登録
朝起きると服を着たまま寝ていた。
「…ふぁー、風呂入らないと気持ちわりー。」
足のギプスを見る。
「がっつり行動制限かかってるし、風呂どうやって入ろう?」
何とか素っ裸になりお風呂の扉を開ける。
お湯を貼るか、シャワーを浴びるかだけど…。
シャワーヘッドから水が垂れる。シャワーは無理か。
足をだすか、何かに吊るか…。
紐はないし吊れない。だすしかないのか。
浴槽にお湯を溜める。
適当にお湯を溜まったところで止める。
「これでお尻から行けば…。」
左足を浴槽の外に出したまま、腕の筋肉で体勢を維持しながらゆっくりお尻をつける。
「よしっ、次はどうやって洗って流すか…。」
浴槽の淵に腰かけ、洗剤にスポンジを含ませて洗う。
泡だらけの状態でまたゆっくりとお尻をつける。
お湯を抜いて浴槽を空にし、そのままの姿勢でシャワーの蛇口をひねる。
「冷たっ、うひゃー、つめたーい。」
水で体の泡を流しきる。
「ああぁー、タオルに手がとどかないぞ。」
ギプスを少し濡らしながらタオルを取る。
「こんなもんかな、お風呂ミッションクリアーだ。」
服を着替えて、履いていたズボンのポケットに手を入れる。
小銭を履いてるポケットに入れ、メモを見る。
「このメモって看護師さんのくれたやつだ。」
メモは2枚重なっていた。
一枚目には『大槻紗也』と電話番号、二枚目には『柿崎澪』と電話番号が書かれていた。
「これを登録なんだけど…どうすんだ!?」
スマホ店員さんが困ったら連絡くれ、って言っていたのを思い出す。
スマホの袋の横に置かれたメモを見る。
『北原美咲』と電話番号が書かれていた。
「友達いっぱい!」
スマホのアプリを教えられたとおりに操作する。『愛助』と『江崎晶』とあった。
「あの人、江崎晶っていうのか。男みたいな名前だな…そういえば、ししょーも男って言ってた。」
ノアは江崎晶に電話する。
トゥルルルルー、トゥルルルルー。
「はい、もしもし?」
「おぉー、出た!?晶さんは男ですか?」
「ノアさん…!?何を言ってるの!?」
「名前と電話番号を登録しようとしてて、登録は一人で何ともならなくて…。」
「なるほど……今日は休みだから、一時間後にスマホショップ近くのコンビニでいいですか?」
「はい!」
電話を終えて、スマホとメモ3枚をポケットに入れる。
テレビ台の引き出しを開け、最後にもらった給料封筒から一万円を抜きポケットに押し込む。
松葉杖を取り部屋の入口に移動すると、鍵がドアの下に落ちているのが見える。
「うっ、鍵が取れん。」
松葉杖を壁に立てかけ、反対側の壁を背にゆっくりとお尻をおろす。
左足が曲げれないので横ばいでドアに近づく、右手を伸ばし鍵をゲットする。
上体を戻し、鍵を左手に持ち替え左のポケットに入れる。
ボロボロになった靴を右足に履く。左足はギプスが邪魔で履けない。
松葉杖を持って立ち上がろうとするが立ち上がれない。
「んー、マジでムズい。」
松葉杖を壁に立てかけ直し、反対側の壁に背を押し当てながら少しづつ立ち上がる。
「はぁ、はぁ、はぁー。」
汗をかき、呼吸が乱れる。
「はぁー、落ちてる物を拾うのがこんなに難易度高いとは思わなかったぞ。」
松葉杖を取り扉を体で押し開ける。
外に踏み出した足に光があたる。
ドアに鍵をかけ、振り返る。
コンクリートの段差をおり、アパートの敷地を出る。
トラップのように随所にちりばめられた電柱と側溝を避けて進む。
全て回避し脇道をクリアー。
「立ち上がるよりも楽だな。」
目の前をコンビニ搬送中の大きな籠台車が通過する。
「あれの中に入って押してくれたら楽だろうなぁ。」
大通りに目をやると建物側は無造作に置かれた自転車と歩く人、車道側だと電柱と走る自転車。
「意外と運命の分かれ道だな。」
ノアはそれぞれの進んだ場合を想像する。
