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空席の新入生

・あらすじ

 ある宗教系の学校で入学式が執り行われた。

新入生氏名読み上げの後、新入生たちが教室に入ると、

どうしたことか新入生が一人消えていた。席が一つ余っているのだ。

どうして新入生氏名読み上げと、実際のクラスの人数が違うのか。

謎解き好きの女子生徒である真紀と、真紀が懐いている細田先生との、

他校へ出張しての謎解きが始まる。

真相は、その学校ならではの事情から始まるものだった。


 いよいよ春が訪れ、四月は新学期の季節。

謎解き好きの高山たかやま真紀まきの学校でも、入学式を皮切りに新学期が始まった。

新しい学校に期待と不安感を胸にする新入生、

慣れ親しんだ学校での環境の変化に興味津々の在校生。

いずれも学校の環境の変化に期待を寄せていた。


 高山真紀には、仲が良い、というか一方的に懐いている先生がいる。

その人こそ、細田ほそだゆずる先生。謎解きの名人だ。

今までにこの二人で、いくつもの謎を解き、時には事件を解決してきた。

いつもは暇を持て余した真紀が細田のところを訪れるのだが、

今回は珍しく、事情が異なっていた。


 入学式も過ぎ、新学期の平日。

真紀が教室で友人たちと談笑していると、廊下に不審な人影。

細田が、教室の扉の隙間から、真紀を手招きしていた。

真紀はすぐに気が付いて、友人たちとの話を切り上げた。

「ごめん、あたし、ちょっと呼ばれたから行ってくる。」

「また細田先生のところ?」

「変なことに首を突っ込まないほうがいいよ。」

「うん、気を付ける。」

真紀は軽く微笑んで友人たちに手を振って、教室を出ていった。


 廊下には、思った通り、細田がその存在感の無い細身の体で佇んでいた。

真紀は元気よく細田に笑顔を向けた。

「細田先生!あたしに何か用ですか?」

「あ、ああ。ちょっとね。

 ここじゃなんだから、私の部屋まで来てくれるかな。」

「はい、わかりました。」

何事か人に聞かれたくない話なのか、真紀と細田は場所を変えることになった。


 真紀は細田につれられて、細田に割り当てられた個人的な教室に入った。

ここにはもう何度も入ったことがある、勝手知ったる他人の部屋だ。

「先生、お茶いれますね。」

「ありがとう。」

真紀は手早くお茶を用意して、

細田は自分の席に、真紀は適当な椅子に腰を下ろした。

「細田先生、それで話というのは?」

「うん、それなんだがね。」

そうして、細田のところに舞い込んだ、今回の謎の説明が始まった。

「これは、私の知り合いの新任の先生からの相談なんだけどね。

 その先生はうちとは違う学校の新任で、

 今年から新入生のクラスの受け持ちすることになったんだ。

 それで入学式をしたらしいんだけど、

 なんと、入学式が終わると、生徒が一人消えていたらしいんだ。」

「生徒が、消えた?行方不明っていうことですか?」

「ああ、うん。そういう言い方もできるかな。」

「それこそ、警察に相談するべきことじゃ。」

「ところがだね。

 名簿等の書類を見ても、生徒の数は足りているんだそうだ。

 保護者などからの問い合わせや捜索願いもなくて、

 まるで消えた生徒は最初からいなかったかのようなんだって。」

「最初からいなかった生徒。遅刻した生徒とか。」

「それなら書類を見ればわかるはずだ。

 ところがその生徒は、書類上もちゃんと氏名が載っている。

 学年主任に聞いても、特に問題は無いと言われてしまったそうで。

 新任だから、他の先生にも強くは聞けないし、

 生徒たちはまだ顔も名前も覚えてない状態でね。

 それで私のところに、調べてくれないかと言ってきたんだ。

 私一人で調べてもいいんだけど、

 他校の先生である私だけでは不便があるかもしれない。

 それにこういったことに、

 高山君を置いていったら後で文句を言われそうなんでね。

 今日、こうして呼び出したわけだ。」

話に一区切りつけて、細田はお茶に口を付けた。

新入生が一人消えた入学式の謎。

真紀は机をバンと叩いた。埃が宙に舞って、細田はお茶を避けた。

「細田先生、あたしのこと判ってるじゃないですか!

