閑話:とある女子訓練生の奮闘
人間という生き物は、感情に左右されるものである。普通の人間とは言い難い『ES能力者』だろうとそれは変わらず、むしろ余計に影響を受けるとも言えた。
喜怒哀楽問わず激しい感情の昂ぶりが影響をもたらし、普段とは比べ物にならないほどの『構成力』を発現する者。それとは逆に、深い絶望に囚われて普段よりも『構成力』が激減する者。
様々な違いがあるものの、『ES能力者』は普通の人間よりも感情による影響が大きいと言っても過言ではない。
例え話として仲の良い親友や戦友、恋人が死んだとしよう。その場合多くの者が怒り、悲しみ、嘆き、尋常ではないほどの感情を発露する。
この時起こり得る感情の爆発は良い影響をもたらすか、それとも悪い影響をもたらすか、それは人それぞれとしか言いようがない。
遥かに格下であったはずの『ES能力者』が激しい怒りによって『構成力』を激増させ、格上の『ES能力者』を倒すことも稀ではあるが有り得ることだ。反対に深い悲しみが『構成力』を激減させ、遥かに格下の『ES能力者』に敗れ去ることも有り得ることである。
戦いは水物であり、運否天賦が勝敗を決定づけることもあるだろう。しかしながら『ES能力者』同士の戦いでは運が入り込む余地は少なく、当人の技量によって勝敗が決することが常である。
だが、それを覆すのが“人間としての”感情だ。時として莫大な力をもたらし、時として大きな枷ともなる、人間ならば誰もが持つ一つの能力だ。
大抵の感情は時間の経過と共に薄れるものだが、瞬間的に敵を上回るだけの爆発力が得られることもある。複雑怪奇にして、ある意味では単純明快な事象だ。
それ故に熟練の『ES能力者』は己の感情をコントロールし、相手もまたそうであると想定する。
しかしながら、どんな『ES能力者』だろうと感情を完全にコントロールすることは困難だ。
それこそ『武神』や『穿孔』と呼ばれる者達でさえ、そのしがらみから脱することはできない。全ての感情を“良い方向”へ転がすよう心がけても、抑え込むことはできない。
それが年若く経験の浅い『ES能力者』となれば顕著だった――が、伊織にとっては全てが歓迎すべきことだった。
白崎伊織は『ES能力者』である。
ES訓練校第七十五期、出席番号は20。両親が『ES能力者』であり、『ES適性検査』にて『構成力』の発現が認められたという、『ES能力者』としては典型的で普通な境遇だ。
入校前の身元調査および入校後に教導を担当した教官の評価は、普通の女の子で普通の『ES能力者』というものである。
性格は大人しく、訓練校へ入る前まで何か特別なことをしていたわけではない。
博孝のようにクラスのムードメーカーだったわけではなく、沙織のように源次郎に憧れて剣術を学んだわけでもなく、恭介のように空手を学んだわけでもなく、みらいのように人工の『ES能力者』でもない。
身体的にはともかく、性格的に近いタイプを挙げるとすれば里香が最も近いだろう。だが、里香のような観察眼もなければ洞察力もなかった。頭の出来も普通で、担当教官が定期的に作成する報告書でも極々普通かつ標準的な訓練生という評価が下されるばかりである。
無理矢理特徴を捻り出すとすれば、小柄かつ童顔の割にスタイルが良いことか。もしも担当教官がそんな評価を報告書に書いていればセクハラで訴えられるか、女性の同僚から袋叩きに遭うか、当時校長を務めていた大場に左遷させられるかのどれかだろう。
無論、優れた『ES能力者』を育てるべく奮闘する担当教官がそのようなことを報告書に書くこともなく、適切かつ正確に報告書を書き上げていた。
『ES能力者』としての適性は攻撃寄りの『万能型』で、保有する『構成力』は入校して間もない訓練生としては並からやや劣る程度。学力に関してはそれなりだが体術は並、ES能力の発現に関しても並である。
『ES能力者』の中では比較的数が少ない『万能型』であるという点は、特徴として挙げられない。『万能型』は不得手がない代わりに突出した“何か”を持つことが稀であり、大体の場合で器用貧乏に育つ。
熟練の『ES能力者』ならば自身の弱点を克服し、『万能型』のように攻撃、防御、支援の全てを平均以上にこなし、そこに己の長所を持つ形になる。
訓練生の時点で不得意なことがないというのは十分な特徴になりそうだが、それはあくまで適性の話だ。『攻撃型』などの適性がある者は己の伸ばすべき点が把握しやすく、『万能型』は全てに適性があるからこそ全てが中途半端になりやすい。
当然のことではあるが、器用貧乏や中途半端という評価を覆して優れた『ES能力者』になる可能性もある。器用貧乏を超えて器用万能とでも評すべき技量を身に付け、さらにはかの『穿孔』のように一撃必殺の能力を編み出すこともあるのだ。
