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あにあつめ   作者: 式谷ケリー
弐の章 蒼い春
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来たる猫叉




現世と冥土の狭間、


異空間にある未来堂にケイトは来ていた。


無論、

次の(くだん)の災いのことで。




先日の大火の時は、

間一髪のところで魂を5つ集めることができ、

災いを鎮めることができたが…



…容赦無く、災いは街にやって来る。





《次の災いは一週間後、鎮める魂は二つ、というところですね。》


《序級、だね。》




いつもの通り、

酒呑童子といばらが並んで話す。



ケイトは手を挙げ質問した。


「この街だけなの?災いは?」


「隣町は?県は?この国は?」


「この世界には?」




酒呑童子は手を打って、


《良い質問ですね、そう、その通り、災いはこの街に限らず起こる可能性を秘めています。》


更にはケイトに近づいて

眼前で指をさす


《魂が一つから五つまでの災いを序級、五つから十までの災いを破級、十から無限大数までを急級と、私たちは呼んでおります。》


うっ…近いな、この人。

下がるケイト。


だが距離を詰めてくる酒呑童子。



《今までは序級、破級までの災いしか起きておりません。それを上回る急級の災いが来れば…この街以外にも其れが及ぶやも知れませんね。ほほほ。》



そして踵を返して

酒呑童子は元の位置に戻った。



「…序級、破級、急級。」




他に質問は無いかと酒呑童子がねだるので、


「また修行をしたいな。もっと強くなって、お兄ちゃんをさらった人たちを倒したい!」



このケイトの言葉に、

酒呑童子といばらが目を点にした。




《…あんたからそんな言葉が出るとはね。》


そう言われて

いばらに返すケイト。


「強くなれば、街を災いから守ることにもなるし、きっとお兄ちゃんは戻るのを待ってると思うんだ。」



灯篭の明かりが揺れ、

地面に敷き詰められた玉砂利が鳴る。



《強くなるのは結構なこと、しかし焦っていても始まらない。》


《ケイト様、ニセ盛鬼に使った一眼(いちのがん)、あれはかなりケイト様への負担が大きい。妖力や一眼に頼らない地力を今度は鍛えていきましょうか。》



地力が上がれば、

妖力による攻防強化の恩恵も増える。




《ですが…寺子屋…おっと違いました、学校へは行かなくてもよろしいのですか?》



ケイトは先日の災いが終わったら学校へ行くと決めていたのに、


未だに行っていない。



「…学校は、行くけど。」


《なら行きなさいませ。お兄様とも約束したのでしょう?》



…何で酒呑童子にそんな心配されなきゃならないんだろ。


気が進まないケイト。



《学校に行けば、何か面白いことがあるかもよ?》


いばらが腕を組み、

肩を揺らして笑う。


「いばらちゃんまで!?何か企んでるの!?」




酒呑童子も袖で口を隠して笑う


《神少年、彼のように才ある若者がいるかもと思いましてね~、そのような者たちをケイト様がこちらに引き入れて下されば、災いを鎮めるのも楽かと…ほほほ》



ケイトは歯ぎしりをして

足踏みで返す


「これ以上他の人を巻き込めって言うの!?こんな馬鹿げたことに!?」


瞬間的な怒りで

心の奥にあった物まで吐き出してしまった。




《巻き込んでしまった、そう感じているのならそれは大きな間違い、彼は…》


《…望んでケイト様を助けに来た。もし頭を下げるおつもりならば、彼に巻き込まれてくれてありがとう、と下げるべきです。》



確かにその通り、

それは理解している。

実際、神くんが来てくれなかったら、

フランシスカにめちゃめちゃにされてたかもしれない。


そして災いを鎮めるのに間に合わず…



「…わ、わかった。学校に行くし、神くんにお礼をちゃんと言うよ。」




ここでまた酒呑童子が手を叩いて、


《よろしい!ではまた話が変わりまして、ケイト様、あなた様にお客様が来ていますよ。》



えっ?

ケイトは目を丸くして肩をすぼめる。


こんなわけわかんないところに自分へのお客さんなんて、そんな、見当もつかない。




凛、

と鈴を鳴らし、現れた黒猫。


不気味な二本の尻尾を振って、



《こ度の守護、見事であった!感動した!》


黒猫はそのままケイトの足元へ寄っていき、

額をこすりつけ、


《ごろごろ〜ごろごろ〜》



しゃべる猫!

妖怪!?

(うつつ)!?


ケイトは反射的に拒絶し、

少し蹴ってしまった



《フゴッ!!な、何するんじゃ!》


これには堪らず酒呑童子もその猫に駆け寄り、


《ケイト様!何をなさいますか!この方はとっても偉いお方なのですよ!》


そう言って抱きかかえて、


《この方は、(とこしえ)妖怪を納める長老、猫叉様にございます。》


猫叉の顎を指でウリウリと転がす。



《ウニャ〜ン》


…酒呑童子もその猫に対してリスペクトとか無いだろ。


異様な光景に白目を剥くケイト。




「…そんな偉い猫が何の用ですか…?」


ケイトは肘を抱いて、

横目でその猫を睨む


猫叉は酒呑童子の胸から降りて、


《街のいさかいは本来、我ら常衆で納めねばならぬものを、酒呑童子殿、はたまた汝等に納めてもらった事、本当に感謝しておる。》


頭を下げて、

また首元の鈴を鳴らした。




「…とこしえ、しゅう?」



感謝に会釈で応えて、

ケイトは質問した。


それについては私が!

と言わんばかりに酒呑童子が前へ出て


《常衆とは、常妖怪の集まりですね、古くから青葉の街におられる名誉高い妖怪たちで成り立っている組織で御座います。》



すると猫叉は鼻で息を吐いて、

どこから取り出したかわからないキセルを咥えて火を灯した。


《スハー。》


《名誉なんざ、何もない、ただのチンケな老ぼれの連中よ。》


《いさかい事には目を背ける、とんでもない連中じゃ。》




猫叉と常衆の間に何かあったのは間違いなく、

つまらぬ顔をして、

猫叉は長い眉をゆっくり潜めた。




《情け無い話じゃ、こんな若い巫女さんによって街や、ワシらが生きて行ける、情け無い。》




そして猫叉は、


《酒呑童子殿、ワシ、これから此処に厄介になるでな、よろしく頼むぞ。》



…私には関係無いけど、


酒呑童子の顔をケイトが見ると、



顔は笑ってはいるが、

どうにも不服そうな雰囲気である。




《…え、ええ、どうぞごゆるりと。》




それを黙って見ていたいばらは、


くしゅん!

一つクシャミをした。




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