第二百四十四話:蠢動 その8
「閣下、藤堂大佐より緊急通信です」
「つなげ」
日本ES戦闘部隊監督部の指揮所にて、部下からかけられた声に源次郎は顔をしかめながら答えた。
通信をかけてきた相手は『零戦』を率いる藤堂であり、緊急通信など頻繁に使われるものでもない。何か余程の事態が発生したのかと思いながら通信をつなぐと、藤堂の硬い声色が響いた。
『こちら第零空戦部隊の藤堂空戦大佐であります』
『何があった?』
挨拶を省き、何があったのかを尋ねる源次郎。藤堂もそんな源次郎の気持ちが理解できるため、細かい部分は省いて報告を行う。
『現在対馬海峡にて敵性の『ES能力者』と交戦中。敵の数は約百――連隊規模です』
日本各地で部隊の“手伝い”をしている『零戦』だが、その中でも隊長である藤堂が敵性戦力と交戦した。その事実と内容に、源次郎は表情を険しいものに変える。
『……所属は?』
『中国大陸から飛んできたようですが、『天治会』か他国の者かはわかりません。現在直卒の一個小隊で遅滞戦闘中です』
通信を行いながらES能力を行使しているのか、多数の轟音も聞こえている。多対一に特化している藤堂ならば一個小隊でも十分に支えきれるだろうが、相手の所属や目的が不明過ぎた。
『練度は並を多少超える程度ですが、数が多いです。また、増援の可能性もあります』
『そうか……近くにいるお前の部下を向かわせる。一個中隊で撃退できるか?』
『十分かと』
仮に部下が合流しても十倍近い戦力差があるが、それで十分だと言ってのける藤堂。藤堂もそうだが、『零戦』のメンバーはそれぞれが一騎当千の強者揃いだ。戦力としては十分だろう。
藤堂との通信を終えた源次郎は九州周辺にいる『零戦』の二個小隊に通信をつなぎ、藤堂と合流するよう命令を下す。彼らならばそれほど時間をかけずに合流できるだろう、と源次郎が考えていると、再度緊急通信が届いた。
『こちら第零空戦部隊の春日空戦大尉です。中将閣下、聞こえていますか?』
藤堂に続いて通信を行ったのは、『零戦』の第三空戦中隊を率いる春日だ。所属不明艦が出没するようになってからは首都を中心に防衛任務を行っていたが、現在は海上戦力への応援として北海道の周辺で任務に就いている。
『聞こえているとも、春日。何があった?』
春日は『零戦』の中隊長を務めるほどの技量を持ちながらも、普段は面倒臭がりな面が目立つ。だが、通信を行う春日の声は真剣そのものだった。
『現在国後島の上空ですが、敵性『ES能力者』の一団と交戦中。所属は不明ですが、数が多いので増援をお願いします』
『そちらにも出たか……数は連隊規模か?』
『何で知ってるんです? ……ああ、他のところでも出ましたか。さすがに連隊相手に一個小隊だときついです……っと』
激しい爆音が何度も響き、通信が数秒途切れる。そして通信が回復すると、春日の声に僅かな焦燥が混じっていた。
『敵が多すぎて藤堂隊長を相手にしている気分ですよ。『射撃』に『狙撃』、『砲撃』に『爆撃』と雨霰なので防ぐだけで手一杯です。なるべく早く増援を』
そこまで言って通信が途切れたが、戦闘に集中するためだろう。源次郎は嫌な予感を覚えながら増援を向かわせるが、その予感が的中したように緊急通信が届く。
相手は太平洋側に向かっていた宇喜多であり、通信に出るなり不機嫌そうな声が響いた。
『中将閣下、『ES能力者』の大群と遭遇しましたぜ。一体いつ他国と開戦したんです?』
『冗談を言えるということは撃退も容易ということだな?』
開口一番に軽口を叩く宇喜多だが、藤堂や春日と同様に声に余裕がない。現在宇喜多がいるのは小笠原諸島に近い空域だったが、こちらでも敵性の『ES能力者』と遭遇したのだ。
