モブサイドA レング、ソウグ、ホウグのお話し 2
閑話ではなくサイドストーリーです。
作中の時間が前後してしまいますが、想君がゴブ狩りをした次の日です。
<マーダージャック・ウルフ>を2匹倒し、下級ポーションを作った辺りのくだりですね。
本編にも絡んでいく予定ですので、お読みいただけると嬉しいです( ´ー`)
ドンドンドンドン
けたたましく響き渡る音がする。扉を殴り付ける音だ。それに合わせて頭がガンガンと痛む。
「おいレング!レングっ!とっとと起きないか!」
叫び呼ぶ声が一層の痛みと不快感を与えてくるが、これは起きないと不味そうだ。
働かない頭でもすぐにわかる。これはゼダール副会長の怒鳴り声。しかもそのお相手に俺をご指名してるとくれば、のんびりもしていられねぇ。
「っててて。へい!いまいきますから少々お待ちください!」
「少しも待てん!すぐに開けろ!火急の用だ!」
普段から待つことを知らない副会長だが、いくらなんでもこの様子は尋常じゃない。なんだ?ここ数日はゼダールのダンナから依頼は受けてないハズ。なにかやらかした覚えはねぇんだが・・・。
一応の心構えをするだけの時間があるはずもなく、仕方なく扉を開ける。
「いつまでボヤボヤしてるんだ!すぐに準備にかかれ!急ぎ行ってもらいたい場所がある!」
「いててて!いたたたた!あ、あの、ゼダールさん!つよっ!力が強いですって!」
ダンナに両肩を掴まれがっくんがっくん揺すられるともう最悪だ!頭は痛いし吐き気もひどい!
「いいか?依頼の内容は2つだ!1つは東の森の1番岩周辺を見てきてくれ!<マーダージャック・ウルフ>の死骸があるハズだ!ソイツを手早く始末してきてほしい。
あぁ、ソイツの状態を出来るだけ細かく調べるのも忘れないでくれ!それと2つ目は人探しだ!特徴は黒髪黒眼の、髪が異様に長いうんたらかんたら・・・。」
こっちの状態なんか一切気にすることもなく、一息に言いたいことだけを言って踵を返すゼダール副会長。
後半はまったく聞き取れなかったが、その場で吐かなかった自分を誉めてやりてぇ。
とりあえずやることは決まった。
厠で吐こうおえぇぁぁぅ・・・。
―――――――――――――――――――
「それで、火急の用との事だがまた東の森か?」
「どうやらそうらしいな。細かい話しは聞けなかったが、1番岩付近を調べてきてくれってことらしい。」
「1番岩だと?なんだってあんな所を。」
「さぁな、ゼダールのダンナは言うだけ言って帰っちまったから詳しくは俺にもわからん。
ただ、<マーダージャック・ウルフ>がどうのと言っていた、と思う。」
「いくら夜通し飲んだとはいえ弛みすぎじゃないのか?レング。」
「お前に言われたくねぇよ、ソウグ。お前とホウグなんか、ゼダールのダンナが来ても起きやしなかったじゃねぇか。」
そう、昨晩は割りのいい仕事を片付けて臨時収入を得たから、夜通し飲み明かしていたんだ。それは同じく副会長のトルネオのダンナの依頼で、偵察と軽い調査だけの簡単な仕事だった。
日帰りで銀貨数枚稼げるのは、この稼業のかなり美味しい利点だ。おかげで飲みすぎちまったが。
あーだこーだとやり合いながらすぐに1番岩に着いちまった。どういうことだ?<マーダージャック・ウルフ>の死骸なんざどこにもなかったぞ?
