平和的交渉51
例えば、村にいたアークデーモンの場合は、自室や森の中等、様々な場所に身を隠すことでこの問題を回避できただろう。それと似たような手はここを根城にする場合は使えないというのが、斉藤の主張である。
「変化限界に関しては、狭い部分を抜けた先に再び広い空間があるのだと推測しているが」
「いいえ、高木君。それはないわ」
口を挟んできたのは緑山アリス。望月と一緒に洞窟入口の罠を解除した女だ。詳しくは知らないが、日本人とどこかの外国人とのハーフだそうで、美しい金髪と青い瞳が特徴である。「顔の造形自体は日本人的なのがギャップ萌えだよね!」というのは天之川織姫の談である。
彼女の加護は「調律師」という、聴力、音感に補正が乗るものである。幼少期よりピアノやバイオリンを習っていたらしく、加護を得る前から絶対音感を持っていたそうだ。そこに加護の補正を受けた結果、音の反響から先の地形を割り出すことができるレベルで音を聞き分けられるようになっている。
「あの先はどんどん狭くなって、縦穴に突き当たるわ。その下からは激しい水音がした。相当な急流が通っているわね。その音が邪魔でそこから先のことはわからなかったけれど、たぶん、アークデーモンが身体を休められる場所は無いと思うわよ。急流の先は別だけど」
「……ほう」
俺は困惑した。アークデーモンが逃げることなら恐らく可能だ。身体を水棲生物に変えて急流を下ればいい。その場合、俺達の追跡は徒労に終わることになるだろう。
しかし、それこそ変化限界の問題がある。どこまで続いているかわからない以上、急流下りの途中で溺死するリスクは避けたいはずである。それに、そもそも彼等はここを拠点として利用していたはずなのだ。少なくともどこかに留まれる場所が無いとおかしい。
また、逃げたにしても村にいたアークデーモンを置き去りにしたのかという疑問が残る。彼等が敗走してからここまでに十分な時間があったことを思えば、逃げるなら全員で逃げられたはずだ。食料も十分にあったはずなので口減らしの必要も無い。
――単にあの個体が疎まれていた? いや――。
そう考えると……確かに何かが妙である。