『ははっ、もしもそうだったら緊急通信なんてしませんよ。付近にいる二個小隊を呼びたいんですが、構いませんか? 飛び込んで暴れたいんですが、さすがに連隊規模となると打ち漏らしが出ちまいます』
藤堂や春日と違って軽口を叩けるのは、宇喜多の性格によるものだろう。それでも増援を求めるあたり、戦力差に苦心しているようだ。
射撃系ES能力が得意で多対一を苦にしない藤堂、優れた防御力で劣勢だろうと耐える春日と違い、宇喜多は莫大な『構成力』に物を言わせた力押しが得意だ。『支援型』としては間違っているが、単独での戦闘力は国内の『ES能力者』の中でも指折りである。
多対一でも戦えるが、“向いていない”のが厄介なところだった。宇喜多の部下達がそれを補うが、多勢に無勢ではどこまで通用するか。
宇喜多との通信を終えた源次郎は、戦力を合流させるよう指示を出す。海上に出ている空戦の『ES能力者』達は分隊から小隊規模であり、生半可な者達を合流させても足を引っ張るだけだろう。
そのため『零戦』のメンバーを動かすが、そこでふと疑問を覚えた。
「日本海側はどうなっている?」
日本各地の戦力をモニターしている部下に問いかけると、その部下は首を横に振る。
「継続して『ES寄生体』の迎撃を行っているようですが、異常はないようです。三隻ほど救援要請を出している艦船がありますが、そちらの対処も順調ですね」
「……即応部隊はどうだ?」
余剰戦力はほとんどないため、何も起きないに越したことはない。そう思う源次郎だが、敵性『ES能力者』が『零戦』の動きを妨げるように強襲してきたのは偶然とは思えない。
それならばと“何か”が起きていそうな場所について尋ねるが、部下の返答は変わらなかった。
「第二空戦小隊が『いなづま』の救援に向かっていますが、他に異常はないようです」
「そうか……防衛省の山本元帥閣下につなげ」
今のところは何も起こっていないようだが、有事の際には源次郎も出撃する必要があるだろう。そう判断して山本に通信をつなぐと、険しい声が返ってきた。
『敵性『ES能力者』が動いた件かね?』
『そうです。それぞれ『零戦』の一個中隊を当てているためじきに殲滅できるでしょうが、これで終わりとは思えません』
『零戦』は敵の撃退に動いているが、日本の最大戦力である源次郎は未だに温存されている。
日本ES戦闘部隊監督部に控えている空戦は少なく技量も一流とは言えないが、源次郎が率いれば話は別だ。羊が狼を率いても大したことはないが、狼が羊を率いれば十分な戦力になり得る。
『……何かあれば君が動くと?』
源次郎がこの場を離れようとも、山本がいれば指揮は執れる。普通の人間でありながら『ES能力者』への造詣が深く、指揮能力が高い山本ならば、全ての部隊が納得して指揮に従うのだ。
『必要となれば動かざるを得ないでしょう。それに――』
『通信中に失礼』
源次郎と山本が会話をしていると、それを遮るようにして室町が口を挟んできた。そのことに山本が不快そうに注意しようとするが、室町の表情を見て止めた。
『何かあったのかね?』
室町は真剣な表情であり、山本は嫌な予感を覚えながら尋ねる。すると、室町は重々しく頷いた。
『北西太平洋に展開していた護衛艦群が全滅しました。最期の通信によれば、『ES能力者』の強襲があったと。規模はわかりませんが、展開していた護衛艦全てがほぼ同時に通信を絶った点から大規模な侵攻だと思われます』
『……『ES寄生体』や『ES寄生進化体』の群れといい、日本に何か恨みでもあるのかね』
