番外編(猫の耳 3)
「おはよう。」
私が目を覚ますのと同時に、こちらを見つめながら微笑む彼女の顔が、私の目に大きく映し出された。なんだか違和感を感じながらも私は、おはようと返事をする。まだ寝ていたかったのだが、それでは学校に遅刻してしまうので無理に体を起こす。そして重い体を二本の足でゆっくりと支えながら、洗面台の前まで歩いてゆく。寝起きだからか目も頭の中も霞がかかったようだった。無理やりにでも自分を起こすために、冷たい水で顔を洗う。なんだかようやく視界と思考が安定してきた気がする。やっとよく見えるようになったその瞳で、私の歯ブラシを手に取ろうとする。おっとあぶない。私のはこっちの青いほうだったな。
?
ここでようやく私は異変に気付く。急いで居間へ向かうと、朝食の準備ができていた。
「そんなに急がなくても、まだ時間に余裕がありますよ。」
喋っている。昨晩まで、にゃあとしか鳴かなかった彼女が。あまりの驚きに、私はその場に立ち尽くしてしまった。ていうか語尾にゃあ、とか、にゃん、とかじゃないんだ。なんてどうでもいいことを考ていると、焼き鮭と味噌の香りが私の鼻を刺激した。お腹が空く。窓が開いているようで、涼しい風が吹き、カーテンが揺れる。白い日差しが床で反射し、部屋中に散らされていたその景色は、これから始まる新しい生活を祝福しているようだった。
朝食を食べ終わり、学校へと家を出る。
「それじゃあ、いってきます。」
「いってらっしゃい。」
みぞおちのあたりから心臓へと温かいものが溢れていくように感じる。振り返るとそこには、黒い髪と対比するように、かなりオーバーサイズな白いシャツを身に着けた女性が立っていた。しかし何といってもその猫耳が一番に目立っている。その女性はゆっくりと私のほうに向かってくると、にこりと笑ってもう一度、いってらっしゃいと言った。