しかし、担当教官の男性はこの時点で伊織の才能に関してある程度の“見切り”をつけていた。訓練校の卒業基準である汎用技能を実戦レベルで習得させることはできるが、それが限界だろう、と。
大成する『ES能力者』というのは、訓練校に入った直後からでも光るモノがある。それは訓練に対する姿勢だったり、ES能力の習得速度だったり、『構成力』の量だったりと目立つものがあるのだ。
中には入校半年が過ぎてもES能力どころか『構成力』の発現すらできなかったものの、死線を潜り抜けたことで独自技能を発現して大化けした者もいるが、それはレアケースかつ本人が血の滲むような努力を重ねていたからである。
伊織はそのどれでもない。『ES能力者』としては普通の家庭に生まれ、見るべき才能もなく、目立った努力をしているわけでもなく、性格も争いごとに向いていない。
あるいは、砂原のような教育手腕を持っていればどんな『ES能力者』だろうと嫌でも強くなるだろうが、担当教官の男性はそうではなかった。教官を務められるだけの技量と経験を持つ一流の『ES能力者』だが、“それだけ”である。
担当教官は師として特別優れているわけではなく、伊織もまた特別優れた才能を持っていたわけではなく――ある日を境に変貌と評すべき変化が伊織の中で巻き起こる。
その事象を端的に述べるならば、恋と呼ばれるものだ。白崎伊織という少女は一人の男性に恋をしたのだ。そしてそれが、伊織に大きな変化をもたらした。
これまでとは見違えたように明るくなり、日頃の訓練にも注力し、何事にも率先して取り組むようになった。『ES能力者』としての技量をメキメキと伸ばし、恋する乙女らしい清純で健康的な雰囲気を振り撒くようになった。
それは傍から聞けば思春期らしい、微笑ましくもありふれた理由だろう。好きな人ができたからこれまで以上に努力をするという、年齢を重ねた者が聞けば思わず目尻が下がりそうな理由だ。
相手が『ES能力者』でなく、年齢も一回りは上だったが、年上の異性に恋をするというのはよくよく有り得ることである。
そう、一人の少女が年上の男性に恋をしたというありふれた話だ。訓練生という、世間から見れば高校生になって一年も経っていない少女にしては惚れた相手との年齢差が大きいが、同じような話を探せばいくらでも出てくるだろう。
もしもそれらの“ありふれた話”と伊織に違いがあるとすれば、伊織は普通の人間よりも情が深く、想いが強く、それでいて秒単位で膨らむ慕情を胸の内に納めきる頑強な精神を有していたことだ。
伊織は『ES能力者』としては平凡に生まれて平凡に育ち、訓練校に入校しても平凡な成績を残していた『ES能力者』だ。“きっかけ”がなければそのまま平凡に育っていたであろう、普通の『ES能力者』だ。
しかし、そうはならなかった。
もしも伊織の『ES能力者』としての成長を折れ線グラフのように表すならば、右肩上がりに少しずつ、緩やかな直線を描いていただろう。それが、ある時期から一気に角度を変えて跳ね上がる。
訓練の密度を上げ、質を上げ、自主訓練に没頭することで技量を上昇させていく。周囲のクラスメートどころか、担当教官すら目を丸くする勢いで強くなっていく。
それを成し遂げたのが恋という感情だった。通常ならば多くの感情は時間と共に薄れていくが、恋は違う。伊織が想い人に寄せる慕情は日を追うごとに積み重なり、その高まりに合わせて己の技量すらも引き上げていく。
白崎伊織は『ES能力者』である。
元々は平凡で引っ込み思案で大人しかろうとも、恋という感情によって急成長を遂げた。その成長ぶりはここ数年の訓練校において語り草になっている第七十一期卒業生に匹敵し、あるいは凌駕するほどに。
白崎伊織は『ES能力者』である。
それは彼女にとって幸せなことである――何故なら野口秋雄という男性に出会えたのだから。
それは、伊織にとって二期上の先輩である第七十三期訓練生の卒業が間近に迫った三月下旬のことだった。
ここ一年ほどで日課となった休日の自主訓練。その最中に訓練校全体に警報が鳴り響いたのだ。
『『ES寄生体』警報。『ES寄生体』警報。訓練校敷地内にいる訓練生は各自警戒態勢を取れ。繰り返す、警戒態勢を取れ』
伊織だけでなく、在校の訓練生の多くにとって聞き覚えのある――忘れようがない警報と警告。約一年前に発生した『大規模発生』の際にも聞いた、緊急事態を知らせる警報だ。
最近は日本近海で大量の『ES寄生体』が発生し、その対処に多くの部隊がかかりきりだという話も訓練校に届いている。さすがに訓練生まで出撃させるようなことはしないが、その緊迫感は伊織達訓練生にも伝わっていた。