山本は冗談のように言おうとしたが、その声は硬く、冗談には聞こえない。それでも頭を振って気を引き締めると、通信をしていた源次郎へ問いかける。
『東北地方の備えは?』
『陸戦が多いですな。空戦もいますが、相手の規模次第では突破されるかと』
藤堂達が遭遇したように、連隊規模の空戦が相手ならば持ちこたえられるかわからない。そう源次郎が告げると、山本は数秒悩んでから命令を下す。
『仕方ない……長谷川中将、君が出たまえ。『ES能力者』への指示は私が引き継ぐ……室町大将も異存はないな?』
横槍を入れてきそうな室町に山本が問うと、室町は意外にも素直に頷いた。
『もちろんですとも。国民を守るためにはそれが最善でしょう。こちらも“協力”は惜しみません』
『……ならば良い。長谷川中将も聞こえていたな? 指揮は任せたまえ』
山本や室町が許可を出したのならば、源次郎としても断る理由はない。放っておけば国土を蹂躙される可能性が高いため、出撃しないという選択肢も選べない。
『……後は頼みます、元帥閣下』
山本が指揮を執るのならば問題もないだろう。そう判断して出撃の準備に取り掛かる源次郎だが――この時の判断を一生後悔することとなる。
「――壊してみれば少しは奮い立つか?」
その『星外者』の言葉と共に増大する威圧感。かつてみらいが発現したものを上回る圧力に、博孝は歯を噛み締めた。
自分達の周囲を囲んでいる空間の揺らぎもそうだが、『星外者』の周囲の空間が激しく沸き立っている。先ほど仕掛けた攻撃でも毛ほどの傷しか負わなかったというのに、それを上回る防御力を発揮されたら打つ手がなくなってしまう。
『星外者』を中心として球状に発現されている力場。それは博孝達を飲み込み、脱出を許さない檻だ。抜け出すには強引に破壊するしかないだろうが、容易く突破できる強度ではない。
(まずい……まずいまずいまずい!)
逃げ道はなく、『星外者』をこの場で打倒するのも困難。それだというのに『星外者』は沙織達に狙いを定めたらしく、博孝の心がじわじわと恐怖に浸食されていく。
ベールクト達と戦った時のように海中に逃げ込みたいところだが、『星外者』が発現した力場は海を含んでいない。そのため突破するには力尽くで破る必要がある。
外部からの救援も可能かわからず、仮に可能だとしても生半可な『ES能力者』では一蹴されるだろう。砂原ならばと博孝は思うが、『天治会』が何も手を打たないとは思えない。
斉藤が率いる第二空戦小隊が抜けたことで第一、第三空戦小隊の索敵範囲が広がっており、砂原が気付くのはいつになるかもわからなかった。
(里香がなんとか気付いてくれれば……)
そうなると、後方で指揮を執っている里香が異変に気付いてくれることを祈るしかない。それまで防戦に徹して時間を稼ぐべきだろう。そんなことを考える博孝の視線の先で、唐突に『星外者』が姿を消した。
それは博孝でも目視を許さない高速移動。まるで陸上を歩くような自然さで恭介の側面に移動し、虫でも払うような気軽さで手刀を振るった。
「っと!?」
『星外者』の動きが見えなかったのは恭介も同じだ。しかし、攻撃の際に漏れた僅かな殺気を感じ取り、首を切り落とすべく放たれた手刀を交差した両腕で受け止める。
『星外者』はそこまで力を込めて手刀を振るったようには見えなかったが、それでも恭介は体を押し込まれそうになった。両腕で防御しているというのに、『星外者』の手刀が少しずつ首元に近づいていくる。
「んの……野郎っ!」
力比べでは不利と判断し、敢えて脱力しながら『星外者』の手刀の勢いに乗って縦に回転。手刀を受け流すと同時、『構成力』を込めた回し膝蹴りを『星外者』のこめかみに叩き込む。
