40話 暗黒騎士団
最悪のチーム。その言葉に首を傾げるとベルゼテはゆっくりと一人ずつ指を差して理由を言った。
「リオは本来四つの魂からなる悪魔。魔界では爵位もありそれはもう厄介者ではあったけれど…今となっては三つも失い、更には残りの一つの魂だって半分抉られた状態よね?」
「力は戻ってきたんじゃないのか?」
「戻ったとしてリオが扱うのは幻覚、遠距離魔法」
右手の握力凄いけど、という前にベルゼテの指は食事中のセレーネを差した。
「セレーネはそのスピードと大きさで移動には欠かせないメンバーよ。でも戦闘になった場合、近距離タイプになるでしよう」
「爪で傷を作った所に雷を呼ぶんだ!な、セレーネ」
「わふ」
「なら……」
そしてジェイン。
「あの子は?」
「ジェインが居ないと俺が動けない」
「貴方の武器は?」
「出来れば銃……かな?」
「私は?」
「?」
ベルゼテも遠距離魔法を扱っていた。そしてこの中で唯一の火力だ。結局何が言いたいのか分からずメンバーを一人一人再確認する。
ダンタリオン、無口でたまにムカつく事を言う。セレーネ、唯一の癒し。ジェイン、よく寝る。俺、早く安全な街に行きたい。ベルゼテ、ゴキブリ。
「あ…」
「分かったかしら?」
「やられ役が居ないな……大体居るだろ?弄られ役っていうか、そういう奴。あと盛り上げ担当みたいな奴も」
「そんなのどうでもいいわよ!ほら、ちゃんと見て!」
ダンタリオン、遠距離。セレーネ、近距離。ジェインは俺に憑いて、俺は銃、遠距離。ベルゼテ、遠距離。
「分かったかしら?」
「セレーネを前に置いて全員下がれって?」
「バカっ」
まるでヒロインが話の分からないヒーローに言うみたいな『ばか』発言に鳥肌が立った。
ベルゼテが言いたい事は分かっている。バランスの悪いパーティー編成。だからこそ最悪のチーム……つまり俺達で陣形など考えても無駄である、と。
「タンクと剣士が入ればいいってこと?」
「そもそも貴方が盾となり剣を握ればバランスが整うのよ。どうせジェインが憑けばなんとかなるんだし」
「……つまり?」
「グラウディアス、貴方が前衛よ」
「話はまとまったか?そろそろ来るぞ」
何が来るって?と振り向くとダンタリオンは窓の方を向いた。ソファーから立ち上がり窓を開けに向かいながら、一応返事はしておく。
「俺達に陣形とか必要なし、で話はまとまったよ」
前衛に立たされるくらいなら決めずに好きな所を陣取るまでだ。
窓を開けて枠に寄り掛かりながら外を見る。これといって何も無く、人が歩き魔族が歩き…何処も彼処も平和そのもの。一体何が来るというのか振り返るとベルゼテがすぐ後ろに居たようでそのデカい乳に顔が埋もれた。
「あら」
「っざけんなよゴキブリが!」
「ラッキースケベってやつじゃない!そんなに怒らなくてもいいでしょ!」
「どこが?!ラッキー!?」
不幸中の不幸でしかないんだが!
「うっせぇなぁ~」
「グラウディアスったら酷いのよ?自分から飛び付いてきて」
「触覚生やしてた悪魔が何言ってんの?!というか何が来るんだよ!」
やっと起きたジェインは無視してダンタリオンに向かって声を荒げると表情を変えないままやはり窓の方を見ている。もう一度外を見たところで何かが来る気配などなく、ベルゼテは乳の位置を直しながら窓際の壁に寄り掛かった。
「暗黒騎士様よ」
「!!」
咄嗟に俺も窓際の壁に背中をつけて…そっと覗き込むように外の様子を覗う。
魔族はゼノンダラス国へ向けて決まったルートを侵攻しているのは確認済みだ。マキファンズ国では特に戦も無く順調だがゼノンダラス国へ入ればそうも行かない。そこで活躍したのが暗黒騎士団。
「既にゼノンダラス国を侵攻しているのは暗黒騎士団所属のライコウ。ライガ一族の長よ。続いて合流したのが暗黒騎士団長の右腕とされているユウ。彼は既にゼノンダラス国から戻り己の団長を迎えに来ているわ」
「つまり?」
「右腕と団長が此処をお通りになる、という事ね」
平和な街並みは途端にザワついた。鎧が擦れる音が多数聞こえ、人は端へ避けると魔族はその場で片膝と拳を地に付ける。
俺達がこれから抜けるつもりだった門からゾロゾロと入ってきた黒い鎧を纏った集団……
「魔族の国の特攻軍、暗黒騎士団のおでましよ」
先頭には鎧で武装した大きい黒馬に跨がった黒鎧の男。長剣を腰に下げ、ただただ真っ直ぐ見据えている。顔は見えないが…あれがもう一人の主役……
