8章:誘導。
準備は出来たし…後は、実行するだけだな。
とりあえず…あいつが来るのを待つか…。
「おい、ちょっと、開けてくれないか」
ん?やっと、到着したか…。
「明けといてくれたっていいじゃないか…来るのわかっていたんだし」
窓からの出入りをやめればいいんだよ…正面のドアなら、鍵をかけていないぞ?
「ったく…それができたら苦労はしないね…で、準備の方は?」
おおよそ…多分、問題ないと思う…多分な?
「ふ〜ん…それならいいんだがな…で、僕は何をすればいいのかな?」
とりあえず、2つやって欲しい事がある…大分、ややこしいし、面倒なことなんだが…。
「…3食な?」
うまくいったら、報酬は、山分けだから、3食以上は出せるぞ?
「そんなに貰っても、困るんだがな…まぁ、仲間にも恵んでもらうって事で…」
わかった…じゃあ、とりあえず説明するぞ…まず…。
…あいつに任せておけば、とりあえずは問題ないよな…ひとまず、あのオーナーを引っ張りだすとするか…。
彼との約束を反故することになるんだが…まぁ、依頼者を優先するのがベンリ屋としての仕事だしな…。
俺がやったことは非常に簡単なことだ…まずは、依頼人の女性が行方不明になったということを彼に伝える。
前日の夜に、彼女が俺の指示通りに彼にメールをしていてくれれば、恐らく信じてくれるだろう…。
その後の行動は…彼任せになるが、事務所のほうまで一緒に来てもらえれば、それで解決…だな。
うまくいけばいいのだが…。
「すいません…昨日、来た探偵のものですが…」
インターフォンを鳴らし、中の反応を待つ。
「あんたか!?…ちょうど良かった…昨日、智子から、メールが来て…」
「えぇ…その、智子さんのことで少しお話があって、来ました…」
依頼者に送ってもらったメールは、この…山上さんだったか?が、依頼者に送ったメールと似たような内容にしてもらった。
『用事が出来て、しばらく連絡が出来ません』
こんな感じのメールのはずだ。
このメールに、この人がどれくらいの反応を示すかが気になっていたが、
思ったよりも、大きく反応を示してくれたようだ。
部屋に通されて、俺が一番最初に言った台詞は…。
「智子さんに、連絡が取れなくなりました…何かご存知ではないでしょうか?」
行方不明になったと伝えられればいいが…それだと、かえって怪しまれそうだしな…。
「そうだったのか…変なメールが届いたから、心配なのだが…」
「変なメールですか?」
「あぁ…『しばらく連絡が出来ない』っていうメールが…最初に、出したのは、俺の方だったのだが…」
「そうだったんですか…それに関して、何かご存知のことは?」
「いや…むしろ、こっちが聞きたいくらいだ…」
「そうですか…こちらも、依頼を受けている身ですから、依頼者については、全力で探しますが…」
そういいかけたところで、彼の携帯電話が鳴った…その着信の名前を確認して彼が驚いた表情のまま固まり、こっちに眼だけをやって口を動かした。
「…智子からの電話だ…」
どうやら、依頼者からの電話だったようだ…ここまでは、ほぼ計画通りだな。
「ちょっと、電話に出てくる…失礼」
彼は、部屋から出て行った。
あいつに頼んだ最初の方は、俺の代わりに依頼者と会って、依頼者から電話を借りて、彼に電話をかける事。
誘拐犯か何かかと思わせて、彼をこの部屋から引っ張り出すのがメインだからな。
もう一つの方は、俺が、一回事務所に戻らないといけないから少し面倒なんだがな…。
「…あんた…何か隠していることがあるんじゃないか!?」
戻ってくるや、すごい剣幕で詰め寄ってきた…あいつは何を言ったんだ??
「ちょっと…まずは、落ち着いてください…さっきの電話は智子さんからだったんですよね?」
「番号自体は…確かに、智子からの電話だ…だが、相手は、声の高い…別の女性からだった…」
女性…ね。…まぁ、あながち間違っていないかもな。
「そうですか…それで、それが何故、私が何かを知っていると?」
「『昨日来た探偵に聞け』って言っていた…何を知っているんだろ!?」
…あいつ…そんな事言ったら、変な疑いかけられるだろうが…。
「と、とにかく、落ち着いてください…直接の依頼者です、関係ないとも言い切れませんが、智子さんに連絡取れないで困っているのは私も同じですから…」
「あ…そうか…でもなんで、電話の人は、あんたが知っているような事を…」
「それは…わかりませんが、とりあえず、1回私の事務所のほうに来て見ませんか?」
「…わかった…」
「すぐに出れますか?…今日は、車で来ていますから」
「準備するから…少し待ってもらえるか?」
首尾よくビルから引っ張りだすことは成功したな…ひとまず、事務所に連絡をしなければな…。
準備にどれくらい時間がかかるかわからないが…簡潔にしないとな…。
「やあ、そっちの首尾はどうだい?」
一応、ビルを出ることになったよ。
「それは良かった…で、次は何をすればいいんだい?」
とりあえず、帰るまで隠れていてくれ…外にいられれば、連絡も出来るから好都合なんだが…。
「了解…じゃあ、近場の喫茶店で、依頼者とデートでもして来るよ…好みのタイプじゃないけど」
依頼者の前でそういうことを言うなよ…っと、彼が来たから切るぞ。
「ハイハイ…じゃあ、後で」
「どこからの電話だ?」
「いや、ただのいたずら電話みたいなものですよ」
「いたずら電話…?…それは大変だな?」
「まぁ、職業柄、色々な所に広告出させてもらっていますから、仕方ないんですよ…」
「そうなのか…」
「まぁ…もう慣れましたよ…じゃあ、事務所のほうに行きますか?」
「よろしく、たのむ…」