「ほう……一番手軽に壊せると思ったのだが、やるものだ」
恭介が繰り出した膝蹴りを避けもせず、『星外者』が呟いた。恭介の膝蹴りは『星外者』の体表で止まっており、痛痒も感じていないその様子に恭介は舌打ちをしながら背後へと飛んだ。
「しっ!」
恭介が飛び退くと同時、『無銘』に『構成力』を込めた沙織が斬りかかる。先ほどよりも頑強さを増しているようだが、そんなものは気にしない、絶対に叩き斬ってやると言わんばかりの殺気を放っていた。
そんな沙織の斬撃に対し、『星外者』は手刀を振るう。すると、まるで刀同士を打ち合わせたように硬質な音が響き、『無銘』による斬撃を容易く捌いてみせた。
「まだまだっ!」
一度防がれたからといって、それで怯む沙織ではない。縦横無尽に『無銘』を振るい、『星外者』を攻め立てる。そんな沙織の猛攻に対し、『星外者』は両手で斬撃を弾きながらも観察するような冷たい眼差しを向けた。
「“発現”の兆候が見られるな……やはりここで処分するか」
そう言うなり『無銘』を弾くのではなく回避し、沙織が『無銘』を振り下ろしてから引き戻すまでの僅かな時間に懐へ潜り込んだ。そして沙織の腹部に手の平を突きつけ、一息に吹き飛ばし――。
「させるか!」
沙織の危機に反応した博孝が、『収束』を発現した右手で強引に『星外者』の腕を弾く。その拍子に『星外者』の腕がずれ、手の平から放たれた無色の衝撃から沙織を逃がす。
だが、その余波までは回避できない。博孝と沙織は大きく吹き飛ばされ、体勢を崩してしまう。『星外者』は吹き飛ばされた沙織を追って一気に距離を詰めるが、それを遮るようにして恭介が立ちふさがった。
真っ直ぐに向かってくる『星外者』に対して何重にも『盾』を発現し、その突撃を受け止める。何か攻撃をされたわけでもないのに勢いだけで『盾』が破壊されたが、恭介はそれでも『星外者』の突撃を受けきった。
貫手が繰り出されるが皮一枚を切らせるだけで回避し、置き土産に『星外者』の動きを封じるように『盾』を何枚も発現しながら後退する。
「ああああああぁぁっ!」
恭介が『星外者』の動きを止めるなり、拳を握りしめたみらいが反撃に移った。発現した『構成力』を可能な限り拳に集中させると、全力で『星外者』の顔面に叩き込む。
「失敗作ながらある程度は育っているか……己の力を扱い切れないようだがな」
しかし、『星外者』は首を横に倒すだけでみらいの拳を回避していた。それでもみらいの拳は『星外者』が纏っていた力場を貫き、頬をかすめて裂傷を刻み――血は出ない。
それに気付いた恭介は驚愕の声を上げそうになるが、それよりも先にみらいのカバーに入る。『星外者』が全方位に衝撃を放つと同時にみらいを抱きかかえ、『防壁』を何重にも発現しながら防御態勢を取った。
「きょーすけ!?」
「さすがに“三度目”はなしっすよ! 優花ちゃんに怒られるし、みらいちゃんを泣かせるわけにもいかないっすから!」
自身を庇う恭介にみらいが悲鳴に近い声を上げたが、恭介は発現した『防壁』を破壊されながらも耐え抜き、みらいを安心させるために笑ってみせた。
博孝と沙織は『星外者』に吹き飛ばされていたため距離があり、負傷はない。恭介は『防壁』を破られつつも後退していたため、戦闘に支障が出るような怪我は負わなかった。
庇われたみらいは心配そうに恭介を見たが、無事とわかると安堵の息を吐き、次いで『星外者』に対して眦を吊り上げる。
「きょーすけをいじめるなっ!」
「いじめるって、みらいちゃん……」
場違いなその発言に、恭介は思わず脱力しかけた。それでも気は抜かず、『星外者』の挙動に注意を払う。
「なるほど、なるほど……その個体は早くに取り除いておくべきだったか」
