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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
50/127

ぬるりと俥




その日の夜、


神くん、神 衛花は道着袴姿で木刀を振っていた。


大きな日本屋敷の手入れされた庭、

その中で

熱心な練習の成果と言える大粒の汗、

それが月の明かりに反射して美しく煌めく。




「随分立派な家だねえ」




神くんの背後、

庭の大きな松の木から


「俥です、青葉署の。」


謎の刑事、

俥 入人が現れた。




神くんはため息をついて、

振り返る。


「警察の方が不法侵入とは、感心しませんね。」


それに対して

ハハッと笑って手を添える。


「やだなあ、ちゃんと玄関から断って入りましたよ。あれ、お爺様?」




「…まあ、そのようなものです。」


神くんは縁側に置いたタオルで汗をぬぐって、

木刀を立て掛けた。



「俥さん、用件は、何です?」


襟を正して、

改めて問う。


「またまたやだなあ、とぼけちゃって。」



俥は胸の内ポケットからタバコを取り出し、


神くんの許可を得てから

口にくわえ、

火をつけた。



「すいませんね…あ、タバコは吸うのに、すいませんだなんて、ハハッ、こりゃいいや」



神くんの調子が狂う、

俥の道化た態度。



「スパー、こんな綺麗な月の下、タバコを吸って、コーヒーがあれば最高なのになあ~」



イライラがとうとう神くんの肩を掴む。

だが、堪えて、



「俥さん、あの、」


「あの火事の件ですよ。」



指に挟んだタバコを口から離して、

神くんに指す。


「火事の件ですよ、火事の件。」


「それはもうお話ししましたよ、青葉署でも、聞き取りでも、病院でも。」



俥は、神くんに指したその手の、

平を見せて、


「なのに、刑事が来た。ということは?」


「…そういう事です。」




何かの疑いをかけられているのか?


いい気はせず、

神くんの表情にまでもイライラが掴みかかってきた。



「何が言いたいんです?」


俥は煙を吐いて

ニヤリと笑う。


「みんなに~、言ってないこと、あるんじゃないですか?」



…ある。


…みんなに、言ってないことが、ある。



「ほら!あるじゃない!表情が一瞬固まった!そうそう、そうなんですよ、それを聞きたいんですよ!」


「…無いですよ!」


「嘘は良く無いよ~、神 衛花くん。」



俥に見事にかき回されている、

ペースは完全に狂って

核心に迫られてしまっている。



「私ね、普通の刑事じゃないんですよ、何が普通じゃないか、知りたい?」


「ふふふ、私ね、建前を気にせず動ける刑事なんですよ~。」


「署内では幽霊、なんて呼ばれててね、何をしようが関係無いんです。」



脅迫?

神くんの右手が木刀に伸びる



「おっと、物騒なことはするんじゃないよ。」


その手が止まる。


「まあいいけどね~」



俥の顔に暗い影が入り、

死んだ黒い瞳でつぶやく、


「…いいけど、使う刀はそれじゃあないだろ?」




殺気、

ただならぬ殺気、


全身を通り抜け、

後ろへ吹き飛んでいくような殺気!




「…なんてね。」




あと少し

今の殺気を浴びていれば、


刀を出していた所だ。




「ハハハ、青少年をいじめる趣味はないよ」


と

肩を叩いて

庭の勝手口の方へ歩いていく俥。




「…っ!?」


いつそんなすぐ側に寄られた!?

神くんはとうとう汗を垂らして

口を開けた。




「今日はここまでにしとこうか、また来るよ。」


「0係の、俥だ。大事だから二回名乗った。」


「次はちゃんと質問に答えるんだよ?いいね?」




ヒノキの扉に手をかけ、

ゆっくり開いて

すう、と俥は敷地をあとにした。




敵なのか、

味方なのか、

いや、味方ではない、


なら何故殺らない?


何故、



神くんは強烈なプレッシャーに押しつぶされ、

その場で

膝から崩れ落ちた。




闇は闇からやって来ている。

確実にケイトと神くんを捉える為に。


鬼に刃を向けるという代償、

その支払いは何か、


命か、はたまた…。




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