建物側だと自転車を避けないといけないけど、人は避けてくれるし、ゆっくり歩いても避けれる。
車道側だと電柱を避けないといけないけど、自転車は避けてくれる、ただし速いと避けれない。
「これは建物側が安全ルートなはずだ。」
大通りを一歩、二歩と進みだす。
後ろからガラガラと音が聞こえ、振り返る。
さっきと同じ籠台車が迫ってくる。
「うぁー。」
松葉杖を大きく前にだし、必死に進む。
進行方向に置かれた自転車、後ろは見なくても音が迫って来ているのがかわる。
止められた自転車と建物の間に立ち止まる。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
目の前を籠台車が通り過ぎる。
「ふぅー、脇道より難易度高いぞぉ。車道側が正解か!?」
「もっと俺に優しい世の中にしてくださいっ!」
ぶつぶつ言いながらも歩いていると、信号機の向こうに約束のコンビニが見える。
「後は信号を2回渡ればクリアーだな。」
脇道側の信号を渡り、大通り側の信号が変わるのを待つ。
周りに同じ信号を横断する人が増えてきて、一気に埋もれてしまう。
「…これは動きにくい。」
人の間を抜けてノアの横に立つ女性、車道の信号機が黄色に変わる。
「あぁー、やっぱりノアさんじゃない。」
「おぉー、店員さん!」
「どうしたのその足?」
「こないだ女の人とぶつかって、その人が上にのってて、目が覚めたらこんな感じ。」
信号機が赤に変わる。
「こっち来て。」
晶はノアを気遣いながら人の流れを避けて端に逃げる。
「みんな動きが速くて、人も多いしかなりピンチでした。」
「もうあっちに渡らなくてもいいから。」
「人が周りに増えると自分ではどうしようもないですね。」
「その足だと尚更ね、あっちに良い雰囲気の店があるから、そっち行こうよ。」HP-1(残り49)
「良い雰囲気ですか…!?何かデートみたいですね!」誤爆HP-5(残り44)
「そうだよ、デ…エ…ト!!仕事休んだからそっちの方が良いよね。」HP-10(残り34)
「えっ、仕事休んだんですか!?」
「だって、ノアさんだから特別なのっ!」HP-5(残り29)
「喜んで良いのかわかりません。」
「そこは素直に喜ぶところ、と…く…べ…つ。」HP-5(残り24)
「さぁ行くよ。すぐそこだけど足痛い?」
「大丈夫です。ただ遅くて…。」
しばらく歩くと、晶は小走りで進んだ後、振り返る。
「ここだよぉー、あとちょっとだから頑張れー。」
仕事中には見れなかった元気な一面にドキッとする。HP-2(残り22)
「入口が古い感じがしますね。」
「そうだよ、入ったらもっと驚くよ。」
晶が扉を開けておさえ、ノアは中に入る。
「おぉー、なんだここは?」
テーブル毎に垂れ下がった照明にステンドグラスのカバー、壁はレンガ造りで奥の壁にはコルクボードと貼り付けられた紙、カウンターには四人組の男女が正装をした女性と喋っている。
「レトロな雰囲気でおちつくんだよ。」
「すごくいいです。」
「会員登録してるんだけど、ノアさんも登録すれば?飲み物10%割引つくよ。」
「はい。」
晶に壁際のソファーに促され座ると、隣に座ってくる。HP-1(残り21)
「隣なんですね。」
「だってスマホの使い方が知りたいんだよね!?」
「はい、そうなんです。」
正装をした女性が樽に似た形のコップをテーブルに置く。
「ご注文決まりましたら、呼び鈴を押して下さい。」
「ノアさん何がいい?私はミックスジュース。」
「俺もミックスジュースがいい。」
晶が呼び鈴を押して注文をする。
ノアはポケットからメモを出し、晶に見せる。
「何これ3枚とも女性じゃない、ノアさん!」
「はい、友達登録のやり方がわからなくて。」
晶は疑いの目で見つめる。
「とーもーだーちぃ?ほんとにぃ?デートって言って女性の電話番号を登録させるってデリカシーないよー。」