ここにきて初めて、『星外者』が恭介のことをしっかりと認識した。感情が感じられない『星外者』の瞳を向けられた恭介は、気圧されないように睨み返す。
「さっきから個体個体って何っすか。俺には武倉恭介って名前があるっすよ!」
博孝と沙織が立て直す時間を稼ごうとする恭介だが、『星外者』は何も答えない。吹き飛ばしたものの大した痛手を負っていない沙織と博孝に視線を移すと、右手を持ち上げて指を鳴らす。
「――では、こうしよう」
指を鳴らすなり、『星外者』を中心に展開されていた球状の力場内に変化が起こった。それまでは『星外者』の体の周囲を覆っていた空間の揺らぎが広がり、博孝達を飲み込んでいく。
「これは……」
「一体何が……っ!?」
身構えた沙織と恭介だが、痛みなどはない。その代わりに『飛行』の制御が困難になり、少しずつ高度が下がり始める。
「沙織!?」
「きょーすけ!?」
博孝が沙織を、みらいが恭介を支えるが、二人は困惑したままだ。突然『構成力』の操作が困難になり、『飛行』を維持することすらできなくなったのである。
「『干渉』……いや、それにしては強力すぎる。『空間操作』か?」
思い当たるES能力を呟く博孝。空間系のES能力は何度か見たことがあるが、ここまで強力なものは見たことがない。そのため半信半疑だったが、『星外者』は観察するような眼差しをしながら頷いた。
「そう呼ばれてもいるな。こちらとしてはこれが“普通”なのだが……ふむ、やはり動ける個体は限られるか」
そう言われて、博孝は気付く。博孝もみらいも『飛行』を維持しており、行動に支障がなかった。
「いくらなんでも反則っすよ、コレ……」
「『構成力』の制御に集中すれば、どうにか飛べるかしら……」
沙織と恭介は全力で『構成力』を集中し、『飛行』を発現する。そうすることで落下は防げたが、他のES能力は『防殻』を発現するのが精一杯だ。
体術だけで渡り合うには、『星外者』の力が強すぎる。恐怖を超えて絶望感が湧き上がってくるが、それでも博孝は小隊全員に対して『活性化』を発現した。
足掻かなければ、勝ち目は見えてこない。諦めればそこで終わってしまうのだ。そう思いながら発現した『活性化』だったが、沙織と恭介が目を見開く。
「うお……かなり楽になったっすよ」
「ええ。これならまだ戦えるわ」
沙織と恭介は驚いたように自分の体を見下ろす。先ほどまでは『構成力』の集中が妨害されているように感じていたが、その感覚が大きく減じていた。万全というわけではないが、それでも平常時の七割程度は力が出せそうである。
そして、そんな博孝の『活性化』を見て『星外者』は小さく呟いた。
「……想定通りに育っているな。これならば十分か」
どこか納得したような声色だった。しかし、その言葉には続きがある。
「だが、まだ力を引き出せる」
そう言うなり、増大していたはずの威圧感がさらに膨れ上がった。『星外者』の周囲の空間が大きく歪み出し、距離を取っていても博孝達の肌が衝撃で震える。
「これは……本気でまずいか」
沙織と恭介が多少持ち直したといっても、平常時よりも力が下がっている。どんな手を打てば通じるかもわからず、悩む博孝に対し恭介が絶望的な情報をもたらした。
「博孝……アイツ、みらいちゃんの攻撃を受けても血が出なかったっす。拳が頬に掠ってちょっと裂けただけっすけど……」
「……は?」
沙織と共に吹き飛ばされていたため博孝は見ていなかったが、恭介とみらいは『星外者』が裂傷を負った光景を見ている。そのため一つの情報として伝えた恭介だったが、それを聞いた博孝は思わず動きを止めてしまった。