あったのは何日か前にデカい焚き火でもしたのか、もしくはモンスターを焼き払ったと思われる焼け跡のみ。
「なぁソウグ。途中の焼け跡以外に何か目ぼしいものはあったか?」
「いや、何もないな。」
「どういうことだ?確かにゼダールのダンナは<マーダージャック・ウルフ>の死骸があると言っていたんだが・・・。」
通常倒したモンスターや死んでいるモンスターを見掛けたら、焼き払うか埋めるかだ。だが、焼き払うためにはかなり強力な火力が必要になるし埋めるのだって楽じゃない。
だから普通はバラバラにして、関節なんかの動くのに大切な部分だけを処理する。そうすれば仮に動く死体と化しても大した脅威にはならないからだ。
俺らだったら火の用意が大変だから、関節だけを埋めることになる。
しかし、先程の焼け跡には特に灰なんかもなかったし穴を掘ったりした形跡も見られなかった。
だから理由はわからねぇが、恐らくはあの近辺で火を囲った隊商でもあったんだろうとアタリをつけている。
「となると、あとはもう少し森の方になるのか?」
「そうなるな。1番岩の付近って言ってたんだろ?」
「・・・あぁ、間違いない。」
「おい、レング。その微妙な間はなんだ?」
「いや、もしかしたら1番岩周辺と言っていたかも知れないと思ってな。まぁ、些細な違いだから気にするな。」
「本当にしっかりしてくれよ。お前はいつも細かいくらいに依頼内容確認してただろうに。」
「いや、それはそうなんたが、さっきのゼダールのダンナは、その、勢いがスゴかったからな。しっかり話しもできなかったんだ。」
自分でも弱いと思える言い訳を盾にしながら辺りを見て回る。しかし、見つけられたのはさっきの焼け跡に似た複数の焼け跡のみ。
規模こそ違えど、焦げ跡も灰がないところも、掘り返した穴がないところもそっくりだった。
「・・・いや、そもそもだ。」
何かが頭に引っ掛かるがそれが何かがわからねぇ。何か、重要なことだったような気が・・・。
「レング、ソウグ、飯はどうする?腹へったんだけど。」
「ホウグ・・・お前はまたそれか。お前昨日も同じことを言っ・・・あっ!そうか、そこが変だったんだ!」
「っ!そういうことか。レング、お前もあの焼け跡に違和感を?」
「そうだ。普通に見る分には、何日も前に火を使った跡に見えるもんだが今回は違う。
昨日俺達は森の調査のためにここを通ってる。だから、こっちの小さい焼け跡には気付かなくともあっちのデカい方は必ず気づいていたハズだ。」
「あぁ、俺もそう思う。つまり、この焼け跡と、1番岩の向こうの焼け跡はごく最近になってできたものということになる。」
「あぁ、特に1番岩の向こう側のはここ1日の間にできたもんだ。・・・しかしどうやって?灰も残さずにこれだけの範囲を焼き払うなんざ方法が思い付かないが・・・。」
「魔法でも使ったんじゃないか?」
「おいおいホウグ、お前まだ酒が残ってんのか?あれだけの規模の魔法を使えるヤツなんざ、少なくともC級以上の冒険者か魔法兵クラスだろ?いまこの辺にはいないハズだ。」
「レングの言う通りだな。更にいえば、魔法を使ったとしても何を燃やしたんだ?薪でもモンスターでも、燃やせば灰が残るだろ?」
「あーそっか。じゃ、燃やそうとしたけど燃やせなかったとか?」
「それじゃこんな規模の魔法を避けるか耐えるかして、いまも無事なヤツがこの辺を彷徨いてるってか?笑えねぇ冗談だ。」
「<マーダージャック・ウルフ>の死骸もソイツが持ち去って喰った、と?」
「「「・・・・・・。」」」
およそ3ミット程の大きな焼け跡を見ながら言葉をなくす。
有り得ねぇ話しだ。だが、もしそれが実際あったらかなりヤバい。
<マーダージャック・ウルフ>の死骸を持ち去れるサイズで、しかもこれだけの魔法を放つヤツから逃げたか、最悪返り討ちにしちまうようなヤツとなると相手になんかしたくねぇ。
「戻ろう。ここで得られる情報はもうねぇだろ。」
「あぁ。長居は無用だな。」
「腹も減った。」
満場一致?したところで急ぎメタリカーナへ引き返す。そういえば2つ目の依頼は人探しだったか。
「探し人はかなり特徴的だし、すぐに見つかるだろう。こっちを先に片付けちまうか。」
街門へと着き、門兵達にも聞いてみる。
「なぁ、今日こっちで<マーダージャック・ウルフ>を見掛けたって聞いたんだがアンタら何か知らねぇか?」
「「っっっ!!」」
明らかにビクつく2人。この様子だと当たりだとは思うが、何故そんな反応が返ってくるんだ?