休日の外出も制限され、多くの訓練生が自主訓練に励む中でのこの警報である。彼ら、あるいは彼女らにとっては、驚きや不安よりも来るべき時が来たという実感が湧く方が先だった。
『大規模発生』以降、訓練校の防衛を考慮して『零戦』の駐屯基地が訓練校に併設されている。それに加えて防衛部隊も増員され、配置される『ES能力者』や兵士の数も大きく増えていた。
そのため防衛能力だけを見れば、下手な軍事基地よりも余程上等だろう。警報通り『ES寄生体』が攻めてきても瞬く間に鎮圧され、仮に『大規模発生』レベルで『ES寄生体』が押し寄せても余裕を持って対処できる――そのはずだった。
訓練生である伊織達は知る由もなかったが、時を同じくして室町によるクーデターが勃発。さらに清香に操られた正規部隊員が味方へと襲い掛かり、混乱の極みにあった。
頼みの綱である『零戦』は『天治会』の迎撃に出ており、平時と比べればその防衛能力は激減していたのである。
訓練校周辺でも清香に操られた『ES能力者』と防衛部隊による戦闘が繰り広げられ、訓練校内部に届くほどの戦闘音が響き始めていた。
――これはまずい。
伊織がそう内心で呟いたのは、警報が鳴って一分近く経つというのに繰り返し警報が鳴り続けているからだ。通常ならば次の指示があるはずだというのに、警戒態勢を取るよう促すだけである。
状況に変化がないのか、あるいは訓練生へ追加の指示を出す余裕がないのか。前者ならばともかく、後者ならば状況は最悪である。有事の際に指揮を執るべき教官達から連絡がないというのも、状況の不味さに拍車をかけた。
『こちら第七十五期訓練生の白崎です。付近の訓練生は一分以内にグラウンドに集合してください。なお、周囲に非戦闘員がいる場合は護送するように』
だからこそ、伊織は動く。携帯電話を取り出して無線機能を使い、付近の訓練生へこの場に集合するよう呼びかける。それと同時に共に自主訓練を行っていたクラスメート達にハンドサインを送り、周囲を警戒するよう促した。
伊織のハンドサインに反応し、『探知』を発現できる者は即座に周囲の『構成力』を探り始める。『探知』を発現できない者は近くにいた者と分隊を組み、互いに背を向けて死角ができないよう注意して周囲の警戒を始めた。
彼らもまた、『大規模発生』で己の無力さを痛感している。そのため同じようなことが起きても対処できるよう、訓練に励んできたのだ。
「目視圏内に異常なし」
「『探知』内に敵性の『構成力』は感じ取れない」
「教官との連絡が不通。無線封鎖等の妨害はなし。『通話』も問題なし」
「よろしい。それでは我々が行うべきことを洗い出します」
短時間で周囲の索敵を終え、それを聞いた伊織が音頭を取って行動指針を決めていく。短い会話の間にもクラスメート達が続々と駆け付けており、合流するなり周囲の警戒を行っていた。
「校内にいた職員の人達は集合ついでに連れてきた。第六小隊が校内に残っている人がいないかを捜索中だ」
「それなら校内は任せていいですね。我々が最初にするべきことは非戦闘員の方々を安全な場所まで護送すること……それと並行して下級生の保護です」
下級生の保護と聞き、数人の生徒が苦笑を浮かべた。
「一年前は保護されてた俺達が、今度は保護する側に回るのかぁ」
「そのための訓練でしょ? 下の子達は『大規模発生』を体験してないから覚悟も固まってないだろうし、わたし達が助けなきゃ」
「だな……大場校長みたいに、守ってやらないとな」
その言葉に場の空気が張り詰めたものへと変わる。『大規模発生』の際に当時の校長である大場が身を呈して訓練生を守り、命を落としたことを知らない者はこの場にいない。そのため二度とあのような犠牲を出さないと改めて決意し、その瞳に燃えるような熱意を宿した。
訓練生達にとって幸運だったのは、校内に卒業を控えた第七十三期訓練生がいたことだろう。訓練生とはいえ、あと一ヶ月もしない内に正規部隊へ配属される彼らの技量は正規部隊員と遜色がない。
むしろ『大規模発生』を乗り切り、率先して己を磨くようになったことを考えれば通常の新兵よりも腕が立つと言えた。
実戦経験があり、肉体的精神的にも鍛えられ、実戦における注意事項なども博孝達から教わっているのだ。『飛行』を発現できる者はいなかったが、それでも『盾』を足場にした疑似的な空中戦闘を可能とする者も多い。
ただし、問題があるとすれば全体的な技量が高くとも突出した人材がいないことだろう。
第七十一期は博孝を筆頭に、『ES寄生体』どころか敵性『ES能力者』と交戦したことがある者が複数存在する。それに加えてクラス全員が砂原に鍛えられてきたのだ。全体的に非常に高い質を保ち、それでいて突出した人材も存在するという黄金世代である。
