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「と、とにかく、箱を買いに行かないと、ですよね?」
「そうだな!」
「でも、どういう箱が必要なのか、明確なビジョンを描いておかないと、二の舞になる可能性、大だぞ」
「確かに・・・」
当然といえば当然なのだが、広がってしまった沈黙を打開してくれたのは宇江樹だった。
その宇江樹の建設的な意見に、力強く芦も同意を返したのだが、難しげな顔をした井雲は同意を示す頷きを何度も繰り返しながらも、物凄く有り得そうな危惧を口にしてくる。
有り得そうどころか、確実な未来に近い危惧に、芦も溜息を洩らしてまたも同意するのだが・・・、しかしだからといって、すぐに明確なビジョンが浮かぶわけもなく。
再び沈黙が広がりそうになったのだが、三人の中で唯一、社会人という社会性を持ち、尚且つ、新たな商品アイデアを求め続ける立場にある宇江樹が、その危惧への打開策をさっくり思いついてくれた。
「ネットで、検索して、色々見て考えましょうよ」と。
僕も仕事で何のアイデアも浮かばない時は、ネットで関係あるもの、ないもの色々見て、アイデアになるようなものを探したりしているんですよ・・・、と続いたそれに、芦と井雲は二人して、声を失うほど感動した。
社会人っぽい、と。素敵っ、と。
心は乙女、くらいの勢いで感動しつつも、早速、三人それぞれ携帯でネット検索を始める。箱以外に検索ワードに何を入れるのかを相談しながら画像を探して、それぞれこれはと思うものを他の二人に見せては、他の二人が見せられたそれに対する意見を述べて・・・、と色々な画像を見て話をしていくにつれ、漠然としていたイメージは固まっていき、これはという三人意見が一致した画像を見つけると、通販サイトに駆け込み、同じ画像の箱を検索した。
よくよく考えてみれば、隙間に入る箱がどのくらいの大きさなのかも確認していなかった為、何故か芦がキッチンに置いていたメジャーを取り出し、きちんと場所を測って検索した箱のサイズを確認、隙間に置けるのか、置いたとして、使い勝手はどうか等を相談し合う。
どうして最初からこうしなかったのか、大体、置ける箱のサイズすら確認していないというのはどうなのか等という、振り返らずとも辺りに散らばっている後悔を横目に見つつ、しかし失敗と後悔を元に辿り着いた方法は、確実な成果を三人に齎す。
検索すること約四十分。一時間にも満たない時間で三人の意見が一致する箱は見つかり、代表して芦が購入ボタンを押すことによって、二度目の買い物は達成されたのだった。
ちなみに、金額は税込み三二四〇円。三人折半で、割り切れる金額であることが、その商品を選ぶ最後の決定打であったりする。
「これで、一安心だな・・・」
「確かに。でも、これで一安心だとすると、俺達が買ったこの箱とかって一体・・・」
「それはもう忘れましょう・・・、あっ、でも、この箱のお金、僕、払ってないです! いくらでしたか?」
「いや、この金はうーさんが出さなくても・・・」
「俺達が訳分からない買い物しちゃっただけだし・・・、それに、一応折半したから、大丈夫だって」
「そうそう。・・・あ、いっくん、折半したんだから、好きな箱とか持って行っていいから」
「・・・考えとく」
実際に物が届き、収納してみなければ本当に問題解決に至ったのかどうかは分からないのだが、それでも人間、目処が立てば安堵してしまうもので、三人は寛ぎながら雑談を始めていた。
話題の中心は勿論、今、解決の目処が立った案件と、目処をつけるまでに至った経路についてだ。
散らばった箱や籠を眺めながら、代金分を持ち帰るように勧める芦に、日常的に経済が切迫している井雲は要らない物であっても貰える物は貰うべきだろうかと迷い、答えを保留にしつつも辺りを見渡す。
冷静になってみれば、一体何故こんなにも買ってしまったのか、しかもどうしてこう、中途半端に大きいか、要らんぐらい大きいかの二択なのだろうと首を傾けながらも、金を出した以上はやはり、少しでも使えそうな物を選んで持って帰るべきかと考えていた井雲の視界に、その時、見慣れない、けれどとても見慣れている気がする姿が視界に入ったのだった。
視界に入ってすぐにはそれを認識出来なかった為、一度は視線がその場から流れたのだが、しかし強烈な引っ掛かりを覚えてすぐさま視線を戻せば、その先には引っ掛かりを覚えた光景が幻でもなんでもなく、そこにきっちり実在していたのだ。
瞬きを繰り返しても消えることなく、薄れることなく、そこに。
「・・・なぁ」
「どったの? いっくん」
「いや、なんかさ・・・、」
「うん?」
「井雲さん?」
「・・・知らない間に、事態は新たなステージに向かってたみたいなんだけど」
「は?」
「あれ、あっち」
「・・・お、わぁー」
「・・・えっとぉ」
「ジャストフィット的な感じになってるんだよ。しかも、なんか、お気に入り状態な感じなんだけど・・・」
三人は、そこまでで沈黙した。するしか、なかった。
何故なら井雲が気づいた違和感、そして示した先には、お堂の裏に設置出来なかった百均の籠があって・・・、
その中にすっぽりと入ってご満悦の、みーさんがいたからだ。
・・・荷物の量に対応して、次々同じタイプの籠をジョイント出来る籠の為、籠一つ分の深さはそこまでない。