「どうやら知ってるみたいだな。悪いがちょっと聞かせてくれないか?依頼で調べてるとこなんだ。」
「そ、そういうことか。俺達も大したことはわからないが・・・。」
聞くと、どうやらゼダールのダンナが乗っていた荷馬車が<マーダージャック・ウルフ>に襲われたらしい。
だが、その窮地を助けてくれたヤツがいるらしく、ウルフは皮になったと。
「その助けてくれたヤツってのは?」
「・・・あまり関わり合いたくないのでな。」
?なんでだ?特に隠すような内容でもないだろうに。しかし、それならゼダールのダンナにでも聞いた方が早いか。
どうやら1番の当事者らしいしな。探してる理由としては謝礼の渡し忘れか、商会に引き込みたいかとかそんなところだろう。
「まぁ、言いたくないのなら構わねぇよ。ちなみに、これは別件だが黒髪黒眼でやたらと髪がなg」
「ししし知っているではないか!!その黒い悪魔のことを探っているのか?!お、俺はごめんだぞ!もうこれ以上は関わりたくない!」
「あ?なんだよ、それはどういう」
「これ以上答えられることはない!早く行ってくれ!」
訳がわからねぇが、ロクに話しができそうにねぇな。一先ず退散するとしよう。
道中歩きながら考えるが、全然わかりゃしねぇ。とりあえず飯でも食いながら整理するか。
手近な店に入って軽くいくらかの注文を出す。
これで暫くはホウグも大人しくなるだろう。
「それにしても、今回の仕事はよくわからねぇな。」
「あぁ、腑に落ちないことばかりだ。」
「消えた<マーダージャック・ウルフ>の死骸、謎の焼け跡、門兵の話しから狼皮を持ち込んだと思われる黒髪黒眼の凄腕(仮)。どれから追うか。」
「1度ゼダールさんに聞いてみた方がいいんじゃないか?内容はいまいちわからんが、当事者のようだしな。」
「なんの成果もなしに引き返してもまともに取り合ってはくれないだろ。
せめて黒髪黒眼の目撃情報だけでも集めながら行こうぜ。」
帰り路にいくらかの情報を得たが、どこまで使えるモンなのかわからなかった。
曰く、隻腕である。
曰く、隻眼である。
曰く、脚を引き摺っていた。
曰く、顔に酷い火傷痕がある。
曰く、眼を引かれる程の美少女である。
曰く、澄んだ鈴の音のような声だったとか。
曰く、芯が強く笑顔が素敵で美しすぎる森の奥深くにいる妖精のようだとか。
容姿の上ではかなりの情報は集まったが、最後の3つはあまりアテにできそうにねぇな。
馴染みの防具屋からの情報提供なんだが、様子がおかしかった上に他との解離が激しかった。アイツが見たのは他の人物かもしれねぇ。
というより、アイツはなんかもうダメかもしれねぇ。真面目で勤勉で、バカみたいに実直だったヤツだったんだが・・・余程見目の良い娘でも見掛けたのか?妖精とか訳がわからねぇ。
中でも1番使えそうな情報は、件の人物はギルドの登録員だったらしい。なら思ったよりは簡単に見つけ出せるかもしれねぇな。
そのままギルドへ寄って話せるヤツを探してみたが、タイミングがあまりよくなかったのか大した話しは聞けなかった。
せいぜい受付の担当をしたのがリーフ嬢ちゃんだったとか、ヨハンの野郎が連れてきたとか、ブデノードと一悶着あったとか、他愛もねぇもんばかりだった。
しかし、駆け出しの冒険者ならギルドへちょくちょく来る可能性は高い・・・か?