第七十二期は第七十一期と比べれば劣るものの、市原が率いる第一小隊を筆頭にクラス全体の練度が高い。これは率先して博孝達の自主訓練に混ざっていたからだが、その成果は非常に優れたものだった。
伊織達はまだまだ成長途中であり、実戦経験も博孝達に遠く及ばない。それでも、力の乏しい後輩達や職員などの非戦闘員を守り抜いてみせるという決意を持っていた。
――命を賭けて守ってくれた大場や、多くの先輩達がそうしてくれたように。
しかしながら、彼らは知らなかった。今回の戦いはこれまでのどんな『ES能力者』も経験したことがなく、『星外者』という存在が裏に潜んでいたことを。
「南側の壁を破壊されました! 接近してくる『ES寄生体』の数が六!」
「第七十四期が担当しろ! 囲んで潰せ! 一匹たりとも通すなよ!」
「上空に接近してくる『構成力』あり! 鳥型の『ES寄生体』です! 数は八匹!」
「ちっ! 第七十三期第一から第四小隊、空中戦に移行! 『盾』から足を踏み外すなよ! 第五から第八小隊は地上から援護だ! 絶対に誤射するな!」
怒号のようなやり取りが繰り広げられ、向かってくる『ES寄生体』を迎撃すべく訓練生が駆け出す。
指揮を執っていたのは卒業間近の第七十三期訓練生の中でも主席に当たる男子生徒だったが、敵の数の多さから全体の指揮を取る余裕がなく、その声に焦りの色を滲ませていた。
伊織が所属する第七十五期訓練生は自分達よりも後期の後輩を守るべく布陣しており、直接戦闘にはそこまで参加していない。しかしながら既に十を超える『ES寄生体』と交戦しており、敵味方の返り血で汚れている者がほとんどだった。
『ES寄生体』の襲撃に加え、防衛部隊に所属する兵士の反乱。さらには清香の手によって操られた『ES能力者』達が暴れ回るという現状。それは伊織の予測を超えた事態であり、時間を追うごとに状況は悪くなっていく。
『大規模発生』の時よりも『ES寄生体』の数は少ないものの、周囲からの援軍もない孤立無援の状況である。
“欠員”の一人も出さずに非戦闘員や後輩達を集めることはできたものの、運が良かったのはそこまでだった。
始まったのは、いつ終わるとも知れない持久戦にして防衛戦。『大規模発生』の時のように中央校舎を囲むように布陣し、背後の者達を守り抜くという絶望的な戦いだった。
『大規模発生』の時と比べて楽な点があるとすれば、現時点で犠牲者が出ていないこと。攻め寄せてくる『ES寄生体』の数も少なく、交戦している訓練生達は例年と比べて全体的に練度が高く、戦いに関して覚悟を固めていることだろう。
敵に『アンノウン』や『ES寄生進化体』が混ざっていることもなく、離れた場所に要救助者がいるわけでもない。それらの点に関しては、かつての『大規模発生』よりも遥かに楽だと言えた。
逆に、『大規模発生』の時と比べて厳しい点もある。
一つは里香のように全体の指揮を執れる者がおらず、期が異なる訓練生同士で連携を取ることが困難だということだ。
博孝達の世代から下の者達は自主訓練を通して先輩後輩と交流があるが、実戦で指揮を執るにあたって全幅の信頼を寄せられる者がいない。それ以前に六期分の訓練生、二個連隊近い『ES能力者』に満遍なく指示を出せる能力を持った者がいないのだ。
この点に関しては各期でリーダー格の者がそれぞれクラスを取りまとめ、上級生の指示に従うことで辛うじて凌いでいる。
だが、これらに付随する問題として、本来は指揮を執るべき教官や正規部隊の『ES能力者』がこの場にいないことも挙げられた。
訓練生は将来的に国防を担う大事な存在であり、優先的に守られる。それだというのに救援どころか今後に関する指示もなく、訓練生達で各々迎撃戦を展開する羽目になっていた。
『大規模発生』以降、訓練校の防衛体制の見直しとして戦力が増強されていた。しかし一般兵士や清香に操られた者が突然襲いかかってきたことにより、訓練生以上の苦戦を強いられていたのだ。
それでも訓練生のもとへ向かおうとする者、せめて指示を出そうとする者もいたが、敵の攻勢が激しすぎてそれも上手くいっていない。
そして、『大規模発生』と比べて最も厳しい点。それは援軍がなく、その上でこの戦いがいつ終わるかわからないということだ。
『大規模発生』の際は砂原が率いる救助隊が急行し、到着まで凌ぎ切れば戦いが終結するとわかっていた。源次郎との通信が可能だったため、それらの情報を知ることができた。
今回の戦いではそれらの要素がなく、いつ終わるとも知れない持久戦の様相を呈している。それが訓練生の心を追い詰め、焦燥を募らせるのだ。
時間が経つにつれ、焦燥は絶望へと変わっていく。交戦当初は万全だった戦力も傷つき、加速度的に被害が増えていく。
第七十七期、第七十八期の訓練生は『大規模発生』を経験しておらず、実戦経験がない。そのため戦力として数えることができず、先輩達に守られるだけというのも被害を増やす要因だった。