その為、小さなみーさんが入り込むにも丁度よく、入ったら入ったで、顔だけがちゃんと籠の上から覗くという、サイズ的に物凄くフィットした、こういう使用目的だったっけ? と言いたくなるほどの見た目になっている。
しかも入っている当のみーさんは、楽しげだ。限りなく、満足げだ。水を差すのが憚られるほど、嬉しげだ。
百均の籠に、神様から頂いたご利益を収納するのが不適切であるということは、三人の共通認識だった。訳の分からない盛り上がりで買ってきてしまった芦と井雲も、そういう認識で、それなのに・・・、その百均の籠に、当の神様であるみーさんがお入りになられている、というこの現実。
目を背けたい、どうして気づいてしまったのだろう、というか、どうしてこうなるまで気づかなかったのか、入ろうとしたところに気づいていたら、否、籠自体を放置せずにどうにかしていたら等々、固まっている三人の脳裏を様々な思いが過ぎり、声にならない呻き声を洩らすのだが、そんなモノを洩らしたところで、何がどうなるわけでもなくて。
「みぃ!」
みーさんの機嫌が良さそうな声が、可愛らしい鳴き声が、三人の胸に深すぎる後悔を呼び・・・、三人の意識はおそらく、一旦途切れた。
そして失われた意識の接続が再びなされた後、誰からともなく動き出した時、三人が取った行動は打合せも何もしていないとは思えないほど、完璧に同じものだったのだ。
つまり、再び行われたネット検索。対象は、お堂の裏には設置出来ない大きさの、ちょっとお高めの籠。
大丈夫、代金は三で割るんだから、という呟きを胸の内でそれぞれ、お祈りの言葉のように繰り返しながら、三人はただひたすらに、みーさんに相応しい籠を捜し求めるのだった。
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「・・・で、何でこうなるんだろう?」
「・・・分からん。分からんが・・・、今まで俺達が体験した全てのパターンを振り返るに、何となく、この結末が予測出来ていた気もする」
「・・・そうかな? そうかもな」
「いえっ! それは後になってからそう思うだけで、その時その時で、僕達は僕達なりに、一生懸命でしたよ!」
芦の諦めきった疑問の声と、それに応える井雲の疲れきった声。
そして思わずその疲れた声に同意した芦と、芦の同意に虚ろな目をする井雲の二人を励ますように、またその二人の様子に引き込まれそうになる自分を叱咤するように上がった宇江樹の声が、酷く虚しく部屋に響いた。
しかし、その虚しさを咎めることは誰にも出来ない。
何故なら今、この瞬間も、ご機嫌な様子で洩らされる愛らしい鳴き声と、相変わらず醜聞の耐えない芸能界のアレコレを垂れ流すテレビからの声が聞こえてきていたし、虚しさに覆われている三人のすぐ傍には、ネットで届いたばかりの箱と籠が置いてあるのだ。
お堂に入りきらなかったご利益をきっちり収めた箱と、もう一つ。
少々お高めの、『空っぽ』の籠が。
三人で折半しても、少々高いな、と感じる値段、特に芦と井雲の懐事情では厳しい値段、もっと言えば、一番懐事情が厳しい井雲にとっては、これから数日間は芦が持ち帰る廃棄弁当で凌ぐしかない、それでも凌げるかどうか分からない、という値段であるにも関わらず、空っぽの状態。
ネットで色々検索して、三人で色々相談して、その結果買ったその籠は、値段だけあって、また三人で知恵とセンスを搾り出しただけあって、なかなか良い物だった。デザインだって洒落ているし、素材だって金がかかっている。その上、装飾だけで使い勝手が悪いというわけでもなく、きちんと中に何かを納めるべくして作られた物だとはっきり分かる品物だ。
・・・が、しかし。
空っぽだった。どうしようもなく、空っぽだった。虚しいほどに、空っぽだった。
理由は当然、みーさんが百円の籠から移り住んでくれないからだ。
一体、どこがそんなにも気に入ったのか、と問い質したくなるほど、何故かみーさんは百円の籠を気に入ってしまい、新しく買った高価な籠には見向きもしてくれなかった。
差し出して、こっちの方が素敵じゃない? と、下手な販売員のようなことを三人で訴えてみたのだが、その三人の下手で必死な様子が面白いらしく、みーさんはただ笑うだけで、やっぱり高級籠には興味を示してくれない。
自分の棲家はここなのよ、と言わんばかりに、安物の籠で寛いでいるのだ。
みーさんの棲家は、どうにか空きスペースを作った、部屋の奥に持ち込まれたお堂だと思うのだが。
「・・・これは、どうしたらいいんだろう?」
「・・・分からん。ってか、予感的にどうにもならないような気がする」
「・・・最近の百均って、結構凄い商品が多いですよね! 百円とは思えない感じで!」
「・・・でも、百円だけどな」
「・・・まぁ、百円だな」
「・・・あのっ、とりあえず僕もこの籠の代金を出したいのですが!」
虚しさに取り囲まれながら、三人は迷走する。
前向きに百均を称える声すら届かない二人に、宇江樹がとりあえず、代金の負担を申し出るも、税込み三十六円の負担では、他二人の心が安らぐわけもなく、また宇江樹を含めた三人ともの問題が解決するわけでもなく・・・。
色々な事が、色々な意味でただひたすらに、限界に近づくだけだった。




