一般人
さて、ところ変わってこちらは華やかだ。
どこかで誰かが何かをしている事なんてこれっっっぽっちも気付かずに女性二人がお穏やかに会話を楽しんでいる。
「じゃあやっぱりそうなんだ」
『はい、やはりお気づきでしたか』(※カレンには普通に言葉に聞こえるためその様にお伝えします※)
「同じ女だもの、分かるわ。紅は気付いてなかったみたいだけどね」
『気付かれてしまうと恥ずかしいのでそのままが良いです』
そう言ってセレスは頬を両手で覆い隠した。もし血の気の通う素肌があれば赤くなった顔が見られただろう、残念ながら白骨化してしまっているためバラ色に染まった顔は見られないが大変可愛らしい恥じらいの姿だ。
「恥ずかしがる事ないのに、とっても素敵な事よ?」
『わ、私の事はいいんです!カレンさんはどうなんですか!』
「私?」
『紅様ととっても親しげじゃないですか!』
「そうね。かれこれ10年かしら?あの子は未成年だから人生の大半は一緒にいる事になるわね」
『人生の大半・・・素敵ですね』
「あらセレスさんだって」
『もう!私の事はいいんです!』
「あらあら、照れちゃって可愛いわね」
『カレンさん!!』
きゃきゃうふふ、お花が舞いそうな可愛らしい会話を繰り広げる二人に周りもほんわかな雰囲気だ。
無論、一部二人の可愛らしさに当てられた者が居ない訳でもないが、そういった輩は次の瞬間には一瞬で会場の隅に移動させられる事態が多発している為、二人に声をかける者は居ない。
移動させられた者も何があったのか認識できておらず大量のクエスチョンマークを量産することとなっていた。
『それにしても、そんなに沢山のお料理をお持ちになって、どうなさるんですか?』
「これ?ちょっとロードの所に御挨拶に伺うのだけれど手ぶらだと失礼だし、手土産にって思って」
そう言ってカレンは複数の大皿料理を袖の中に展開されている異次元収納に納めていく、傍から見れば袖下に異様な量の料理が消えていくように見える。果たしてそんなに要るのだろうか?
『ロードにお会いになるのですか?』
「ええ、そのつもりよ。ダメかしら?」
コテンと首を傾げながら訪ねてくるセレスにこれまたコテンと首を傾げながら訪ね返すカレン、その姿に約二名ほど心臓を射ぬかれたのはある意味当然だろう。
その間も近付こうとした輩の瞬間移動は止まらないのだから流石だ。大変な能力の無駄遣いである。
『えっと、お会いになるのは問題ないと思います。今まで会いに行こうとした方がいらっしゃらなかったので確証はありませんが、ロードは生者嫌いではありませんので』
「なら大丈夫ね」
そうカレンは機嫌良さそうに言って料理を袖下に入れる手を止める。物凄い量が入った筈だが見た目は何も変わらない。大変便利な袖下だ。
『あとは紅様と合流するだけですか?』
「ええ、もう来てるみたいだし探す手間がなくて楽ね」
『え?』
きょとんと目をしばたたく(様な雰囲気の)セレスにカレンは笑みをひとつ向けた後、先ほどから不自然な気配を発する付近に声をかける。
「さっきから何してるの?」
「バレた?」
カレンの声に素直に答え、二人の前に現れたのはカレンの合流相手である紅だ。照れ臭そうな顔をしているのは声をかける前に見付かった為だろう。
・・・何故直ぐに声をかけずにいたのかなど気にしてはいけない。察して欲しい。無駄に高度なことをしていた。とだけ言っておこう。
「いたことはね。何してるかは分からなかったけど」
「じゃあ何してたかは秘密な」
人差し指を唇に当てながらそう言った紅にカレンはため息ひとつで追求するのをやめる。こういった態度の時は大体口を割らないからだ。
無論、必要とあらばどんな手を使ってでも割らせるが、今は特にその必要がない為追求をしなかったのもある。
