平和的交渉12
「あっちの方です。魔王軍は、どちらに向かっていても決まってあっちの方角から来ているように見えました」
ジャンは窓から身を乗り出して沈黙の森の一角を指さした。俺はジャンが指さした先の地形を地図で確認した。
「よし、わかった。おいジャン、ビジネスの話をしよう」
「ええと……なんです?」
「取引をしようと言っているんだ」
俺は窓際にいるジャンの目の前に立った。
「俺達に協力すれば、お前達が冬を越してその後も食いつなげる程度の物資を支給してやる。それと、人質の安否も確かめてやろう。ただし助けるかは別問題だ。これに関してはそもそも生存している可能性は低いと思っているし、仲間の命を危険に晒してまで救おうとは思わない」
「それで、我々に求める『協力』というのは?」
「大きく分けてふたつだ。ひとつ、俺達と自発的に公平な契約をしたことを内外に対して認めること。ひとつ、今ある物資を俺達にも分配すること」
「冗談じゃない!」
声を上げたのはジャンについて小屋に入った男達のひとりだった。
「俺達だけでも冬を越せるか怪しいってのに、お前等にも食料を回せ? 馬鹿も休み休み言え! そもそもお前達はただの傭兵だろうが! 役人じゃない! 我々が法を犯したところで、お前達に非難される謂れはない!」
「俺達が通報したら同じことだと思うが?」
「役人が信じるかは別問題だ! お前達が役人を連れてくる頃には、証拠とやらは全部無くなっているぞ!」
その男に追従して抗議の声を上げていた男達は、ジャンが「待ってくれ」と言うとジャンに鬱陶しそうな目を向けた。しかし、彼等が口を開く前にジャンが俺に問うたことで、男達は口を噤まざるをえなくなった。
「それで、それを拒否したら、どうなるんだ?」
「やはりお前は賢明だよ、ジャン。勿論、交渉が略奪に変わるだけだ。俺としては食い扶持と手間が減るのでそちらでも構わない」
微笑みながらそう返答した。ジャンはさっと青ざめ、取り巻きの男達は目を見開いて酸欠の金魚のように口をぱくぱくさせた。
「つまり、賢明なジャン君以外のぼんくら諸君のために分かり易く状況をまとめると、君達には『我々と協力してこの危機的状況に立ち向かう』か、あるいは『ここで死ぬ』かの選択肢しかないのだよ。至極単純な二択だろう? さあ、今すぐ決断したまえ」




