第10話 『世界を設計する者』
世界が止まった。
正確には、止まって見えた。
舞い上がる砂埃。
空中で静止した瓦礫。
黒い鎖。
剣を振る騎士たち。
すべてがゆっくりと流れている。
「これは……。」
レインの目の前には、無数の青白い線が浮かんでいた。
建物。
地面。
武器。
人。
魔物。
この世界を構成するあらゆるものに、まるで設計図のような線が重なって見える。
『第二設計図──構造解析』
『対象を解析します。』
その声と同時に、目の前の黒い鎖へ視線を向ける。
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名称:崩壊の鎖
素材:魔喰鋼
弱点:第七結合点
耐久率:98%
魔力供給源:術者
切断推奨角度:31.6度
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「……見えた。」
レインは静かにつぶやく。
今までは「物を作る」だけだった。
だが今は違う。
どこを壊せば、どこを直せば、どこを組み替えればいいのか。
すべてが理解できる。
「なら。」
レインは右手を軽く振る。
「再設計。」
パキッ。
たった一か所。
鎖の一点に指先が触れただけだった。
次の瞬間。
ガシャァァァン!!
黒い鎖は一斉に砕け散る。
「なっ!?」
仮面の男の表情が初めて揺らいだ。
「あり得ない!」
「崩壊の鎖を素手で!?」
レインはゆっくり立ち上がる。
その瞳は青白く輝いていた。
「お前たちの力は”壊す”こと。」
「でも。」
「壊すだけじゃ世界は前に進まない。」
レインは足元の折れた騎士の剣を拾う。
刀身は真っ二つ。
普通なら使い物にならない。
しかし――。
「設計変更。」
淡い光が剣を包む。
折れた刀身が溶けるようにつながり、さらに形が変わっていく。
刃は薄く、美しく。
柄は軽く。
魔力を流すための回路まで刻まれていく。
完成した剣からは、青い粒子が静かにあふれていた。
「そんな……。」
セリーナは息をのむ。
王国最高峰の鍛冶師でも、こんな芸当は不可能だ。
「一瞬で伝説級の武器を……。」
レインは剣を軽く振る。
ヒュン。
その一振りだけで黒い衝撃波が消え去った。
「全員、下がってください。」
その声には、不思議な説得力があった。
騎士たちは無意識に従う。
仮面の男は笑い始めた。
「ククク……。」
「やはり本物か。」
「創造神の後継者。」
男は仮面を外す。
現れたのは三十代ほどの青年。
額には黒い紋章。
「私は無貌教団四天柱。」
「ゼクト。」
「本来ならここで連れて帰る予定だったが……。」
彼は空を見上げる。
「予定変更だ。」
「今日は顔を見るだけで十分。」
「次は”あのお方”が来る。」
その言葉を残し、黒い霧となって消えていった。
静寂が訪れる。
騎士たちは誰も動けない。
レインだけが、手の中の剣を見つめていた。
(違う……。)
(今の俺の力じゃない。)
頭の中には、まだ無数の設計図が眠っている。
それなのに使えたのは、そのほんの一部だけだった。
(もし全部使えるようになったら……。)
考えた瞬間、背筋が寒くなる。
そんな力を、人が持っていいのだろうか。
そのとき、セリーナが膝をついた。
「レイン殿。」
「お願いします。」
「王都へ来てください。」
「陛下だけではありません。」
「賢者様も、あなたを待っています。」
「賢者?」
「この世界で唯一、創造神について知る人物です。」
レインの心が揺れる。
創造神。
設計士。
封印。
そして、自分の能力。
その答えが王都にあるなら、行くしかない。
「分かった。」
レインは静かにうなずいた。
「王都へ行こう。」
その瞬間。
誰にも気づかれないほど遠い空の彼方。
雲の上から、一人の少女がレインを見下ろしていた。
透き通る銀髪。
背中には純白の翼。
彼女は優しく微笑みながら、小さくつぶやく。
「やっと見つけた……。」
「お兄ちゃん。」
レインには妹はいない。
少なくとも、本人はそう信じていた。
しかし少女の瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちる。
「今度こそ、絶対に守るから。」
彼女の背後では、天を覆うほど巨大な扉がゆっくりと軋み始めていた。
その扉には、古代文字でただ一言だけ刻まれている。
――《神界》
第11話へ続く。
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後書き
ついにレインは「設計士」の力の一端を解放し、物語は王都編へ突入します。
そして最後に現れた翼を持つ少女の正体とは――?
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