平和的交渉58
――トンネルを抜けるとそこは南国だった。
結論、洞窟の横穴の中自体には誰もおらず、それは別の場所に通じていた。見たところ、四方を山に囲まれた窪地のようで、天空の覇権を奪い合うかのように木々が葉を茂らせていた。
「各員、密集陣形。周囲を警戒しろ」
「ここにいると思うか?」
「間違いなくいる。死んでいなければな」
俺は「死神の眼窩」と呼ばれる魔道具を起動した。見た目は骨のような材質でできた円環であり、これを通して周囲を見ることで狭い範囲ではあるが生命反応を探知することができる。
とはいえ、自然の中である。虫や動物の気配がかなり多く、敵の反応がこれらに紛れてしまう可能性も考慮しなければなるまい。
「高木君、何か来ますよ」
「何?」
古島が警告した。慌てて周囲を見渡すが、敵らしき反応は無い。
だが、古島は魔王軍四天王とも単身で渡り合える剣聖である。戦闘に関することで彼の言を無視するほど、俺は愚かではない。
「総員、戦闘態勢。非戦闘員は洞窟まで退却!」
「来ましたよ! 大きい!」
――ゴオン! メリメリバキッ!
鈍く、そしてとんでもない轟音と共に、何かが空から降ってきた。それは、縦7m、横5mはあろうかという筋骨隆々の巨体に、弾帯のように連ねた剣を一部の隙も無く巻き付けた大男であった。
「なあおい……こいつ、剣鎧のケンベイじゃねえか!?」
「そのようだ。前衛は各自の判断で攻撃を許可する。後衛は俺の指示に従え」
ケンベイと思われる大男は、身につけた剣の内一振りを手に取った。2mほどもある黒い刀身を持った大剣である。外見は限りなくシンプルで、鍛冶師が練習のために作ったようなものであるにも関わらず、その刃からは隠しようのない禍々しさが染み出していた。
「こいつだけに気を取られるなよ! 近くにアークデーモンがいるはずだ! 無理をする必要は無い。常に回避できる体勢を取れ!」
「一撃で仕留めれば問題無いだろう!」
そう言って、望月が散弾銃を構えながら最前線に躍り出た。ケンベイは望月めがけて大剣を振るうが、望月は堅実に躱していく。常に間合いのギリギリ外を見極めて身を置いているな。彼はまた腕を上げたようだ。
ケンベイが望月目掛けて幾度目かの斬撃を繰り出した時、「ガギンッ!」という金属音と共にケンベイの体勢が崩れた。
「かかったな、木偶の坊!」
ケンベイの脚に、巨大なトラバサミが鋭利ではないが頑強な歯を食い込ませていた。「猟師」の加護を持っている望月翔太らしい戦い方である。
「トドメッ!」
望月の散弾銃が、背中からケンベイの心臓を襲った。