「すぐ後ろに付いている男がユウよ」
ベルゼテに言われて暗黒騎士の後ろを付いていく男へ視線を向ける。同じく鎧武装した淡い茶色の馬に跨がる男は銀プレートの鎧を装備していた。栗毛色の髪は長く、低いところで一本に結われ進む度に風で揺れている。
「ユウ…?」
「見ての通り彼は人間で間違いないでしょうね。どうやって魔族の国で生きてこれたのか……イルダで聞いた情報だと凄腕の槍術者らしいわ」
「……………」
「グラウディアス?」
「……そ、だろ」
「どうかした?」
嘘だ。あり得ない。見間違えた。いや、見間違えるものか。
いつの間にか窓から身を乗り出していた俺はユウと呼ばれた男を目で追い、その男もふいに上を向いた。互いの視線がぶつかったのは一瞬。ユウは何事も無かったかのように前を向き直してしまう。
「グラウディアス!落ちるわよ?!」
「ーっ」
ぐらり、と窓の外へ上半身が傾いていったがベルゼテに襟を掴まれて部屋の中に戻る。そのまま近くのベッドにストン、と座ると口角が上がった。何か面白い事があったわけではない。自然と嘲笑うかのように上がった口角とは別に腹の中でフツフツに煮え返る怒りによる震え。
「……ほう、これは」
「止めなさいリオ」
「悪魔が好む感情ではないか。憎悪、嫌悪…更には恐怖まで抱いている」
「リオ!」
「大丈夫だベルゼテ……何も間違ってない」
立ち上がった頃には暗黒騎士団の行列が窓から消えていた。それを見遣ってから皆に向かって「先へ進もう」とだけ言う。ルーチェ、妖精の恩恵を受け花が1年中咲く街へはイルダから三日…セレーネならば一日で着くだろう。
宿屋の主人は俺とジェインだけがずっと引きこもり姿を見せていなかったせいか心配してくれたが、愛想笑いを返して代金を支払い先に出ていった悪魔2体を追って宿を出た。
「わふっ」
「セレーネ?どう…し、た……」
「よう。やっぱり恭介か」
宿から出た所に暗黒騎士団がズラリと並んでいる。俺の名前を呼んだユウという男は馬から降り歯を見せて笑うと近付いてきた。ベルゼテが俺の前に立ち、ダンタリオンは喉を鳴らすように笑うと俺の後ろに控える。
「見間違えじゃないみたいだな」
「俺も。見間違えじゃなくて嬉しいよ、恭介」
「……なんで居るんだ?死んだろ?」
「ははっ、死んだな!あ、いや、どうだろうな……もう覚えてない」
おかしそうに笑ったかと思えば少し考える素振りを見せると途端に悲しそうな表情を浮かべる。魔族の国に仕える暗黒騎士団、その団長の右腕と呼ばれる男…ユウ。いや、
「覚えてなくても俺は覚えてるよ。お前は俺の目の前で刺されて死んだんだ」
「お前、なんて。お兄ちゃんに向かってそれはないだろ」
ベルゼテがこちらを振り向いたが肯定などしたくもなかった。ユウ…悠介。女関係を拗らせて死んだ男。
「ユウ。どうやら本当に弟のようだな。我等は先を急ぐ。聖女を止めねば我等の魔王が民に当たり兼ねん」
「あーどうぞどうぞ。団長様が行くんだから俺は後から行かなくていいでしょ?弟との感動的な再会しちゃったもんだから……当分は放って置いてくれていいからさ」
主役相手に随分と軽い口調で返した男は何の咎めもなく群れから離れた。乗って来ていた馬はいつの間にか消え、暗黒騎士は団に命令を下すとゾロゾロとイルダから出て行く。
「ユウの弟、恭介と言ったか」
「その名前はもう捨てた」
「では、名は?」
「グラウディアス……グラウディアス•ドゥーベン」
「……そうか。良い名だ。また会おう、グラウディアス」
手綱を引っ張り黒馬を操った暗黒騎士は先を進む団を追い抜き走り去っていった。また会いたくはないが、突然斬りかかってくるような奴じゃなくて良かったとも思う。それが兄貴の存在のせいだとしても、そもそもコイツが居なければ先程のように対面する事も無かったわけで。
残された俺は兄貴を睨み、睨まれた兄貴は薄く笑う。
「朝食はまだか?それとももう昼かな?」
「……行くぞ、セレーネ」
「わふっ」
セレーネを連れて暗黒騎士団が行った先とは逆へ進む。ベルゼテやダンタリオンも付いてきたが兄貴までついてきた。無視しようと思えば簡単ではあるがいつ諦めてくれるだろうと考えた瞬間に溜め息が漏れる。
いや、諦めを知っている者ならばあのような最期を迎える事は無かったか。