とりわけ彼らの絶望は深く、徐々に近づいてくる戦闘音に怯えている。第七十三期と第七十四期の訓練生が主に迎撃を担当し、第七十五期と第七十六期の訓練生が彼らの防衛を担当しているが、構築していた防衛線もじりじりと下がっていく。
恐怖に駆られた下級生がこの場から逃げ出さなかったのは、恐怖によって動けなかったからか、あるいは逃げても死ぬだけだと理解していたからか。
防衛線を抜けてきた犬型の『ES寄生体』を蹴り上げ、これでもかと拳を叩き込んで奇怪なオブジェに変えていた伊織は恐怖に震える下級生に視線を向ける。
(ああ……懐かしいなぁ)
そして、場違いにもそんな感想を抱いていた。
恐怖に駆られて怯え、震える彼ら、あるいは彼女らの姿は一年前の自分の姿だ。『大規模襲撃』の際に校舎に取り残され、恐怖から動けなくなった自分と同じだ。
いくら『ES能力者』といっても入校して一年も経っておらず、任務で『ES寄生体』と交戦したわけでもなく、『大規模発生』のように問答無用で修羅場に放り込まれたわけでもない。
過酷で厳しい日頃の訓練も、実際に命のやり取りをする実戦には遠く及ばないのだ。普通の人間だった頃と異なり、人知を超える身体能力やES能力を得たとしても怖いものは怖い。
上級生と『ES寄生体』が『射撃』を撃ち合う際の轟音で身を震わせる者、目に涙を浮かべて必死に悲鳴を押し殺す者、膝を抱えて項垂れる者。探す気はないが、中には失禁している者もいるだろう。
(最後のはちょっと、うん……ちょっと……)
“一年前の自分”を思い出し、伊織は場違いにも赤面した。両頬に手を当て、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「おい白崎上ぇっ!」
戦闘中にも関わらず突然奇行を始めた伊織に対し、クラスメートが叫ぶ。そこには鳥型の『ES寄生体』が接近してきており、隙を晒した伊織に向かってナイフのような鉤爪を振り下ろしていた。
「あ、ごめんなさい。ちゃんと見えてますから」
だが、伊織には当たらない。首を横に倒すだけで鉤爪を回避すると、『構成力』を右手に集中させて貫手を放ち、巨鳥の胴体に突き刺した。そしてそのまま内臓ごと傷口を掴むと、巨鳥を地面へ叩きつける。
「さすがに先輩達でも捌き切れませんか……『盾』を使った空中戦だと限界がありますしね」
伊織は困った様子で呟くと、激痛で悲鳴を上げる『ES寄生体』の首を全力で踏み付けた。そして地面を陥没させながらも一撃で首の骨を蹴り折って即死させると、これからの展望を予測してため息を吐く。
「負傷者も増えてきていますし、このままだとジリ貧……『ES寄生体』の数は多くても組織立った動きではないからまだ楽……それでもいずれ限界は訪れる、と」
命がかかった実戦では、普段の訓練とは比べ物にならないほど疲労が溜まりやすい。今すぐに戦線が崩壊することはないが、このまま戦い続けるのは現実的ではないだろう。
負傷した者は後方に下がって治療を受けており、最低限の治療が済み次第戦線に復帰しているがそれもいつまでもつか。
『ES寄生体』との交戦を開始して既に三時間が経過している。常に戦い続けているわけではないため何とか持ち堪えているが、いつまで戦いが続くかわからず、救援もいつ到着するかわからないとあっては精神的にも辛い。
『大規模発生』の時は、例え援軍の到着が遅れようとも訓練生達の希望になる者達がいた。訓練生でありながら自由に空を飛び、襲い掛かってくる『ES寄生体』を鎧袖一触に蹴散らす頼もしい先輩達がいたのだ。
そんな彼らも卒業して今はいない――が、彼らからは“この程度”で崩れるような教えも受けていない。絶望的な状況だからと膝を折り、諦めてしまうことなどできはしない。
「もうやだ……いやだよぉ……」
「誰か……たすけて……」
しかし、恐怖に震える下級生は別だ。
下級生を背後に庇って戦う伊織だったが、ついに緊張が限界を超えたのかそんな声が聞こえてきた。それは助けを求め、この状況から逃げ出したいという願望であり。
「死にたくない……」
「“このまま”死ぬなんて、嫌だ……」
窮地に挫けず生を渇望する叫びでもあった。
「ふふっ……」
その声に、伊織の口元は弧を描く。それは場違いにも穏やかな笑声を伴い、周囲のクラスメートがギョッとした顔で伊織に視線を向けた。
「し、白崎?」
「白崎さん?」
追い詰められた状況で狂ったのか。そんな思いを込めて声をかけるクラスメート達だったが、伊織はそれを無視して下級生達へと振り向いた。
「後輩のみなさん、怖いですか?」
穏やかに微笑み、柔らかな声色で尋ねる伊織。その問いかけに下級生達は目を丸くし、一体何を考えての問いかけかと疑問と困惑を露わにした。