「ソウグ、ホウグ、悪いがこの辺りを見張っといてくれるか?俺は一旦ゼダールのダンナの所へ行って中間報告をしてくる。
ついでに馬車を都合してもらった方がよさそうだな。足の悪いヤツを連れ回すのは骨が折れそうだ。」
「あぁ、それがいいだろう。ホウグ、少しこの辺りを探してみるぞ。」
「おぅ、わかった。」
手分けしてことにあたり、俺はまんまと馬車を1台都合して貰った。その際にゼダールのダンナは、
「いいところに気が付いたな!確かに魔導師様は脚をかばっていたご様子だった!それなら馬車は当然手配しよう!他には何かわかったのか?」
「へい、1番岩周辺の探索をしましたが、大きな焼け跡や複数の小さな焼け跡があったぐらいで<マーダージャック・ウルフ>の死骸は見付けられませんでした。
また、焼け跡には一切の灰も、地面を掘り返した跡もなかったことから何かしらの特殊な事情があってできたものだと推測していやす。」
「死骸がない・・・だと?それならばその焼け跡が怪しいが、灰がないのはおかしいな。それも魔導師様が何かなさったのかもしれん。何せ相当な魔導の使い手であったからな。」
どこか自慢気な様子のゼダールのダンナだが、何故アンタがふんぞり返る?その魔導師様とやらが凄いだけだろ?・・・てか魔導師様、か。
どうやら黒髪黒眼の少女は相当腕の立つ魔導師らしい。それなら街で聞き込みをした情報と照らし合わせると全容がなんとか見えてくるってもんだ。
掻き集めた情報によると、気さくで話しやすく、笑顔の絶えない人好きのするタイプだったみてぇだしな。
大方適当に価値のあるものを吹っかけたりして機嫌を取ったり、いつもの手口で借金でも作らせて取り込もうとでもしてるんだろう。
「それでは急ぎ捜索を続けやす。暗くなってからじゃ見えやせんからね。」
「あぁ、なんとしても今日中に連れてくるんだぞ!あまり時間はかけられん!ギルドランクが上がってからでは取り込むのに苦労しそうだ。」
最後にゼダールのダンナの本音を聞けたが、予想通り過ぎてゲンナリする。まぁ、相手は多少腕が立つ小娘だって話しだし、地方貴族にでも嫁がせて仲介人としての縁でも築こうっと腹なのかもしれねぇ。
そうなるとその小娘にとっても悪い話じゃねぇな。こんなところで駆け出し冒険者やってるのよりはいくらかマシな生活ができるだろうしな。
「ということだ。日が暮れる前になんとか探し出さねぇとゼダールのダンナが騒ぎ出しそうだ。もうあまり時間もないが、引き続き探してみよう。」
「わかった。それにしても魔導師ときたか。しかしそれでは<マーダージャック・ウルフ>の件はどうなるんだ?いくらなんでも情報にあったような小娘にどうこうできる相手ではなかろうに。」
「それは俺も気にかかってはいるんだが、もしかしたらダンナの荷馬車を襲ったのは違うモンスターなんじゃないかと思ってる。」
「・・・<ウィード・ウルフ>か?」
「あぁ、大きさは全然違うし、ランクも違うが皮の色なんかは結構似てるだろ?焦ったダンナが見間違えたって可能性もあるし、ただの勘違いの可能性も高い。
いや、可能性というかおそらくはこっちだろ。そんで、その死骸をゴブや鳥系のモンスター、他のウルフ系モンスターが持って行ったと考えると筋が通る。」
