39話 ルート確認
湿地帯を抜け丘を降りる途中、イルダの街とその先には海が見えた。それに反応をしたのはジェインだったが、残念ながら海に用はない。
「イルダへ寄らずに突っ切るなら…高低差はあるけれどまた山を登るか、その下の森を抜けるかね」
「山だとか森だとかばっか…この世界は自然に優しすぎるんじゃないか?」
「森や山がないと生きられない魔物も居るもの。貴方の世界にはないの?」
「あるけど…」
街から街へ移動する度に山や森は通らない。だが人間のために森林伐採を進めて野生の動物が街に降り、それを迷惑がる人間の自己中心的なニュースを見るよりも…自然に溢れるこの世界の方が良くも思えてくるのは事実である。
イルダへ寄らないという選択肢はあったが物語本来の登場人物が関係する国の様子も気になったため寄ることにした。それにベッドで眠れるのならそうしたい。
「ドゥーロでギルドカード作ったしマキファンズ国所属っていう証拠にはなるんだろ?」
「まぁ、そうね…私はあるけどリオとジェインはどうするの?」
「俺は影の国に引っ込めば問題ないからなぁ」
「我はそんなもの知らん」
問題はダンタリオンか。ベルゼテのように悪魔王から詐欺カードを貰うわけにもいかず、かといって新たに登録するには適性検査が必要だが…悪魔を嫌う精霊によってその正体は暴かれてしまう…
「魔族と悪魔って仲良かったりしないの?」
「私達は魔物とは違うから寧ろ敵対してるんじゃないかしら?最近の事は分からないわ」
「魔族などどうでも良いが…立ちはだかるというならば殲滅を望もう」
「殲滅を望むな…。取り敢えず暴れないでくれよ?下手な行動さえしなければ無駄な闘いもないんだから…多分」
イルダの門に近付くと他の街のように門番は居り、こちらに気付くと普通に歓迎された。
「やぁ、冒険者かい?」
「そうだけど…」
「イルダじゃあんまり仕事はないかもしれないけど飯は美味いよ!さ、入って!」
魔族の演技なのか、それとも人間か…言われるがままに門をくぐった先に座っていたのは人よりも一回り程大きい魔族。肌の色は灰色で白目の部分が黒い魔族は小さな椅子に座っていたが此方に気が付くと立ち上がり一度お辞儀をするとまた座った。
街の様子を見れば人は人で自由に動き、魔族は魔族で寛いでいるようだ。肌の色と瞳の色で見分け方は簡単だった。
「まずは宿から探そう」
言えばたまたま通りすがった魔族が足を止め、俺の目線に膝を曲げてある方向を指差した。
「あっちの宿、飯、うまい」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
かなり友好的だ。
魔族に教えられた宿屋へ入るとロビーには他の魔族と人が会話もしており、ポロスのように人と獣人が共に暮らしているのと変わりない光景であった。
「いらっしゃい!部屋はいくつにする?」
「大部屋はあるか?それと、魔獣も同じ部屋で寝たいんだけど」
「大部屋…ね。お、良かった、空いてる。魔獣もいいよ!ほら御客様だよ!案内してやって!」
大部屋に案内された俺は誰よりも先にベッドで横になった。ジェインもベッドに横になりさっそく寝息をたてている。横になった瞬間に疲労が押し寄せ体は重くなり、ベルゼテに風呂を勧められたが今は動けそうにない。
移動はセレーネに任せていたが疲れるものは疲れるのだ。デカい魔物、ハイドラとの戦闘は精神的に感じるものはあったし、兎に角……
「寝かせてくれ…」
「私は街の様子を見てくるわね」
「任せる…」
早速出て行くベルゼテの後ろ姿を見送った後、俺は寝た。何度か薄く目を開ける度に部屋の色が変わっていくが二度寝三度寝と重ねる。
やっと目を覚ました俺にいつの間にか戻ってきていたベルゼテは「おはよう、お坊ちゃん」と冗談めかしく言った。
「…よく寝た」
「そうでしょうね。もう朝よ」
「は?…は?!」
「セレーネの食事はちゃんと用意したから安心して。今度こそお風呂に入ってきたらどう?その方が目も覚めるでしょう。…それから話すわ」
イルダの街に何かあったのだろう。素直に風呂へ入り部屋へ戻るとベルゼテはソファーに座り、ダンタリオンは壁に寄り掛かり立っている。セレーネは肉を食べ、ジェインは未だに眠っていた。
