6章:真実に向けて。
とりあえず、お前はここで待っててくれ…すぐ戻る。
「夏場だったら拒否しているところだな…まぁ、気長に待ってるよ」
いつもみたいに寝ていれば直ぐだろ?…じゃあ、行って来る。
先ほど後にしたビルの裏口に向かい、インターフォンを鳴らす。
「誰だ…?」
さっきと同じ男の声だな…。
「先ほど、来ました…探偵のものです…智子さんには先に帰っていただきました」
「…さっきの?…あんた、何を知っているんだ!?」
「多分…何も知りませんよ…?少なくとも、貴方が何故、行方不明になる必要があったかっていうことは知りません」
当たり障りのない会話…とでも言おうかね?
とりあえず、色々と聞きたいことはあるんだが…事を急いても良い事はないだろうし、
車の方で待っているあいつは…まぁ、放っておいても問題はないだろうしな…。
「…智子には黙っていてくれるなら…事情を話す…だが、あんたの知っていることも聞かせてもらう…それでいいか?」
…随分と、話のわかる人のようだね?…こういう人ばかりなら仕事も楽なのにな。
「わかりました…私の方で、勝手に調べさせて頂いた事で話せることは話しますよ」
そういうと、程なくして、ドアが開き、ビルの中へと招き入れられた。
そこに居たのは、依頼人から預かった、「代わったオーナーの写真」の男だった。
…第一印象は、廃ビルと呼ばれている割りに、綺麗に清掃されているし、装飾品などにも、
目立った汚れはない…いや、ちょっとしたホテル並みに改装されている…そう言っても過言ではないのかもしれないな…。
それくらい、屋内は綺麗にされていた。
概観からは、少し想像できないような内装だね…。
「廃ビルになっている聞いていたんですが…随分と綺麗ですね?」
「うん?…あぁ、これも、智子には黙ってもらいたいことの一部でね…順を追って話させてもらうんだが…時間の方はあるか?」
「えぇ…気の長い連れを待たせていますが…まぁそれなりに時間には余裕がありますよ」
一応、あいつのことも気にかけている振りくらいはしておいても損はないだろう。
…まぁ、得もないだろうが。
「連れがいたのか…ん?さっき智子ときたときも、一緒にいたのか?」
「まぁ…近くまでは来ていたと思いますよ…結構人見知りする奴なんですよ」
「そうか…とりあえず、簡単に説明するとだな…」
そう言って、今回の行方不明の経緯と、色々と謎になっていた部分の解説をしてくれた。
まぁ、大方のところは予想通りだったのだが、ひとつ気になるところがあったので聞いてみた。
「前のオーナーの姿を見たって言う話を聞いたのですが…心当たりは?」
まぁ、これだけ種明かししてくれたんだから、この程度の質問くらい答えてくれるだろうと、軽い気持ちで聞いたのだが、彼はの表情は見る見るうちに暗くなっていった。
「…やっぱり、見たって言う人間がいたのか…?」
絞り出すような声でそれだけ言って黙ってしまったので、それ以上聞くことは辞めておこう…。
色々と厄介ごとに巻き込まれる可能性もあるからな。
「わかりました…とりあえず、今回話した事は伏せておいて、話せる部分だけ智子さんに話してもよろしいですか?」
「…話せる部分?…例えば?」
「そうですね…偽のラジオ放送とか…そもそも行方不明でなかったこととか…まぁ、それをやった理由については、隠しておきますが」
「そうだな…その辺の話なら問題…ないか…あんたと、智子が納得できるのなら、話してもらっても構わないが…くれぐれも」
「えぇ…わかっていますよ…やり方は、とにかくとしても、やりたいこと自体は、良い事だと思いますし、応援させていただきますよ」
「…ありがとう」
必要な分は聞きだしたが…やはり、前のオーナー…一体何なんだろうね?…彼の顔色の変化からして、あまり良い事ではない気がしてならないが…。
それにしても…話し込んだというわけでもないのに、結構な時間がかかったもんだな…あいつの待ちぼうけは今に始まったことではないが…土産のひとつでも買っておくかね…?
そう思いながら、近場のコンビニで手ごろな食料を買って車に戻った…が、寝てろといったが…まさか、ここまで爆睡しているとは思わなかったね。
後部座席で、大の字で寝ている…全く気楽なもんだ。
「ん…?あぁ…早かったな…?」
別に早くないぞ…時計を見てみろ。
「…ふ〜ん…結構時間かかったんだな…で?」
首尾は上々…ってとこ。
ほぼ結論めいた部分は見えたんだが…。
「前のオーナーは謎のまま…ってか?」
まぁな…ま、そっちの結末が、お前が面白いって言っていた結末のようだな?
「さぁ…それはどうだろうね?」
もったいぶっていても…まぁ、そのうちわかるもんなんだろ…その結末は?
「ま、あんた次第だな…」