ライフスティール
神くんが俥と対峙していた時、
ケイトは未来堂でいばらと組手をしていた。
強くなりたい
その願望を叶える為、
ケイトは必死に食らいつく。
「…はあ、はあ、はあ、」
《妖力に頼りすぎだって何回言えばわかるの?だからすぐバテるんだよ》
酒呑童子の刀、
現祓を遠慮なく振るうケイトとは対象的に、
いばらは眠たそうに素手で対応する。
「…っはぁ!!!」
よろめく振りをしてからの横払い
しかし安易、
白刃取りの横バージョンみたいな感じで
手のひらで挟み込まれた刀身、
「えっ!?」
そして、
「えええぇぇえ!!!!」
肘から先をドリルのように回転させ、
ひねりを入れてそのままいばらはケイトを放り投げ、
宙に舞ったところへ
細い脚をしならせた回し蹴り。
数バウンドの末…テイクダウン。
《あの巫女も、見事なやられっぷりじゃあの》
《人はやられて強くなるものなのですよ。》
猫叉と酒呑童子は小さな離れの邸宅、
その縁側から茶を啜り、
2人を見守っている。
《しかし、自分の命を減らしてでも修行に専念するとは大したものよ。》
猫叉の何気ない一言、
これで酒呑童子の笑顔が青ざめる。
《…ええ、こほん。》
組手の中を割って入る酒呑童子。
いばらは腕を組み、
ケイトはダウンから起き上がる。
《ケイト様、実はお話ししていなかったことがございます。》
握った現祓を手のひらに収めて、
後頭部をさすりながらケイトは耳を傾けた。
《この未来堂の時の流れは、現世と比べて緩やかなことはご存知ですね?こちらの一週間は、現世の一日…と。》
だからこそ、
ニセ盛鬼たちの為に妖力と業の修行が何とかできた。
《ええ、その…実は、その代わりと言っては何ですが、ケイト様の寿命が短くなっていきます。ほほほ。》
ケイトはふーんと右上を見たが、
冷静に考えれば考えるほど汗が出てきて、
「…ちょっ!!!ええっ!?」
何さらっと言ってんの!
とんでもないことを!
さらっと!
《妖怪や鬼のような常命の者とは違い、ケイト様、人間は定命の者、命に限りのある者。》
《ここは冥土と現世の狭間、ここにいる間は冥土の影響を受け、定命の者は寿命を現世にいる時よりも多く支払い続けなければならない。》
《まあ、少しくらいなら問題はないでしょうけども。ほほほ。》
酒呑童子が口元を隠して笑うが、
ケイトからすれば笑い事ではない。
「はぁ!?バカなの!?何で笑ってんの!?」
いばらも酒呑童子に顎を向けて、
《教えてなかったの?》
とても冷静になれないケイトは問う、
「あたしの寿命どんだけ削られてるの!?ここに合計…2週間くらい居たけど!!」
身振り手振りを激しく動かし、
焦る、焦る。
いばらは一瞬、目を閉じてから説明した。
《ここでの2週間、14日なら、現世では14週間、98日。つまり2352時間から336時間を引いた分、2016時間分の寿命を現世にいる時よりも多く払った事になる。》
「!?」
顔面真っ青のケイト。
2016時間!!
その時間があれば日本を徒歩で2往復できる時間になる。
文句を言いたいのは山々だが、
一刻も早くここを立ち去らなければ、
命がどんどん削られていく。
修行には打って付けのこの場所、
それにはリスクが伴うというのか。
ケイトは何も言わず
急いで鳥居をくぐって自宅に戻った。
「…もう、最悪!!」
すぐに茶の間の畳に寝転がって、
目の上に腕を置く。
「…もう、あそこで修行はできない。」
強くなればなるほど早く死ぬなんて。
「考えなきゃ…」
真っ暗闇の家の中、
神くんを照らしていた同じ月が、
腕を下ろしたケイトの瞳を煌めかせる。
「修行のやり方を。」