「なるほど。ムリがない。となると大方あの気の弱いゼダール副会長が、モンスターに接近されて慌てた際に勘違いしちまったってオチか。」
「そういうこった。じゃなきゃ狼皮も運べやしないだろう。ダンナに聞いたら独りきりだったって言ってたしな。」
「どうにも依頼自体に穴があったんじゃ仕事がやりにくくて仕方がないな。今度からはもっとしっかり内容を聞いてからにしてくれよ。レング?」
「あぁ、ちっとばかしいまの生活に慣れて気が緩んでたらしい。これからは一層気を引き締めていくことにするよ。」
今回浮上した謎が全て解けたところで探索に気合いを入れる。元々、調査・探索に長けた俺達にかかれば小娘の1人や2人すぐに見つけられる。
そう思っていたが、一向に足取りが掴めない。
「どういうことだ?昼過ぎに街へ帰ってきたのは確からしいが、それ以降の足取りがまったくわからねぇ。」
「ギルドへも寄っていない。店や露店でもほとんど目撃情報がないぞ。まずいな、あと少しで陽が沈む。」
「なんで駆け出しの冒険者が探索から帰ってギルドに寄らないんだ?店で休まないんだ?まさか疲れて宿に直行したか?」
「そうなると最悪だな。名前もわからない相手を沢山ある宿から探し出せるハズもない。宿の外で食事をすることを祈って見回るしかなくなるぞ。」
「・・・ん~、血の匂いがこっちからする気がする。」
「っっ!!本当か!ホウグ!」
「すぐに向かおう!」
ホウグが感じたという血の匂いを辿り、通りを駆ける。すると、そこそこの背丈があるにも関わらず、腰まで髪を垂らした女を見つけた!
様子を見ると、確かに背丈に比べて顔だちが随分と幼い。これが探していた小娘に違いない。
「おっとお嬢ちゃん、黒髪で黒眼・・・でいいんだよな?陽が落ちてきて色がわからなくなる前に見つけられて幸運だぜ。
悪いがちょっとついてきてもらおうか。なぁに、すぐに済む用事さ。こっちにきてくr」
「イヤです。お断りします。急いでるからかまわないでくんない?」
にべもなく断られた?!なんでこんなに拒絶されるんだ?意味がわからないがそれでは困る!
「ちょ、ちょちょちょーっと待ちなって!アンタを連れてきてほしいって頼まれてるんだ。悪いが簡単には帰らせられねぇよ?」
「こっちは用とかないし、そもそも誰の呼び出しかも知らないし!用事があるなら自分で来いって言っといてよ。
もう今日はそれで終わりでよくない?俺もう宿に帰りたいんだけど!それに肩触るなよ変態!ばっちい汚い気分が悪い!」
き、汚いだと?!手はしっかりと洗ってるんだぞ?寝る前には必ず!
「なっ?!なんだとこのガキ!こっちが下手に出てればいい気になりやがって!とにかく来い!着いてくればいいんだよ!」
それに帰られるとこっちが困るんだっつーの!聞き分けの悪いガキはこれだから!
「ちょっと!やめろって!そんな強くしたら痛いんだよ!それに俺の脚が悪いのわかんないの?痛いから止めろって!!」
「うるさい!黙れよ!おい、ソウグ!こいつの口抑えてくれ!ホウグ、足持て足!さっさと馬車に積み込むぞ!」
小うるさい小娘なんかに構ってられるかってんだ!もう時間もねぇし連れてっちまえばこっちのもんだ!
多少魔術の心得があろうが相手は小娘。詠唱の時間さえ与えなければどうとでもなる相手だ!
