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橄欖色のアーカイブ  作者: 藍川 卯木子
橄欖色のアーカイブ

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49/116

第49話 4月24日 実験施設『エルズニル』低層階 真夜中 4

 今まで一言も口を開かなかった少女が、まるで澄んだ水が流れ出すような声で語り始めた。

 あまりにも自然で、あまりにも滑らかなその声に、アルスは思わず息を呑む。胸の奥がひゅっと縮むような感覚に襲われ、ただ呆然と彼女を見つめることしかできなかった。

 ソノラはそんなアルスの戸惑いを見て、くすりと楽しげに微笑む。そして、からかうような口調で言った。


「おい、あほづらを晒すでない。話すことがそんなに珍しいか? こんな些細なことで驚くとは……この弱いひよっこが、賢三郎が何としてでも助け出したいと望んだ者なのか?」


 言いながら、ソノラの視線がふとアルスの右腕へ落ちる。

 アルスもその視線を追いはっとした。腕にはめ込まれた宝珠が静かに輝いていた。まるで呼応するように、神秘的な光を放っている。


「ほぉ……我以外のメテオロイドが、もう一つこの場に存在するとはのぉ」

「これはメテオロイドって言うの?」


 無意識に質問を投げかけたアルスに、ソノラはぷくっと頬を膨らませた。先ほどまでの威厳とは打って変わり、どこか子どもっぽく拗ねた声音になる。


「おいこら、お主。ピンチを助けたのに、御礼の言葉もないとは何事だ?」


 その仕草の可愛らしさと、口調の威圧感の落差に、アルスの頭はますます混乱する。けれど慌てて姿勢を正し、震える声でなんとか言葉を絞り出した。


「ソ、ソノラさん……ありがとう」


 彼女は穏やかに微笑み、きっぱりと言う。


「『さん』は要らぬ。ソノラで良い」


 アルスは深く頷き、改めて言った。


「ソノラ、ありがとう」


 そのやり取りの余韻が残る間もなく、背後で巨大な機械が再び唸りを上げた。 砲身に青白い光が集束し、空気がびりびりと震える。緊迫した気配が一気に押し寄せる。

 ソノラはすっと踵を返し、堂々とした足取りで前へ出た。巨大な敵を前にしても、その背中には微塵の揺らぎもない。


「我に戦いを挑むとは……ふふっ、面白い。いいだろう。相手をしてやろう。久々の戦闘で体が慣れておらぬが、良い運動にはなりそうじゃな。おい、お主」

「は、はい!」


 反射的に声が出る。ソノラは鋭い眼差しを向けたまま言った。


「お主、アルスと呼ばれておったな。アルスよ、私のメテオロイドに、アイツを倒すよう命じるのじゃ」

「えっ……」

「早くしろ。先ほどのように、心で念じれば十分じゃ」


 アルスは右手の石をぎゅっと握りしめる。掌の中で、確かな温もりが脈打っていた。

 そして、覚悟を込めて叫ぶ。


「ソノラ! お願いだ、もう二度とあのアンビジブルが復活しないよう、確実に破壊してほしい!」


 ソノラはくすっと笑った。


「別に声に出さなくても良いのだが。あぁ、わかった」


 彼女の表情が一瞬で引き締まる。アルスは思わず、続けて口にした。


「でも……できれば、被害者は出さないでほしい」


 ソノラはわずかに眉をひそめる。


「我儘な奴だ……だが、賢三郎との約束じゃからのぉ」


 その一言を残し、彼女は静かに構えた。

 次の刹那――その体が、水のように流動した。腕が細長く伸び、鞭のようにしなり、鋭く振り下ろされる。 

 そしてその体は固い防壁へと変形し、敵の攻撃を受け止める。その動きは流麗で、無駄がなく、まるで戦場に舞う芸術のようだった。

 巨大なアンビジブルもまた、ソノラを完全に敵と認識したのだろう。砲身がまばゆく輝き、空間が震える。

 二つの圧倒的な力が衝突し、その中心でアルスはただ目の前の光景を見つめることしかできなかった。

こちらXアカウントです→@UkikoA4616

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