表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/29

来-5(旧題:円環の虹)

『力は貸さぬ。することがあるでな』


 後光で何かをかぶっているのだけは、なんとかわかる神様がまず告げた。

 再会を祝うことなく一同は集った。

 (本当によかった)小説の筋書きどおりだった。

 世歩玲に頼みごとをする。「正気?」と顔にも口にも出した女導師に頷く。

 トーキチとナリィーの肩に手を置く、


「願ってくれ、最高の結末を」


 ラストバトルだ。銀色の水たまりが瞬時に世界に広がった。


 俺はラポール島で待っていてくれと言った。その世歩玲が去り際に渡してくれた木の棒を携え、代わりに支給された黄みがかった剣を流れるように捨て、竜討伐の冒険者として加わることになった。トーキチとナリィーは隠れていてくれと言い、トーキチにナリィーを頼むと密かに伝えた。

 ランゲルハンスの城内は荒れており、えらく荒れた大臣がいるなと思ったが冠を無くした紛れもない王様であり、氷漬けにされた初実のよこにある大穴を杖で指しわめきながら、城の主よりも立派な装飾の柱にその杖で八つ当たりをしてーーあ、折れた。そこから一悶着の幕間劇も、次いでの正統なストーリーも残念なぐらい聞き流した。まあしかたあるまい。俺のはなしでは、ないのだから。財政難なのかなんのか遠征はなし。竜は願いを叶える伝説があるから、倒しにいけば? 叶えるなら姫の呪いを解くにしてくれ、さすればこの国で姫との婚礼でもなんでも取り計らってやる、と都合のいいことだけ記憶に入れた。 願いを横取りするのはいいとして、倒して叶えた方がいいのか? と思案しているとよく見る久しぶりの顔が驚いて笑顔でやってくる。


「なんだ……また来たのか」

「おまえが呼ぶんだろ? 天の邪鬼め。寂しいんなら、否定すんなよ別次元の存在を」


 イヤな顔した善悪を突き放し、ひとり竜討伐へ向かうことにした。どうやら壁面の穴の方向に飛び去ったらしい、本物の方の大臣が火を吹くぞ気をつけろといい、王様がそれは違う、氷の竜のはずだといい合うのを無視し、焦げあとのある出口から飛び降りた。


「着火」ぽっとマッチのように火がつく。

「点火」ぼわっとコンロのように火が浮く。

 火炎、烈火、大炎、気炎……国語辞書が意外と役に立ったのかもなあと思いつつ、木の棒の火力調整を行っていた。唯一武器になりそうな「火炎放射」という単語を思いつく頃には滝が流れ落ちる場所で待ちかまえるように氷竜がたっていた。崖の上に場違いな氷塊があるのを見やる。


「住処だな」


 どこからか現れた善悪が呟いた。

 竜に狙いをホームラン予告のように定め、得物を上段に構えて、言い放つ。


「願いはもらう。幻想をかき消してやるっっ!!」


 滑るように迫りくる善悪を敵とみなした氷竜が威嚇する。飲み物を冷やすときの音がハジけるように大音量で飛んできた。

 善悪が届くわけがない百メートル程の遠距離から重心を乗せ、ハルバードを振りおろすーーモーション。


 ガキン。

 善悪の斧槍が速度が乗るまえに氷の壁に突きあたっていた。


「なにっ」


 善悪が意表をつかれたという言葉に端を発し、動く。

 主導権が完全にとられかけていることに気づいた俺は、焦りながらも冷静に氷竜へ側面から回りこむようにむかい走ったっ。……竜は俺を全く敵とも見ていないらしい。

 背後から忍びよるように呪文を唱える。


「火炎放射」


 避難訓練で見たことがあるような勢いで炎が木の棒から吹き出す。

 自らを奮いたたせるように、唸るッッ。


 ウラアアアアッッ!!


  竜は近づけば近づくほどでかかった。でかい図体だからそれこそ迫力とともに校舎か何かのように思える。横凪にしようとした手を上段に持ち構えーージュワっっという音とともに、タライからぶっかけられたような大量の水が頭を濡らす。しっぽに当たってしまったらしい。

不味いっっ、半狂乱で暴れる竜から距離をとる。問題なのは竜よりも水をかぶってしまったと考えたことだ、右手が、


「湿けってやがるっっっ」


 竜と勝負が着かず五分と見た善悪がこちらに狙いを変えたのがわかった。

  手刀で衝撃波を飛ばす。寸前切り返すっっ。

 背後で滝のしぶきが上空にまであがったことを善悪を見据えながらも体感できた。

 天才がッッ!!含み笑いをしながら連続で繰り出された手刀をかわすっっ!