「聞くまでもないですね。いきなりこんな状況になれば、当然怖いですよね? でも、それは“当たり前”のことなんです」
伊織は下級生達の恐怖を肯定する。いくら『ES能力者』と云えど、怖いものは怖いのだと。
世間一般で語られるほど、『ES能力者』という存在は強くない。たしかに肉体的には普通の人間を凌駕するが、その精神は変わらないのだ。
「『ES寄生体』は怖い。敵性の『ES能力者』はもっと怖い。戦えば傷つくし、下手すれば死ぬ……相手を殺すのだって、とっても怖いことなんです」
ES能力による轟音が響く中でも不思議と耳に届く、穏やかな声。それは浮足立った後輩達の精神を落ち着かせ、その意識を伊織に向けさせた。
「その恐怖を今この場で知れたこと……それはみなさんにとって幸運なことです。わたし達が、あなた達の先輩が守ってあげられるこの状況で体験できた。それはきっと、幸運なことなんです」
『ES能力者』である以上、いつかは任務に駆り出されて実戦を経験する。余裕がある初陣ならば良いが、初陣で命を落とす『ES能力者』も珍しくはない。
実際に戦うことはなく、先輩に守られながらとはいえ、これほど大規模な戦いの空気をじかに体験できたことは幸運だろう。仮に似たような状況に陥ろうとも、一度体験したことがあれば恐怖で動けなくなるということはないのだから。
「今はこうやって戦っているわたし達ですが、一年前に起きた『大規模発生』の時にはあなた達と同じような状態でした」
今では訓練生と思えないほど奮闘しているが、一年前は下級生と大差なかった。そう告げる伊織はどこか遠くを見るように目を細め、拳を握り締める。
「先輩達に守られました。膝を抱えて恐怖に震えていました。立ち上がることもできず、全てを任せていました」
今ならばともかく、一年前の伊織はただの力ない訓練生だった。しかし今は違う。弱いままでいることを良しとせず、自分でも驚くほどの訓練に励んで強くなった。
――強くなりたいと、追いつきたいと、守りたいと思える存在に出会えたから。
伊織は肩の力を抜き、心からの笑顔を浮かべて下級生達を見回す。
「ちなみに……わたしは『ES能力者』じゃない、普通の兵士の方に助けてもらいました。その人は『ES寄生体』を二匹倒し、わたしを助けてくれました」
そう語る伊織の脳裏に浮かんだのは、人間の兵士でありながら『ES寄生体』を倒す野口の姿。伊織が恋い焦がれ、心から慕情を募らせる愛しい男性の姿だ。
野口は『ES能力者』ではない。単身で『ES寄生体』を倒せる技量を持つが、今となって伊織の方が強いだろう。
それでも、伊織の中で最も強いのは野口だ。己が好いて惚れて愛する男性こそが目指すべき最強の存在で、野口ならばこのような劣勢だろうと笑い飛ばして切り抜けるに違いないと確信している。
現状を推理する限り、即応部隊に異動した野口も激戦に放り込まれているだろう。もしかすると今頃は『ES寄生体』ではなく、『ES能力者』を相手にして戦っているかもしれない。
野口ならば十分にあり得そうだと伊織は思う。そのことを心配に思う気持ちはあるが、それ以上に野口ならば絶対に生き抜くだろうと信じている。
「わかりますか? 普通の人間でも『ES寄生体』を倒せるんです。わたし達『ES能力者』にそれが出来ない道理はない……でも、“今の”あなた達には無理だということも理解しています」
いくら『ES能力者』が感情によって力を増すといっても、訓練を始めて一年も経っておらず、博孝達のように特殊で過酷な実戦経験を積んだわけでもない下級生が相手だ。
伊織もそれは理解している。今の彼らにできる最上は、錯乱することなくこの場で大人しく守られることだと。
「今はわたし達に守られてください。わたし達があなた達を守り抜きます。でも……」
故に、伊織が下級生に願うことは一つだけだ。
「この戦いが終わったら、誰かを守れる人になってください。家族でも良い、平和に過ごす民間人でも良い、共に戦う友人でも良い、部隊の仲間でも良い……恋した、愛する大切な人でも良いです」
今は戦えなくても良い。だが、この戦いを乗り切った後は“前に”進んでほしい。そのための道は、自分達が切り開いてみせる。
「その人がいたから今のわたしが在る。あなた達を守れる、わたしが在る」
伊織はそう言うと、後輩達に背中を向けた。一年前は野口に守られるだけだった自分が、誰かを守ることができる。その事実に興奮と感動を覚えながら、『構成力』を発現させていく。
以前の伊織は、自分と離れている間に野口が無理をしていないか不安に思っていた。野口の実力は知っているが、戦いにおいて“絶対”はない。それに加えて、野口の性格ならば自ら危険に突撃する可能性もある。
