好奇心
カレンと紅は食料の拝借をするべく二手に分かれた。一応、再逝際運営の中心人物であるセレスとクレイに其々話を通しておくべく、姿を探しつつの物色だ。
大皿料理は大きさ、重さ問わず仕舞い込め、時間経過もないカレンの袖下こと異次元収納に仕舞い込む為カレンが担当し、紅は酒2、ノンアル8の割合でひたすら飲み物を瓶ごと拝借する。
紅もカレン程の容量ではないが異次元収納を持っているので特に苦も無く瓶を拝借しつつクレイの姿を探す。なお、酒は突撃先に居るロード様であって紅は飲まない。未成年なのでノンアルだ。
この間に死者が食べた後の料理をつまみ即座に見なかった事にし、口直しに他の料理をつまみつつ会場内を歩くと、会場を見渡せる隅の方で微笑まし気に会場の一角を見るクレイを発見した。
「クレイ牧師」
「おや紅さん。こんばんは、お祭りは楽しんでおいでですか?」
「とても、皆さんも楽しそうですし雰囲気も穏やかで、良いお祭りですね」
「ええ、この世界が統一されて直ぐに出来たお祭りなので歴史は浅いですが、良いお祭りだと思っています」
「統合後に出来たお祭りですか、それにしては色々と取り決めなども確りしていますね」
歴史と共に最適化されて少しづつ良くなる事は多いが最初っからこんな感じだとすると、相当頭の回るヒトが立ち上げに尽力したんじゃないか?
「確かお祭りはロードが発案なさったと聞いていますよ」
「それは、すごいですね」
素直に驚くな、その話が本当ならロードは相当頭が回るヒトだ。ますますもって会いに行かねば!っとそうだ
「これからロードの元へ挨拶に行こうかと思いまして」
それを伝えるために探してたんだ。目的を忘れるところだった。
「おや?珍しいですね。あまり近づくヒトはいないのですが」
「そうなのですか?生者として一言ぐらい挨拶を、と思ったのですがやめた方が良いでしょうか?」
困った。人間嫌いなら近づけないぞ?力ずくはさすがに・・・
「いえ、他者を嫌うヒトではないので大丈夫でしょう。もともとこのお祭りは無礼講ですので」
ふむ無礼講か、建前でもあればそれを盾になんとかできるな、ならやっぱり突撃有るのみだ。
クレイのお墨付きが貰えたので大丈夫だろう、となればそろそろカレンと合流して・・・
「クレイ牧師、先程から何を見ておいでで?」
「え、えっと」
クレイは先程から会場の一角を見続けている。話しかければ此方を向くのだがそれ以外はずっと同じ場所に視線を注いでいるのだ。ちょっと、いやかなり不審だ。
しかもクレイの目線の先には、
「カレンに何か?」
「え!?」
綺麗で可愛くて愛しい我が嫁が死者の誰かと話している。
もしカレンにちょっかいをなんて考えているなら容赦は・・・
「ああ、隣に居るのはカレンさんなんですね。いつもと違う服装で気が付きませんでした。・・・・良かった(ボソ」
ほうほう、カレンと知らなかったと、嘘はついてないな表情が見えれば嘘なんてすぐにわかる。そして最後はボソリと、小声で言ったようだがCランクの渡し屋は五感が鋭いのだ。何を言ったかばっちりと聞こえたぞ?
「隣とは?カレンと話してる死者の方ですか?」
「ええ、まあ」
何とも曖昧に笑うな、あの死者に注目して欲しくない?そう言えばあの死者は誰だ?カレンが楽しそうに話してるし知り合いだろう、準備中に仲良くなったって線もあるが長めに話をしてるってことは一定以上仲がいいんだろうな、死者の中でそんな仲が良いのは・・・
「セレス司祭?」
「・・・(ニコリ」
クレイはニコリと笑って黙り込む、きっと踏み込んで欲しくないのだろう、しかしまあ、好奇心旺盛な紅はその意図を察しながらあえて踏み込んでいくスタイルなので、
「セレス司祭の隣に居るのがカレンである事に安堵していましたね?それはなぜです?最初に会った時も随分セレス司祭の様子を気にしていましたが生前からの知り合いだから、というには少々度が過ぎるのでは?ただの知り合いでは無いのでは?」
「紅さん・・・」
して欲しくないだろう質問をしていく、それに対するクレイの反応は頭痛を堪える様に頭を抱え、ため息を一つ、何やら諦めの籠ったため息だ。
「あなたは好奇心旺盛で隠し事は暴きたいタイプでしたね」
「はい!」
「いいお返事ですね。・・・はぁ」
む、事実なので肯定しただけだというのに更にため息をつかれた。失敬な、ちゃんと分別ぐらい付けてますが?