(……待てよ、たしかに沙織が首筋に傷をつけた時も血が出てなかった。その時は傷が浅かったのかと思ったけど……)
いくら『ES能力者』でも、傷を負えば血を流す。皮一枚切れた程度ならば問題ないが、恭介が言う通り裂傷を負えば血が流れるはずだ。それだというのに血を流さないとなると、何かしらの“タネ”があるのだろう。
(回復速度が早い……こっちが知らない回復手段を持っている……)
『星外者』を警戒しつつ思考する博孝だが、脳裏に引っかかるものがあった。それは血を流すものの命を落とせば肉体ごと消滅する存在――『アンノウン』である。
(まさか……)
『星外者』が放つ違和感や威圧感は、『アンノウン』と似ている。正確に言えば、『アンノウン』が『星外者』に似ているというべきか。『飛行』を用いない空中移動に関しても、その滑らかさは『アンノウン』の上をいっている。
(『アンノウン』の上位互換……いや、こっちが“オリジナル”か? そうなると、『アンノウン』は――)
「考え事とは余裕だな」
気が付けば、『星外者』が眼前に迫っていた。まるで瞬間移動でもしたような移動速度だが、博孝は辛うじて反応する。
“普通の”射撃系ES能力ではどう足掻いても『星外者』の防御を突破できないため、博孝は自身が最も信頼する『収束』に活路を見出す。
「おおおおおぉっ!」
思考を中断し、気合いで恐怖を隠しながら右手を振るう。もしも『星外者』が血を流さないような生き物でも、“生きている”のならば殺すことはできるはずだ。
しかし、首から上を吹き飛ばすつもりで繰り出した掌底は容易く受け止められる。『星外者』は力を集中させた右手で受け止め、博孝の右手を握り込んだ。
そんな博孝の動きに合わせて行動する沙織達だが、それでは先ほどと同じことに繰り返しになってしまう。それでも『星外者』は沙織達の攻撃に意識を向け。
(――ここだ!)
僅かに意識が逸れたその瞬間、博孝は掴まれた『星外者』の手を逆に掴み返す。そして全力で『活性化』を発現しながら右手に『構成力』を集中させると、それまで荒く発現していた『収束』ごと強引に“収束”させた。
「離れろ!」
短く叫び、それに反応した沙織達が瞬時に飛び退く。それと同時に、博孝は右手を脱力させて『星外者』の拘束を振り払い、『星外者』を蹴りつけることで背後へと飛んだ。それと同時に『構成力』を収束させた右手を『星外者』に向け、『収束』による“弾丸”を発射する。
それは、砂原がかつて見せたことがある『収束』の発展系。『収束』によって集めた『構成力』を射出するという高等技能だったが、博孝は『活性化』による後押しと後先省みない無鉄砲さで成し遂げる。
「ぐぅっ!?」
右手に激痛が走り、鮮血が飛び散る。強引に『構成力』を収束させ、強引に発射した影響だろう。右の掌が大きく裂け、激痛と共に血を溢れさせた。
放たれた光弾は音速を超えて『星外者』に迫り、閃光と爆音を発生させながら炸裂する。その威力は『活性化』を併用した『砲撃』を上回り、『爆撃』すら超えるだろう。
精神的なコンディションは悪いものの、現状発現し得る最大の攻撃だった。その反動は大きく、博孝の右手からは大量の鮮血が溢れるものの、十二分に見合った威力と言える。
「存外やるものだな」
だが、それでも『星外者』を倒すには至らない。博孝が放った『収束』は直撃したはずだが、爆発の余波を払いながら『星外者』が悠然と姿を見せた。
さすがに無傷とはいかず、体のあちらこちらに傷が出来ている。しかし恭介が言った通り血は流れておらず、行動に支障があるようには見えない。
「化物……かよ……」
――博孝の顔が、絶望に染まった。