「困ったら連絡くれって言ってたので…ごめんなさい。」
「友達とかいるんじゃないの?スマホ見ていい?」
「友達は全然いないもので、どうぞ。」
スマホをポケットからだし晶に預ける。
「通話履歴は…私だけ…、友達は…愛助!?この人は?」
「昨日、公園で水くれた、ししょーの偉人さんです。」
「ふーん、何のししょー?」
「女性を100人以上斬ったらしいです。」
「役者さんってことかな!?名前がそんな感じだもんね。ノアさんは演技できるの?」
女性が注文したドリンクを持ってきてテーブルに置く。
「あのー、私は会員登録してるんですけど、この人も登録したいそうです。」
「ありがとうございます、では登録用紙をお持ちしますね。」
ノアは飲み物に視線をかえつつ、淡々と答える。
「俺は女性の耐性がないから、演技は全然ダメです。」
「まだタマゴかぁ!?でも、その顔と背丈もあるから将来有望だよ。」
「ちょっとはレベルアップしてるんで、そう言ってもらえると嬉しいです。」
「そっか、なら女性の友達も必要だよね。…いいよ、登録のやり方を教えてあげる。」
女性が登録用紙を持ってくる。
「記入してお会計の時に出してもらえれば結構です。」
「はい。」
晶がノアにくっつき、登録のやり方を説明する。HP-5(残り15)
「ここに名前とここに電話番号を入れて、後は登録のところをターッチ!」
晶がノアの頬を指でタッチする。HP-1(残り14)
ノアは指に気はとられるが、そのまま入力を続ける。
「できたぁ?」
晶はさらにくっつく。HP-5(残り9)
入力できたノアは晶がいい匂いをさせてるのに気づく。HP-2(残り7)
ノアは晶の髪を撫でる。主夫耐性発動
「晶さんいい匂いがします。」誤爆HP-1(残り6)
晶は撫でられた瞬間、ノアへの気持ちが一瞬途切れ、咄嗟に離れる。
「スマホを使いこなすならGPSとかもあるよ。」
「何ですかそれ?」
「自分の居場所がわかって、目的地までの行き方を教えてくれるの。そ…れ…と…、共有すればお互いにどこにいるかもわかるの。」
「あぁー、昨日会った北原美咲さんもそんなこと言ってました。」
「さっきの信号みたいな偶然じゃなくても会えるよ。」
「おぉー、それは楽ですね。」
「GPSは設定でONにすれば自分の居場所がわかるけど、私の居場所知りたい?」
「はい!知りたいです。」
「スマホ貸して。」
アプリをダウンロードして共有する。
「晶さん、約束してた写真は?」
「あっ、忘れてた、すぐに送るね。」
晶は自分のスマホから写真を転送する。
「きた?」
「何か上に出ました。」
「写真はこのメッセージのここに入るから、これをタッチして保存する。今のやり方はわかった?」
「はい、わかりました。」
「保存した写真は、こっちをタッチして、ここにあるからこれをタッチ。」
写真が大きく表示される。
「おぉー、白い服の晶さんです。」
「あっ、これをホーム画面に入れればいつでも見れるよ。」
「いつでも見たいです。」HP-1(残り6)
「それなら、ここをタッチしてこれを選ぶと…ほら!」
「いい笑顔が隠れてます。」
「そう言うときは、アプリを次の画面に全部移動…っと、これでどう?」
ノアは目を輝かせて喜ぶ。
「すっげー、やったー。」
「ねぇ、嬉しい?」
ノアは晶の目を見て答える。HP-1(残り5)
「はい、嬉しいです。登録ミッションクリアーです。」
「ノアさんの目的は完了なのね、でもせっかくのデートなのにその足だからなぁ……、そうだ、近くの公園で二人で撮ろうよ。」
「あっ、でも言っておかないといけない事が…。」
「何か意味深な感じ!?」
「俺、特異体質みたいで女性の耐性がないんです。」
「さっき言ってたじゃん。他にも何かあるの…?」
「はい…、実は…。」




