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黒歴史

「カレン様?」

「んー?なにカガリさん」

「どうカなシましタカ?」

「ん?なんで?」

「ぼンやりシている様に見えたノデ」


 ドラゴン肉を使った贅沢なようで贅沢でない夕食会にて、量を食べる訳ではないカレンとカガリは未だ食べ続けている二鬼と一人とは別に机と椅子を出し、アルコールを傾けつつ談話していた。


 飲みながらの談話途中に会話が途切れるのはよくある事、会話と酒の余韻を楽しむように口を開かなくなるので沈黙はおかしくはない。

 おかしくは無いのだが、心優しい友人は余韻を楽しむような沈黙ではないと気付いたらしく、カレンのベールの奥にある眼を覗き込むように見つめて心配してくれた。

 そんな優しい友人にカレンは自然と自身の口元が弛み笑みの形をとるのに気付くが、その笑みのままカガリに大丈夫だと返す。

 そんなカレンにカガリも首を傾げながらも一つ頷いて身を引いた。

 身を引きつつもカガリは動かない表情の代わりにその目に心配そうな光を見せる。本当に目は口程に物を言うとはよくいった物だ。


 目の前のカガリには出会ったばかりの様なボンヤリとした人形の様な様子は見られない。

 本当に5年で見違えたものだ。


 5年、その年月の間にカガリとカロンには色々な変化があった。

 心配していたカロンの就職先が決まり、カガリは心を学びほとんど人間と変わらない感性が身に着いた。


 カロンは万屋のリーダーに気に居られて万屋パーティーに所属、プログラミング関係の仕事を割り振られた。

 カロンは腹芸は出来ないタイプで周囲の流れを読むのは不手際だったが、プログラマーとしては一流だったため先輩たちに随分気に入られた。

 きとジャン達も同じ思いだったのだろう。素直で隠し事が出来ない向上心が有る後輩、可愛くない訳がない。

 だからこそ彼らは可愛い後輩と可愛い可愛い愛娘、二人の写真を送ってくれっとカレンに血走った目で頼み込んできたのだから、おかげでカレンは精神的な何かがガリガリ削れた。空港での写真には山ほどのイイねスタンプが連打された。親馬鹿どもめ。


 この5年で先輩たちにあれこれ知識を詰め込めれ、いつの間にやらハック技能まで習得しており、この間など国家機密の奪取に成功したらしい。

 パソコン組が異様なまでに大盛り上がりしてると思ったら国のスパコンをハックって、凄いとは思うが趣味でおこなわれたと聞いて呆れた。

 良い感じに弱みになりそうなところだけ写してあとは痕跡も綺麗に消したらしいけど、ウチのパーティーは国家機密とか掴んでどうするの?国家転覆でも狙うの?

 ・・・ないわね。そんな面倒な事したら自由時間が無くなるわ。パーティー万屋は自由に無理なくって言うのがモットーだもの、荒れてもいない国に手を出したら忙殺されるのが落ちね。情報やら裏工作やら政治的駆け引きやら武力やら、その他一切合切で国に負けるとは思わないけど終わった後が面倒だから嫌だわ。


 だって一国の王やら側近になってもウチの連中が途中で飽きて投げ出す未来が見えるもの、基本ウチは気分屋が多いしね。そんな奴らの収める国とか只の無法地帯じゃない。治安が悪化したらそれこそ住み辛い。そんなのごめんよ、今いい感じにバランス取れてるんだからやる必要が無いわ。

 ただ何かあった時の保険として他組織の弱みの1つや2つや20や30握っておくのは必要だと思うわ。パソコン組も情報の奪取以外に何かしたわけじゃないからリーダーから怒られなかったようだし気にする事ではないわね。


 カガリとは依頼完了後も何かと接点があって今では大切な友人だ。頭の回転が速くて手先も器用でしかも力が強い事もあってギルドの事務職員に推薦した。ら、何故だか解体に興味を持っていつの間にか解体小屋一の解体人にまで上り詰めたことには驚いた。今ではうちもよくお世話になっているし、友人特権で指名が通りやすいのは助かる。

 優先してくれる分報酬には色を付けてるし、軽く人見知りのきらいが有るみたいだから信頼できる人の紹介もしてるから損はさせてないはずだしWin-Winな関係かな?