ベルゼテと対面するように向かいの一人がけソファーに座ると話しが始まった。
「イルダは確かに魔族の手によって落ちているけれど、だからと言って特に被害があるわけではないわ」
単純にゼノンダラス国へ侵攻するために、その経路にあったからという理由で魔族が攻めただけ。しかし実際に被害がないのはイルダがマキファンズ国であり、抵抗する気がないからだ、と。
「ヤマモトタカシっていう勇者が魔王と戦った時に大陸を割ったんだろ?ゼノンダラス国を攻めるならドゥーロも魔族に占拠されるのか?」
「要塞街ドゥーロね…魔族からしたら大陸が繋がっていなくても問題はないでしょうからわざわざ橋を渡る必要もないんじゃないかしら」
「なるほど……」
このまま北側を突き進んでゼノンダラス国と戦争をするつもりか。
「でも、なんだっけ?魔族が居ると……瘴気?がどうのってなかったか?」
「街の中にはない。だが外に魔族が好む瘴気は発生していた」
「それって人に影響あるんだろ?大丈夫なの?」
「リオが言った通り街の中にはないのよ。この街の人に危害を加えるつもりはない、という事ね」
瘴気を浴びたい魔族は街から出るだけ。そうして満足したら戻ってくる。
ドドゥーから貰った地図を出してテーブルに広げると、部屋にあったペンをダンタリオンが投げてベルゼテに渡した。
「今がここ、イルダの街。魔族はこのルートを通ってゼノンダラス国へ向かっている。この辺にあった街は既に人は住めない状態らしいわ」
北側は全て魔族が支配している。ゼノンダラス国の首都は大陸の最も東。このまま行けば飲み込まれるのも時間の問題、と思うが現実はそうではない。何故ならこれは小説の中の物語であり、主役である聖女は健在だ。
そっちのルートではなく今は俺が目指すべき場所、アウトラの位置を確認するとイルダの他にも町らしき所があった。
「ここは?」
「イルダから馬車を使えば三日ほどで着くルーチェという街ね。一年中花が咲いているそうよ?シルウェストレ森林が近いから花の妖精が恩恵を与えたのでしょう」
「どうせ魔族のルートに引っ掛かってる。けど街はそのまま機能してるから問題はない、だろ?」
「え、えぇ……そうだけど」
「なら今日中にルーチェを目指して出よう」
そして次はこっち、と指差す。
「ルーチェよりも小さいけどこれも街?」
「そこはドワーフの街、ガルダワンよ。ここに鉱山があるからドワーフ達が集まりやすくてそのまま一つの街を作ってしまったのよね」
悪魔王に言われて破壊しに行ったが途中で陣を踏んで消滅した仲間がいるそうで、ベルゼテは寄らなかったらしい。
ルートを確認し終えた俺は現在地からアウトラまでの道を指でなぞる。ルーチェ、ガルダワンを過ぎた後は再び魔族の国からマキファンズ国へ戻り一つの街を経由してアウトラに到着だ。
「路銀は多めにあっても良いけどポロスの時みたいに勝手な行動はするなよ?」
「そうね…役にも立たない悪魔を連れ歩くはめになったから反省はするわ」
「我の事か?」
「お家に帰る方法が無くって不貞腐れていた悪魔が貴方の事ならそうなってしまうわね」
「やめて、ほんと。やめて。」
頭を抱えて俯けば悪魔2体は何も言わなくなったが…このままアウトラまで向かってどれくらいの時間を使うのか。魔族との闘いは避けられそうだがはぐれ魔物を避けて通るのは難しい。
「というわけで」
風呂に入っている間にハイドラとの闘いを思い出し、陣形とやらを考えてみた。レイド達が自然と配置についたように俺達も戦闘態勢に入る場合は各々が得意とする位置に移動できれば戦いやすくなるのではないか、と。
「こんな感じでどうだ?」
提案そのいち。銃を持った俺は中距離を陣取り、前にセレーネとジェイン。後ろにベルゼテを置き、一番前にダンタリオンを置く。
部屋にあったチェス盤のようなもので再現するとベルゼテとダンタリオンは黒目から光を消して小さな溜め息を吐き出した。
「私は遠距離だけど前にゴチャゴチャ居られたら鬱陶しくてならないわ」
「我は囮という事か?前にも後ろにも敵が居ては何処を狙えば良いのか…」
「それは前の敵を狙えよ。……え、なんで?ダメ?」
「駄目も何も…私達は共に行動こそはしているけれど、冒険者としてパーティーを組んでいるとしたら最悪のチームでしょう?」