「いい加減にしろっ!!これ以上はマジで怒るぞ!いま止めれば話しくらい聞いてやるから一旦やめろって!」
「おいソウグ!早くしろ!これ以上騒がれでもしたら面倒だ!ホウグも早く持ちやがれ!」
ソウグもホウグも何してやがる!こんな力もない小娘なんざ馬車に詰め込めばすぐなのに!
「んぐっ!」
おっと、ちょっと強引にしすぎたか?そんなに強くした覚えはないんだが、これだから怪我人とガキは面倒なんだ。
一応はゼダールのダンナはこの小娘に恩義を感じてるみたいだからあんま手荒にしたくはないんだが・・・?
「・・・おい。いい加減にしろよ。」
なんだ?!急にガキの雰囲気が変わった?何かよくわからんが、マズい!マズい気がする!!?
「術式 冒険級火魔法 展開・保留」
これは・・・呪文の詠唱か?急に出てきた複雑な紋様や文字はなんだ?!こんなの見たことも聞いたこともねぇぞ?!
「これ以上自分勝手に振る舞うなら、焼くぞ?」
「ひぃっ!」
ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!有り得ない!!
なんだこのガキ?なんなんだこのガキは?!
奇怪な青白く光る紋様からもヤバい感じがメチャクチャしやがるが、それ以上にあの眼がヤバい!!
俺達のことを人と見てない眼だ!まるでゴミか何かを見るかのような・・・虫でも潰そうとしているかのヤバい眼をしてやがる!!?
「おい赤茶ヒゲ男。お前の目的を言え。言わなかったらあの壁と同化しようとしてる茶色太しを焼く。」
「ちゃ、茶色太し?あ、あぁ、ホウグのことか?いや、ダメだ!やめてくれ!要件なら話す!話すからこの物騒なモンを仕舞ってくれないか?!」
焼く?焼くって言ったか?こいつは火炎魔法の使い手か?!そ、そういえばあの焼け跡をホウグは魔法だって・・・。
「お前はバカか?いまさっき俺を誘拐しようとした癖にアホなこと言ってんなよ。話さないならもう燃やすけど?」
小娘が左手をホウグへ向けている。それに連動するように青い紋様がホウグを向いて・・・まさか!あそこから炎が出るのか?!灰も残らないような劫火をっ?!
「あ、いや、ちょ、ちょっと待ってくれ!要件ならすぐに言う!実は俺たちはオオテさんとこの商会の雇われなんだ!
今回は副会長のゼダールさんにアンタを連れてくるよう頼まれただけなんだ!」
「オオテさん?誰だよそれ?知らないな?ゼダールも思い出せそうにない今日この頃。遠い記憶の彼方には、そこはかとなく薄ぼんやりとイメージは残っているかもしれない程度だ。」
なんだと?ゼダールさんを知らない?もしかして人違いか?いや、こんな条件に見合うヤツはどう考えても目の前のコイツしか・・・。
「んん?あ、ゼダール?ゼダールね!はいはい、思い出したよ!アハ体験できた!脳内神経細胞が強化されるのを感じるんだけど、INT上がってない?」
イ、イント?なんのことが?いや、それよりコイツはやっぱりゼダールさんのことを知ってやがった!とぼけてる様子もないし、ホントに忘れてたのか?
「ですよねぇ~。でもまぁ、そんなこと知ってたし?知ってましたし?特に期待もしてませんでしたし!」
何やら独り言を続けていやがるが、なんのことだかさっぱりわかんねぇ。内容から誰かと話しでもしてるのか?いや、でも辺りには他に誰も・・・って!
ソウグのヤツ自分だけ逃げやがった!!アイツの逃げ足はホントに半端ねぇな!仲間を置いて逃げるか?普通!!
「んむ~。まぁ、特に俺の人生に関わり合いがなさそうだし、いいんじゃない?」
「ひ、独りで何勝手に話し進めてんだ?!とにかく俺らに着いてこ・・・いや、ついてきてもらってもいいか?」
「うん、そういう殊勝な態度って大事だよねー。少なくとも、急に誘拐しようとするよりは好感が持てるかなぁー?」
お?よ、よし!なんだかんだ言っても着いてきてくれるのか!