「にしても、気配とか消してたのに良く分かったな」
「簡単よ。気配がないのは不自然なことだもの、気配のない場所にはナニかが居るのよ」
何を当たり前な、と言いたげな雰囲気だが普通は完璧な気配遮断で事足りる。一流の暗殺者でもそこまでだ。ソレをいとも簡単に見破るのは超一流でそれに対抗するには同じだけの力量が必要になる。ソレを当たり前のように語り実行する辺りがカレンの力量を表していると言っても過言ではない。
『えっと、カレンさんはすごいのね?』
「無理しなくて良いのよセレスさん。一般人には分からない事だもの」
何がどう凄いかは分からないが兎に角すごい。っという事だけを理解したセレスはカレンに称賛を送り、カレンはそれに苦笑交じり答えた。寧ろここで理解を示すのは同類だけだ。
セレスには一般人との接し方で接しているのでそこで理解を示されると今後どう接するべきか迷ってしまう。なので一般的なセレスの反応はたいへん良いものだ。分からないなりに称賛を送ろうとい姿勢もたいへん好ましい。もっとも、
「ふむ、どうしたら気づかないんだ?」
一般人をとっくの昔にやめた紅にとってはその技術を是非とも吸収したいと、多大な興味を持つだけだったが。
そんな紅にカレンは笑みを向ける。渡し屋という職業は常に危険と隣り合わせだ。一つでも多くの技術を学ぼうという姿勢はたいへん好ましい。なんせ技術の多さで選択肢が増え、選択肢の多さで安全策を講じる手段が増えるのだ。技術の向上、多さは身の安全に直結すると言っても過言ではない。故に向上精神を否定する事は無い。
「そうね。セレスさんも居るし分かりすく視覚で説明しましょうか」
そう言ってカレンは目の前のテーブルに置かれたマリネやカナッペ、チキン等の皿を動かす。
「この状態を見てどう思う?」
「えっと・・・」
『お皿同士の間に不自然な隙間があります』
紅は考え込んでしまったがセレスは直ぐに気づいた。美的センスのなせる技だろうか?
「流石セレスさんね。紅はどう?」
「えっと?」
「お皿同士の間に隙間があって不自然じゃない?」
「・・・成る程」
カレンの指摘から数秒後、納得したらしく頷く、それを確認してからカレンは口を開く。
「この不自然な場所が気配を断ってるヒトがいる場所、知っていれば容易く分かるでしょ?」
「理屈はな、実際感知できるかは分からないが」
『そもそも気配が解らないヒトには無理です』
「セレスさんみたいな一般人は気配を察知する必要がないもの、解らなくて当然よ」
この世界では知性あるもの同士は一方的に相手を害せない。従って気配に鈍感な者が増えるのは道理だろう。勿論、互いに承知の上であれば決闘、殺し合い、戦争も可能だ。尚、最後の一つに関しては世界統合後一度も行われたことはない。
「で、この不自然な隙間にヒトが居るならこの不自然さを無くせば良いの、こうやってね」
そう言ってカレンは皿同士の不自然な隙間にグラスを置く、それはあたかも元から有ったかのような自然さでグラスはそこに存在する。
「これが自然な状態の存在の隠匿、その場に合った気配を纏えば不自然さはないわ。このテーブルの場合はシャンパングラスね。ここに徳利とかジョッキがあると不自然すぎるでしょう?だから纏う気配は気を付けること」
「なるほど、つまりその場に合った気配に擬態するのか」
「そ、これを自然にこなせるヒトは超一流ね。こちらの牧師様とか」
そう言ってカレンは自身とセレスの間の空間に当たり前のように立っているクレイの肩に手を置いた。
「おや、バレましたか?」
「『!?』」
「これでも超一流に分類される者なので」
カレンは存在に気付いていた為当たり前のように話続けるが、紅とセレスはすぐ近くにクレイが居たことに驚き、唯々目を見張る事となったのであった。




