言ってはいけない話
短髪の若い男が千鳥足でタクシーに乗り込んだのを見届けると、私は居酒屋を後にした。
さほど飲んだつもりはないものの、妙に頭が重い。
夜風に吹かれると、私の鼻先からは若者の酒臭い息のにおいがだんだんと薄れていった。
においが薄れるたびに、私の胸では後悔の念がだんだんと姿を現してくる。
どういう後悔なのか、よく分からない。
まだその正体は、きっとにおいの中に半分ほど埋まっているのだ。
そういえば、大切なことを言っていなかった。
運転手は私にあの話をした後、死んでしまったのだということを。
私を車から降ろしてすぐに、急発進して単独事故を起こしたのだ。
さっきまでは、呪いとは無関係だと思っていたのに……今では、そのことがいやに気にかかる。
居酒屋にいるときには、何の不安もなかったはずなのに。
今では私の不安を塞き止めていた何かが、すっぽりと抜け落ちてしまっているようだ。
そうだ。
そういえば、胸の痛みがなくなっている。
鼻先からはもう、酒のにおいが完全に立ち去っていた。
こうしてやっと、胸の中に後悔の正体が姿を現したのだった。
あの話を、彼にしてしまってよかったのだろうか。
後悔の正体は、こんなに単純なこと。
誰にも言ってはいけない話だったのに、どうして言ってしまったのだろう。
誰にも言ってはいけないと、
釘を刺されていたというのに。
了
この話は、誰にも言わないでください。