だが、野口は約束してくれたのだ。伊織との関係について、伊織が訓練校を卒業するまでに答えを出すと。それはすなわち、約束を果たすまで野口は死なないということでもある。
それならば自分も死ぬわけにはいかない。絶対に生き抜き、野口の口から“答え”を聞くのだ。
「見ていてください。『ES能力者』として“一つ上の世界”の戦いを」
劣勢の現状に対する恐怖、これまでの訓練による自負、戦いに対する興奮、さらには野口への想い。それらがない交ぜになり、伊織の心を強く後押ししていく。
今もどこかで戦っているであろう野口を想う。それだけで『構成力』が溢れ出す気分だ。
訓練中だった『飛行』も今ならば絶対に成功する。そう自分に言い聞かせ、それを現実のものとして伊織は『飛行』を発現する。
「援護をお願いしますね――飛びますから」
クラスメートにそれだけを告げて伊織は飛び立つ。絶対に生き抜き、守るべきものを守り通すという決意のもとに。
「無茶しすぎだぞ後輩。まったく、誰に似たんだか……」
意識を取り戻した伊織が最初に聞いたのは、そんな呆れるような声だった。ぼうっとする意識の中でするりと耳に飛び込んできたその声は、伊織にも聞き覚えがある。
「か……わらざ、き……せん……ぱい?」
「おう、久しぶりだな白崎。あと無理して喋るなよ? お前さん、三日間眠りっ放しだったんだ。すぐに里香が来るから、それまでは大人しくしてろ」
野口と親しく伊織にとっても良き先輩――博孝の呆れたような声に、伊織は困惑した様子で眉を寄せた。それでも視線を巡らせてみると、清潔な病室であることが確認できる。
個室ではなく伊織と同じようにベッドに寝かされている者の姿も見え、伊織の混乱は深まった。何故自分がこんな場所にいるのか。寝起きの頭ではそれが理解できず、伊織は己の記憶を辿る。
「っ! く、訓練校はっ!? みんなは!?」
そして訓練校で起こった戦いを思い出して飛び起きるが、博孝が指先一つでそれを抑え込む。身を起こそうとした瞬間、額に指を添えられて体勢を崩されたのだ。
「はいはい、戦いは終わってるし“訓練校では”犠牲者も出てないから寝てろ。いくら里香が治療した上に『活性化』を使ってるっていっても、本当なら死んでもおかしくない怪我なんだからな」
そう言って苦笑する博孝だったが、伊織の治療は既に峠を越えている。今から即座に戦闘を行わない限り、死にはしないだろうと“実体験”で知っていた。
「事情は聞いたがずいぶんと無茶したな。俺も訓練生の時には無茶したけど、傍から見ると本当に心臓に悪いもんだなぁ」
「……先輩ほどの無茶はしてないと思うんですけど」
穏やかに語る博孝に対し、伊織は抗議の声を上げる。たしかに無茶をしたと思っているが、博孝を筆頭に第七十一期卒業生が残した“伝説”は在校生の間でも語り草だった。それらを知る伊織としては、断固として抗議をしたい。
「『飛行』を発現して『ES寄生体』を引きつけつつ地上からの援護射撃で殲滅……敵の増援が来たら上空からの釣瓶打ち。『飛行』を訓練中だった他の奴らもそれを真似て実戦で飛び始めて……はぁ、最近の訓練生は育つのが早いな」
「……先輩方が原因だと思うんですけど」
ため息混じりに博孝が呟き、伊織は唇を尖らせて抗議する。それと同時に自分が何をしたか思い出して伊織は頭を抱えた。
怯えた後輩を励ますという目的があったが、訓練中の『飛行』を使わなければならないほどに戦線が押し込まれていた。鳥型『ES寄生体』の数が多く、制空権を取られていたというのも大きい。
そのため空へと舞い上がり、味方の援護を受けながら暴れ回ったものの想定よりも早く限界を迎えてしまったのだ。
味方の援護があったため敵戦力を大きく削ることができたが、その代償として『構成力』のほとんどを使い果たして墜落。伊織の意識があったのはそこまでであり、目を覚ましたらベッドの上だったというわけである。
「お前さんが落ちた直後になんとか援軍が間に合ったそうでな。負傷者は多いけど訓練生に死者はなし……白崎訓練生、お前さんが一番重体だったぐらいだ」
後輩達は無事だった。それを聞けた伊織は安堵の息を吐くが、博孝はそんな伊織の様子に苦笑する。
「俺も人のことを言えないけど、無茶はほどほどにな? もしも無茶をする必要があったとしても、なるべく怪我しないように注意しとけ……まあ俺もつい先日、左腕が根元から吹っ飛んだんだけどな」
ハッハッハ、と笑い飛ばす博孝。そんな博孝の様子に若干引いた伊織だったが、根本的な問題に気付いて問い質す。
「ところで、その、どうして河原崎先輩がここに?」
博孝の様子から、“今回の騒動”が既に終結していることを察して尋ねる。博孝は伊織の質問に目を細めると、顎に手を当てながら首を傾げた。