 新入生が消えた入学式の謎、解いてみようじゃありませんか。」

こうして、細田と真紀は、生徒が消えた入学式の謎について調べることにした。


 ところは変わって、細田と真紀が通っている学校とは違う学校。

大きくも小さくもない宗教系の学校だ。

「この学校の高橋先生が、今回の相談者でね。

 早速、高橋先生のところを尋ねてみよう。」

「はい、細田先生。」

自分の学校と違う学校に足を踏み入れるのは緊張が伴うもの。

細田はともかく、真紀は手足を堅くして学校の校門を潜っていった。


 件の高橋先生を尋ねようと、学校の職員室に向かった、

すると、一人の若い先生らしき男が、職員室の前に立っていた。

細田と真紀の姿を見て、ぱっと表情を明るくした。

「もしかして、細田先生と高山さんですか?

 お噂はかねがね。よくいらっしゃいました。」

「こんにちは、高橋先生。しばらくぶりで。」

「こ、こんにちは、高山です。」

すると高橋はコソコソと周囲を見回すと、細田と真紀に言った。

「早速ですが、ここではなんですので、空き教室まで行きましょう。」

なんだかどこかで見たようなやり取りをして、三人は移動することになった。


 移動した先は、誰もいない空き教室だった。

机と椅子は用意されているが、普段は使われていないようで、

ちょっと埃っぽい。

その中から三つほどの机と椅子を雑巾で拭くと、

高橋先生は細田と真紀に座るよう促した。そして最後に自分も座った。

「すみませんね、お茶も出せなくて。

 まだ新任で、給湯室の勝手もよくわからんのですよ。」

「いえいえ、お構いなく。

 ところで、相談というのは?」

「それなんですが、先週、当校で入学式があったのですが、

 わたしの受け持ちの新入生のクラスから、生徒が一人消えたんです。」

「生徒が消えた!?アブダクションですか!?」

興奮して立ち上がった真紀を、細田がどうどうと鎮める。

「まあまあ、待ち給え。まだそうとは決まってない。

 ところでアブダクションとはそもそも誘拐のことを指す言葉ではなく・・・。

 いや、そんなことはどうでもいいか。

 高橋先生、事情を順を追って説明してください。」

「はい・・・。」

高橋先生によると、事情はこうだ。


先週、この学校で入学式が執り行われた。

新入生は全員、体育館に集められた。

式辞などの合間に、新入生氏名読み上げが行われ、

入学式は基本的に滞り無く終わった。

そして新入生が体育館から各教室へ移動した。

高橋先生の受け持ちのクラスの新入生も教室に移動。

そして改めて出欠確認をしようとしたところ、

席が一つ空いていて、生徒が一人いなくなっていたのだという。


腕組みをして話を聞いていた細田は、早速質問を開始した。

「高橋先生、念の為にお聞きしますが、

 その生徒は最初から欠席していたということは無いですよね?」

「その可能性は無いと思います。

 もし欠席していたら、新入生氏名読み上げの時にわかるはずですから。」

次に真紀が手を挙げて言う。

「机と椅子の数を間違えて一つ多くしていたということはありませんか?」

「それも無いとは思うのですが。

 椅子と机は新入生の人数分だけ用意するのですが、

 名簿に基づいて数を用意するわけですから。」

あてが外れてがっかりする真紀に代わり、細田が言う。

「名簿と机と椅子を用意したのは誰ですか?」

「わたしです。

 この学校では、受け持ちのクラスの準備は、担任がするんです。」

「と、いうことは、失礼ながら高橋先生は新任ですから、

 教室の机と椅子や出欠簿の用意をするのは初めてなんですね。」

「そうです。

 細田先生は、わたしが何か間違いをしたとお考えですか?」

「いえ、そんな風には思いません。

 出欠確認は学校の基本です。

 いくら高橋先生が新任とはいえ、それを間違えたりはしないでしょう。

 高橋先生、念のため、他の学年やクラスの名簿は見られませんか?」

すると高橋先生はちょっとバツが悪い顔になった。

「すみません。まだこの学校に来たばかりで、

 相談できるような親しい相手がいないんです。

 ただでさえ新年度開始で忙しいので、

 わたしから他の先生に何かを頼むのは難しい状態です。」

「しかし、生徒が行方不明になっている状況ですよ?