「もちろん暴かない方が良いものは暴きませんが、あなたの隠し事はそういうタイプではなさそうなので」
そうそこだ。出来れば隠したい。けれど絶対ではない。こういった隠し事は暴きたくなるのが人情だ!・・・え?一緒にするな?カレンと俺はそうなんだから良いんだよ。
ニコニコと楽しそうな紅にその心情を察したのかクレイはもう一つため息をつき、
「・・・想い人です」
目を逸らしながらそう口にした。
「成程」
納得がいった。なんせこの会場に居る死者の殆どは白骨化している。中には生前への擬態により生者と変わらない姿の者も居るがそれは強い未練を持った強者だけだ。基本は皆同じ見た目で区別がつかない。
いくら生前からの知り合いだからと言ってセレスを的確に見つけ、見つめ続けるのは至難の業だ。それをやってのけるのはひとえに愛の力ってやつだろう。俺もカレン相手ならそれ位やるし可能だな。
因みに、死者と生者では身に纏う雰囲気が異なるため幾ら擬態しても判別は可能だ。
「生前からですか?」
「遠慮とかは?」
「ニコリ」
クレイは少々顔を赤らめながらやめて欲しいと訴えるも、好奇心がうずく紅は無言の笑顔を向けた。追及を辞めるつもりは無い。その意図を理解したクレイはいつもの柔和な笑みではなく、珍しく嫌そうな顔でため息をつくと大人しく口を開いた。
「生前からですよ」
「セレス司祭の死後も?」
「思い続けていますよ。世界統合後に未練を持ち成仏していなかった死者が体を持って顕現し始めました。その中にセレスが居たことに、もう一度彼女に会えた事に信じてもいない神に感謝しそうになりました」
「牧師なのに神を信じていないんですか?」
「私は自然物・現象そのもの崇拝する方の自然崇拝なので、日々自然の恵みに感謝を捧げているだけですよ」
なるほど特定の神では無く日々の糧を与える自然そのものへの信仰か、通りで話しやすいはずだ。下手な宗教者は自分の信仰する神は絶対!とか言って押し付けてくるからな、あの辺はホント面倒くs
「第一下手な宗教者は現実の見えていない者が多いので係わりたく有りません。下手したら後ろから刺されますよ」
あ、仲間だわ。
すんごいさらりと流してるが要するに宗教面倒くさいって言ってるようなもんだな、話し合いそう。
「下手なことがあったんですか?」
「ええ、おかげでセレスと縁が出来たのでそこまで無碍には出来ませんが、死ぬかと思いました」
「それは、ご愁傷様です」
すんばらしい笑顔で返されたのでこの話を掘り下げるのはやめよう。そもそも話がずれてるし、って、んん?
「クレイ牧師」
「はい?」
「あれ」
話しながらも二人して意中の女性に目を向けているものだから全く視線は合わなかったが、その一言でクレイもカレンとセレスに近寄っている男に気づいたらしい。隣から冷気が漂ってくる。エルフって氷系使えたっけ?
「紅さん、少し歩きませんか?」
クレイは冷気を漂わせながらもにっこり笑顔で紅を誘う、明らかただ歩くだけでは済まないだろう、そもそも目が笑っていない。しかしまあ、
「良いですね。ちょっと虫退治と行きましょうか」
斯く言う俺もヒトのこと言えないんだけどな!
紅はクレイとは真逆の無表情ながらも一目で怒りの分かる殺気籠りの目で、クレイからの誘いに当然の様に乗る。
こうして紅とクレイは周囲に冷気と殺気を振りまきつつ何故か誰ともすれ違わずに害虫の元へと歩いて行ったのである。
・・・後でその光景を見たものは語った。まるでモーゼの様だったと。