「あー……ラスボス倒してエンドロールが流れると思ったら、そのまま次の仕事で日本全国を飛び回ってる……みたいな?」
「…………?」
首を傾げる博孝と同様に、伊織も首を傾げる。目の前の先輩は一体何を言っているのだろう、と心底から不思議に思った。
「ま、細かいことは気にすんな。全国治療行脚中に多くの訓練生が負傷したって聞いてな。正規部隊と一緒に治療してたんだよ」
そう言ってから博孝は欠伸を噛み殺すと、伊織に背を向ける。
「っと、里香が近づいてきてるな……それじゃ、“休憩”は終わりだ。後輩の無事も知れたし、どれぐらい頑張ったかもわかった。俺ももうひと頑張りだなぁ……」
休憩と言いつつも、博孝は伊織や他の訓練生の容体を確認していただけだ。食事を取ることも飲み物を飲むこともなく、到底休憩とは言えない。
「あ、あの、河原崎先輩、秋雄さんは……」
そんな博孝の様子に重苦しいものを感じた伊織だったが、他の何を差し置いても聞いておきたいことを一つだけ尋ねる。野口ならば大丈夫だと信じているが、心配に思う気持ちは当然ながら存在するのだ。
「ん? あー、野口さんなぁ……あの人は元気でピンピンしてるよ。俺の後輩に『狙撃』が得意な子がいるんだけど、その子を凹ませるぐらい『ES寄生体』を狩ってた。兵士の間じゃあ『あの人本気で人間辞めてる』って噂になるぐらいな」
「つまりいつも通りってことですね……良かったぁ」
思った通りに野口は元気なようだ。伊織は己の胸に手を当て、心の底から安堵する。
「基地に帰るのはまだ先だけど、会ったら何か伝えとこうか?」
頬を朱に染め、目元を潤ませて喜ぶ伊織の姿に博孝は伝言の有無を尋ねた。伊織は涙を拭って顔を上げると、何事かを言おうと口を開き――何も言わずに閉じる。
「……いえ、何も。秋雄さんが無事ならそれでいいんです。わたしのことは何も伝えないでください」
「良いのか?」
おや、と片眉を上げながら博孝は尋ねる。野口と伊織の“間柄”は知っており、伊織が重傷を負ったと聞けば野口も見舞いに来るはずだ。
「いいんです。河原崎先輩の様子を見ればどれぐらい大変なことが起きたか、少しはわかります……秋雄さんも大変だと思いますし、わたしのことは気にしないでください」
しかし、伊織はゆるゆると首を横に振って博孝の提案を拒否する。大変な時期に野口の時間を奪うことを忌避しているのだ。自分の見舞いなど、後回しどころかそもそも来ないで良いと伊織は言う。
「秋雄さんが無事だった……それだけで十分です。本当に良かった……」
「……了解。“俺の口から”は伝えないでおくよ」
これ以上は時間をかけられず、また、これは野口と伊織の間での問題だと博孝は判断する。
(まあ、野口さんなら俺が基地に戻ったらすぐに聞きに来るだろ……二人の様子を見る限り、来ないかもしれないのが何とも言えないけど)
この時の博孝は、まさか野口が二週間経っても聞きに来ないとは思わず、里香と入れ替わるようにして病室を後にするのだった。
そして一週間後、伊織は病院から退院する。『ES寄生体』の攻撃を受けた上、高所から墜落した影響で複数個所を骨折していたために退院まで時間がかかったのだ。
それでも一週間で退院できたことに感謝しつつ、訓練校へ戻る。訓練校は戦闘の影響であちらこちらが破損していたが、『大規模発生』の時と比べればまだマシだろう。
瓦礫の撤去や地面の埋め立てなどをクラスメート達と行い、ニュースや新聞、クラスメートや先輩後輩から情報を集め、継ぎ接ぎながらも今回の騒動では裏で“何が”起きていたかを知った。
(ラスボスを倒してエンドロール無視して次の仕事って……)
博孝の言葉の意味を理解し、相変わらずだと笑えば良いのか嘆けば良いのか。後日民間向けにも正式な発表があるらしく、伊織はとりあえず口を閉ざしておこうと思った。
それまでは訓練校の復旧に注力し、土木作業を片付けよう。そう考えて数日は復旧作業に励む伊織だったが、“その日”は突然やってきた。
「……伊織」
「え……秋雄、さん?」
訓練校にいるはずがない人物――野口秋雄との再会である。
野口の話でギャグが行方不明になったから伊織は明るい話にしよう → 1万5千字超えた上に訓練校防衛戦勃発
どうも、作者の池崎数也です。
前話が野口だったので今度は伊織の話になりました。筆の進むままに書いたらシリアスでしたが……。
前話更新後、レビューをいただきました。約一年ぶりのレビューです。それも2件です。
柳葉魚さん、晴れのち曇りところにより雨が降るでしょうさん、ありがとうございました。
砂原ではなく室町ですと……
それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。