「じゃ、じゃぁ」
「だが断る!」
「なっ!なんでだ?オオテさんといえば、このメタリカーナの街の中でも上位3つに数えられる大店の会長様だぞ?
下手な貧乏貴族よりも力もあるし顔も利く。そのオオテさんとことゼダールさんの呼び出しだぞ?断るとか普通ねぇぞ?!」
「いや、そんなヤツ知らないし、アンタ達みたいなゴロツキをお迎えに使うようなヤツだろ?はっきり言って無能もいいとこだな?」
「ゴロツキって、俺達はこれでもD級冒険者の!」
「ご立派なD級冒険者さんは、街中でか弱い一般市民を誘拐するのがお仕事なのか?ちょっとどころかかなり引くわぁ・・・。」
「ぐっ!」
言われてみると確かにそうだ。やってることは人攫い以外の何物でもない・・・反論はできそうにない。
「それで、そのD級犯罪者さん達は悪い商人さんの依頼で来たってことはわかったけど、その商人さんの用事はなぁに?
これもいちいちこっちが聞かなきゃいけないとか、超めんどーなんですけど?」
「ぐぐっ!ゼ、ゼダール様からの要件は詳しく聞いていない。急いで連れてくるようにと言われただけだ。
だから、できることなら俺達と同行してほしい。この通りだ・・・orz」
更に痛いところをついてきやがる!思えば確かにどういう用件で呼び出してくるのか確認を怠っていた!今日の俺はマヌケもいいとこだ・・・流石に凹む・・・。
だが、なんとしてでも連れて来いと言われてる上に、すでに悶着起こしちまってる。うまくまとめなきゃ俺の、いや、俺らの命が危うい。何故かホウグの『気配薄減』も効果がないようだし。
俺は全力で土下座を実行した!この小娘と同じような黒髪が多い地方ではこういう謝罪が最も効果的だって聞いたことがあったからだ。
頭を下げて助かる命なら何度でも地面に叩き付けてやる!俺はまだ死にたくねぇ!!
「はぁ、すこぶるどうでもいいな。暑苦しいし見苦しいだけで何もいいことがない。美少女との遭遇率が低すぎないかな、これ。」
全っ然効果なさそうだぞ?!どういうことだ??!この謝罪方法は外れか?あの酒飲みのハゲやろうめ!嘘を教えやがったか?ダメなのかコレじゃ?!
「ん~、わかった。そこまで言うなら行ってやろう。」
「ほ、ホントか?!た、助かる!」
「ただし、道中も、着いてからも変な真似はするなよ?あんま変なことするようなら次は容赦なく撃つからね。」
「わ、わかってる!アンタに危害を加えるような真似は絶対にしないと誓う!さっきは変な真似をして済まなかった!」
よかった!この方法で間違ってなかったみたいだ!こっちの誠意が少しでも伝わっていれば御の字だ!酒飲みのハゲ野郎なんて言って済まなかった!お前は酒飲みの使えるハゲ野郎だった!!
「もう飽きたからいいよ。って言っちゃった。まぁどうでもいっか。」
飽きたって・・・俺の渾身の土下座をそんな無下に・・・?
「保留解除 術式解除」
魔導師のお嬢ちゃんが何かを呟くと、ふっと青白い光が消え失せさっきまで感じていた恐ろしいまでの圧迫感が消えてなくなった。
「さ、時間は有限で、俺のやる気は風次第だ。案内してくれるんなら手早く頼むよ?」
お嬢ちゃんは無体なことを言い捨てて俺らの馬車に向かっていく。
この仕事は絶対に気が抜けない。俺はこの時はっきりとそう感じた。
レング、ソウグ、ホウグのお話し、第2回目でした。