 無駄だっっ! 竜の向こう側にいる善悪に届くよう声を響きわたらさせた。


「おまえの衝撃性眼球運動サッケードではっ、俺を捉えることはできないッッ!」


 本当はここに来る前ラポール島の暗闇である特訓をしてたのだが、やすやすとカラクリを教えてやることはない。フィードバックで、今の俺は止められない。

 ムキになって更に善悪が振りかぶる。

 本当に衝撃性眼球運動サッケード、つまるところ直線的な予測しかしなくなっているので、華麗に百八十度ターンさえ、タイミングに合わせてしていれば良かった。お遊戯かコレは。とはいえ、一撃でも食らえばほぼ終わりなので、真剣に同じ動作を間違いなく繰り返す。不思議なことに善悪の息があがっていた。なぜだ……と息の切れ間から漏れていた。

 その隙に再び竜に挑む。なぜか再点火……ああ、この言葉があったじゃん。と思いながら火を吹き出していた右手を振るう。浅いかっ。竜が残った氷の尾で胴体をかばっていた。

 氷竜は火をみてこちらにもようやく危険信号がついたようで少し羽ばたき後退し、左目の視野に俺を収めた。

 ンっ? 果てに小さな物見櫓があった。あそこか神様は、


「エイドス・オントス・オン」


 世歩玲から教えてもらった祈りをつぶやく。

 ピクリっと氷竜が身じろぎした。火が炎になる。

 超越的な神を呼ぶ祈り、


「エイドス・オントス・オン」


 体が軽い。跳ねるようにまた一歩詰め寄る。

 右手の炎が祈りの度に大きくなる。

 汗のように氷竜に水滴がつたう。

 木の棒で突きの構えをとるっ。


「アインッ! ソフ!! オウルッッ!!」


 瞬間っ!! 閃光のように右手が輝くっ。

 うおおおっっ! おおっ? おお??

 輝いた棒の先端から火柱があがりっ、竜を包みこむっ。

 断末魔とともに火だるまの竜がその場に倒れ込んだ。


……俺が突っ込む前に。


 世界に声が響く。


『おお、世界を救いし勇者達三よ!「世界のはんb……世界の半分を手に入れれるよう

な」願いをひとつだけ叶えてしんぜよう』


 発信源は間違いない……あの櫓ですよね! なんかもう泣き笑いしたくなる気持ちを捨ておき願いを大きく告げる。後ろの善悪に耳に入れるために。


 俺は叫ぶ。


『初実を救いたい』

「繋げてくれ!! 初実とラポール島を!!」

『その願いたしかに聴きとどけん』


 合図のように神気ある風がーー櫓からーー突風がっ。

 再び目を開いた。竜の亡骸があるはずの立ちこめる蒸気の中に、夢にまで見たヒロインが倒れていた。何故か町娘のような格好で。氷のような薄青いツインテールがぐったりしおれている。


 初実っっ!


 駆け寄り抱き起こす。顔が青い……というより幾何学的な文様がデカルコマニーのように絶えず顔を魅了しているようであった。

 少女は、奥歯を強く噛みしめ震えていた。


「大丈夫か、初実」


 呆然と唖然とし過ぎていた善悪が立ち直り言う。


「待て、それは俺のはずだろう」


(ーー昔の約束を)とびっきりの笑顔で言ってやる、


「やなこった」


 武器に深く、手をかけようとしている中……、ある単語がふと頭に浮かぶ。

ーーマジっすか? 不安の気持ちが強く初実の腰をたぐりよせ、可愛らしいお腹を右手でくの字になるよう挟む。挟むときに般若のごとき顔になった善悪で覚悟を決めた。


「い……い…………」

「い?」


  善悪が疑問を口に出す。脳内ではカウントダウンを行っていた。


点火イグニッション


  ドゥフッッと砂塵が巻き起こる。ーーはっ背面飛行?? 頭の上に堅そうな荒野が見上げある。操縦桿そうじゅうかんっ制御できばへんっ。開きかけた口を閉ざす。風圧で顎がはずれるに決まってる。せめて上下反転しないとっ、熱ぢぃ。右足の服が焦げる。クルンクルンと横回りの軌道を立て直すと真ん前に崖っ。舌打ちみたいな音と斬撃音をコンマゼロ二秒で捕らえ。たときには崖は跡形もなく消し飛んでいた。今度は正しく地表を見下ろす。

 善悪がいた。

 

 えっ?


 と思う間にン百メートル進んでるのか善悪の姿が瞬時消え去る。

 が、次の瞬間には現れてまた置き去りする。

 こっちもこっちだがあっちもあっちだ。

 世界の果てに向け、文字通りぶっとぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