 そんなことを言っている場合では・・・」

すると細田の言葉に、高橋が飛びついた。

「そこなんです、おかしいのは。

 入学式から生徒が一人消えたのに、誰も何も言わないんです。」

 校長先生や学年主任の先生はもちろん、

 保護者からも問い合わせがなく、

 警察に捜索願も出されていないようなんです。」

「それじゃまるで、最初から生徒がいかったみたい・・・。」

真紀の独り言に、細田と高橋が頷いた。

「ともかく、わたしたちで少し校内を調べて見ましょう。

 高山君、協力してくれるね?」

「もちろん!そのために来たんですから。」

細田と真紀は、見知らぬ校内を調べてみることにした。


 それから小一時間ほど後。

細田と真紀が、高橋の待つ空き教室に戻ってきた。

「どうでしたか?」

期待の眼差しの高橋に、細田と真紀は首を横に振った。

「駄目でしたか・・・。」

「いや、面目無い。

 何も知らない新入生はともかく、

 在校生は部外者の私などにはあまり話もしてくれなくてね。

 私の方では手がかりは得られなかったよ。

 ただ、入学式に大した問題は無さそうだった。

 新入生氏名読み上げの時に、ちょっと騒ぎがあった程度で。

 出欠簿に隠れた謎なんて、たかが知れてそうなんだがね。」

真紀も同じように意気消沈して言った。

「あたしも、他校の制服を着た人間には、まともに口も聞いて貰えなくて。

 ただ・・・」

「ただ?」

「ただ、ある生徒から少しだけ話が聞けました。

 消えた生徒は多分、この学校の験担げんかつぎの生贄にされたんだろうって。」

「験担ぎの生贄??」

細田と高橋は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

細田は頭上のマークを手で払いながら考えた。

「つまり私と高山君が調べても、

 誰も入学式に問題は感じていなかったわけか・・・。」

真紀は頭の後ろで手を組んで言う。

「験担ぎってなんだろう。

 幸運の四つ葉のクローバーとか、縁結びのおまじないとか?

 どっちも学校に関係ないなぁ。」

するとその時、細田がハッと顔を上げた。

「もしかして・・・!

 高橋先生、出欠簿を見せて貰えますか?」

「え?ええ、構いませんが。」

細田は高橋から出欠簿を受け取ると、端から端まで目を皿のようにして見た。

「なるほど。高橋先生のクラスの出欠簿は、こうなっていると。

 高橋先生、なんとかして他のクラスの出欠簿は見られませんか?」

「他のクラスの出欠簿ですか?