 依頼ついでに予定とか聞きやすいから遊びに誘いやすいし、やりたいことをやれているみたいだからいい事ね。


 事務にしろ解体にしろ一定のヒトと接する機会のある仕事は彼女の精神の成長を促し、著しい成長を遂げた今、カガリは他者を思いやれる心優しいヒトへと成長した。友人として鼻が高い物だ。


 まあなんにせよ二人とも居場所があって生きる術が有る。そして一緒に生きたいヒトがいるのは幸福なことだ。


「カレン様?」


 おっと、またぼんやりしてたみたい。カガリさんに心配そうな顔させちゃった。お酒が回ったかな?柄にもなく昔を思い出してたしなあ。


「何でもないのよカガリさん。ちょっと昔を思い出してただけ」

「昔?」

「そ、出会った頃のカガリ嬢と今のカガリさんは違うなって」

「ソ、その時の事ハ、忘れてクダさい!」

「何気に記憶力が良いから難しいかなあ」

「アアぁ、黒歴史デす!」

「うふふ」


 うん、可愛い。こうやって当たり前の会話が出来るのは凄い事よ。本当に成長したなあ。


「カガリどうしたんだ?」


 本人曰く黒歴史を思い出して悶えているカガリに時たま燃料を追加して遊んでいるカレンに、BQセット付近で夥しい量の食料を消費していた筈の紅が声を掛けてきた。

 つい今しがたまで少し離れた場所にいたのに一体いつの間に来たのか不明だし、当たり前の様にカレンの隣にこれまたいつの間にか置いてある椅子に腰かけて優雅に足を組みつつ食後の茶を飲んでいるとか寧ろホラーのいきなのだが、カレンはまったくもって気にしない。だって紅だし。


「あら、紅もういいの?」

「ああ、満腹だ。姫鬼と狂はまだ食ってるけどな」

「二人とも鬼だもの、鬼は食べる側から減っていくって言われるほどすこぶる燃費の悪い種族だしね。普段はセーブしてるからこそ食べれるときに食べてるんでしょ、満足するまでそっとしてあげなさい」

「分かってる。競争相手が居なくなって寧ろ箸が進んでる感じだな」

「あらあら食べ盛りね。ライさんは?」

「食べ盛りにもほどがあるけどな、ライは満腹になって寝始めたから籠に入れてリビング置いてきた。で?」

「ん?」

「カガリは何で悶えてるんだ?」

「んー、黒歴史の大量放出かしら?」

「またえらい事態だな、あんま弄ってやんなよ」

「だって、カガリさんが可愛くて」

「まったく」


 ふっとため息をつきカレンをいさめつつもその目は優しい。しょうがないなあっと言わんばかりの顔には一応注意した。位の意味しか感じられない。

 まあカレン大好き紅だからしょうがない。ちょっとカガリが羞恥心で悶える位ならカレンの可愛らしい悪戯を笑って容認するのだ。だって自分は痛くもかゆくもないし、寧ろかわいいカレンを拝み放題、眼福だ。カガリにはたまったものではないが。


「紅様、たすけてクださイ」

「カガリ、嵐は過ぎ去るのを待つのが賢明だぞ」

「紅さまァ」


 いつの間にかいた紅に気付いたカガリが助けを求めるも爽やかに笑って見放されたこのヒトで無しめ!


「ははは、ヒトじゃなくて人間だしな!」

「!!!?!?!」

「ん?なんだカガリそんな驚いた顔をして、お前の感情は目に雄弁に出るんだ。大体言いたい事は分かるぞ?」

「・・・ソウデスカ」

「そうだとも、さて、カレン」


 カガリのジトっとした非難を受けてかそれともカレンが他者を構うのが気に入らないのか、紅はカレンの意識をカガリから自身の方へ向かせた。


「ん?」

「カクテルでも作るか?」

「んー昨日も作ってもらったし別に」


 カクテルに惹かれかけるも昨日既にたらふく飲んでいる。なんせ昨日は夜遅くまで影の愚痴を聞きつつ紅が作ってくれたカクテルを呑んでいたのだ。自分でも多少は作れるが紅が作るカクテルはカレンの好みにドンピシャで手が止まらなくなる。おかげで外で飲んでもおいしくない。宅飲みが一番だ。無論紅の目論見通りである。


 閑話休題


 まあ兎に角いくら好きでも昨日たっぷり飲んだのでカクテルにそこまで惹かれない。が、


「ならサングリアでも作るか」

「サングリア!良いわね。デカンタを持ってくるわ。ワインあったかしら?」


 それはソレ、これはコレ、サングリアはカクテルではない別物だ。故に惹かれる。


 別にカレンは酒飲みではない。肉体的な問題らしく幾ら飲んでも酔えないようで水の様にお酒が飲めてしまう。故に普段は周りのペースに合わせて杯を開けるタイミングを調整するのだが、紅の作る混酒やら混成酒やら果実酒やらは美味しくて手が止まらなくなる。これまた外で飲むお酒がおいしくない。

 多分紅はカレンの好みドンピシャな料理だって作れるとは思うが、そこは本人がカレンの手料理食べたさに作らないので腕の程は不明だ。


 閑話休題


「昨日の残りが有るよ。果物も常備が有るだろ」

「赤?白?」

「それは出来てからのお楽しみ、デカンタは戸棚の上?」

「ええ、奥の方に普段使わないから仕舞い込んであるの」

「分かった。作ってくるから待ってな」

「うん、ありがとう」


 ニコニコ機嫌良さそうな笑みを口元に浮かべたカレンはひらひら手を振って紅を送り出し、カガリはカレンの意識がずれた事に安堵するのだった。

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