。それを感じ、自分の意思で動かしてみてください」
セバスのいう通りに俺の中で渦巻いている魔力へと意識を集中させ、その回転をゆっくりと加速させていく。セバスの手が背中から離れてもそのまま俺の中で魔力は渦巻いていく。
「それがあなたの中にある魔力です。それを操る感覚を忘れないように」
「ああ」
「では次は和也様」
「頼む」
和也にも同じようにセバスは背中に触れ、魔力を操りだす。
俺はその間に渦巻いている魔力を自在に操るために少し変則的な動きへと変えていく。
動きを止めないように上へ下へ左へ右へ。様斬な方角に動かし、時には動きを止めてから再度動かし、自在に操れるようにしていく。
その間に和也も体内の魔力を扱えるようになったようでセバスが背中から手を放していた。
そして俺と和也双方共に体内で魔力を扱っている様子を見て、セバスは満足げに頷いた。
「どうやらお二人とも問題なく魔力を体内で操れるようになったようですね。その感覚を忘れないようにしてください。また明日身体強化をお教えしますので」
「今じゃないのか?」
「今はまず扱いに慣れることです。慣れていない時にやりますとむしろ体を傷つけかねないので。明日教える身体強化に関しても最初は出力を弱めにし、体に慣らさせながら出力を上げるという形になります」
「身体強化なのに体を傷つけるのか?」
「はい。強すぎる身体強化は逆に負荷が強すぎて危険なんです。なので少しずつ身体強化を強くしていくことで体自体を耐えれるレベルで強くしていくのです」
「なるほど。了解」
納得したのでとりあえず上着を着る。
「では、こちらは終わりましたので別の部屋に行きましょう。瑠衣様たちの方は人数も多いですし、時間もかかるでしょうから」
「了解」
セバスの案内で先ほどとは別の部屋へと行き、そのまま瑠衣達を待つ。
その間も俺は体内の魔力を操るようにしていたが、おそらく和也もそうだろう。
それからしばらくして瑠衣達もこの部屋へと入ってきた。
「お待たせー」
「そっちはどうだったかしら~?」
「問題ないよ。そっちは?」
「少し時間かかったけど皆魔力を感じることができたわよ~」
「シエルとノエル、クーも問題ないか?」
俺の問いかけに三人も頷き、クーはそのまままた俺にしがみ付いてきた。
「じゃあ今日は後は各々魔力の操作の練習をしつつ、休むとするか」
「だね。じゃあまた明日かな」
「そうだな。んじゃ、それぞれしっかり体を休めるように。疲れ残さんようになー」
「それでは皆様本日はお疲れ様でした。ごゆっくりお休みなさいませ」
頭を下げるセバスとクロエに見送られ、俺達はそれぞれの部屋へと戻って休むことにした。