 うーん。そうですね。

 もうこんな時間なので、処理が終わったクラスのものなら、

 持ってこられるかも・・・」

「お願いします。どこでもどの学年でもいいので、

 他のクラスの出欠簿を見せてください。」

「わ、わかりました。」

細田の真剣な表情に、高橋は空き教室から飛んで出ていった。

残された真紀は、細田に尋ねた。

「細田先生、出欠簿になにかあるんですか?」

「ああ、これは君が調べてきたことから気が付いたんだよ。」

「?」

首を傾げる真紀に、細田はニヤリと微笑んでいた。


 しばらくして、高橋が黒い出欠簿をいくつか抱えて空き教室に戻ってきた。

「多くの先生が作業を終えられていて、出欠簿を借りてこられました。」

「それはよかった。

 早速、出欠簿を見せていただけますか?」

「はい、どうぞ。」

高橋から出欠簿を受け取ると、また細田は目を皿のようにした。

しかし今度は大した時間はかからずに、目を元に戻した。

「高橋先生、わかりましたよ。

 入学式が終わった後、生徒が一人消えた理由が。」

「えっ、本当ですか!?」

「出欠簿に何があったんですか?」

食いついてくる真紀と高橋に、細田は二つの出欠簿を並べて見せた。

それは高橋が受け持つクラスとは、学年もクラスも違う出欠簿。

「並べて見ても、あたしには特に変わりはわからないけど・・・」

「わたしもです。クラスの人数は違いますが。

 あれ?なにか変なような・・・?」

「じゃあ、こっちと比べたらどうでしょう?」

細田は、高橋先生が受け持つクラスの出欠簿と入れ替えた。

するとしばらくして、真紀と高橋は声を上げた。

「あっ!これ足りない!」

「他のクラスの出欠簿には、出席番号42番の生徒がいない!」

意図が伝わって、細田は微笑んで言った。

「そう。この学校の出席番号には、42番が無いんです。

 私は宗教については疎いので、

 この学校がどんな宗教教育をしているかはわかりません。

 きっと新任の高橋先生もそうでしょう。」

「はい、面目無いです。」

「知らなかったことだから、仕方がありません。

 どうやらこの学校では、験担ぎとして、

 出席番号42番は使わないようにしてるようですね。

 名簿に関わる縁起物と言ったら、その程度しかありません。

 それを知らなかった高橋先生は、名簿に出席番号42番を使ってしまった。

 入学式の新入生氏名読み上げでは、

 出席番号と名前を読み上げるだけなので問題ありませんが、

 教室の椅子と机は人数分だけ用意される。

 だから、本当はいないはずの出席番号42番の椅子と机が余っていたんです。

 人数はぴったり合っているのに、使われなかった机と椅子を見て、

 高橋先生は生徒が一人消えたと勘違いをした。」

「なるほど、出席番号42番は使わない決まりだったのか。

 うちの学校は縁起を気にすると聞きますしね。

 どうりで、うちのクラスの新入生氏名読み上げで、

 ちょっと会場がざわついたわけだ。

 使わない出席番号が読み上げられたのだから。」

「高橋先生、納得いただけましたか?」

「はい!」

二つ返事の高橋に対し、真紀は難しい顔をして言った。

「待ってください。

 この学校では、出席番号42番は使われないことになっていた。

 じゃあ、入学式の、高橋先生のクラスの新入生氏名読み上げで、

 出席番号42番に返事をしたのは誰なんですか?」

「あっ・・・」

細田は既にその謎に気が付いていたようで、

高橋だけが顔を青くしていた。


 高橋先生のクラスでは、本来使わないはずの出席番号42番が使われていた。

だから、教室に帰った後、机と椅子が一組余っていた。

では、入学式の新入生氏名読み上げで、

出席番号42番を読み上げられて返事をしたのは誰だろう?

その氏名は、出欠簿を見ればすぐに分かること。

「これだ。出席番号42番、幸田こうだ薄美はくみ。」

「これ、誰なんでしょうね?」

その答えを調べるには、しばらくの日数を要した。

その日は細田と真紀は高橋と別れ、高橋だけが調査を続けた。

そして、見つけた。

高橋の学校では、昔、入学式中に倒れてそのまま亡くなった新入生がいた。

その生徒の名前は、幸田薄美、出席番号42番だった。

それ以来、この学校では、出席番号42番は不吉であり、

また供養のためとして出席番号42番は使われないようになった。

それを知らなかった高橋は出席番号42番を使ってしまった。

高橋によれば、出席番号42番は最初から埋まっていたそうだ。

そしてそこには、本来いないはずの新入生の名前が記入されていた。

それが先日、入学式で新入生氏名読み上げで出席番号42番が読み上げられ、

何者かが返事をした。それが誰かはわからない。

ただ、とても嬉しそうな声で返事をしていたという。

ここは宗教系の学校。通常の学校とは少し違う。

先生たちも生徒たちも、本来ありえない返事に戸惑いこそすれ、

それを詮索したり咎めたりしようとはしなかった。

それが、高橋先生が特に詮索されなかった理由だった。

高橋先生からの知らせを見て、真紀がため息をついた。

「細田先生、今回の謎はおおよそわかったんですけど、

 入学式で出席番号42番の返事をしたのは、

 本当にこの亡くなった幸田薄美って子だったんでしょうか?

 誰かのいたずらってことは無いでしょうか?」

「どうだろうね。それを調べるのは難しい。

 でも人は亡くなると、未練のある場所に縛られるとも言うし。」

「未練があるにしては、楽しそうでしたね。」

「今頃幸田薄美君は、学園生活をやり直しているのかも知れないね。」

今では高橋先生も出席番号42番が欠番である理由を教えられ、

クラスでは出席番号42番の席に花が供えられているという。

真相はわからない。

もしかすると真相は現実的で単純なことなのかもしれない。

・・・でも。

不幸にも学園生活を途中で終えねばならなかった生徒が、

時間を超えて、別の存在となって、学園生活を続ける。

そんなことがあってもいい。

いや、あって欲しい。

目に見えぬ新入生の新生活に、細田と真紀は思いを馳せていた。



終わり。


 四月も過ぎて新生活の季節。

不幸にも新生活を迎えられなかった人たちの事を考えていました。


もしも人以外になっても新生活を迎えられるなら、

今度こそしあわせな新生活を送って欲しい。

学校に恨みさえなければ、それも可能かもしれません。


お読み頂きありがとうございました。


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