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白の魔法騎士。1

 安良里と杉沢が目を覚ますと、そこには見慣れない服を着用した男達がいた。彼らは皆、ライフルのような拳銃を所持し、かつ手榴弾を持っている。

 何かの合図を受け取った彼らは、一斉に魔法科大学に投げた。すると、魔法科大学だけでなく、全ての学区の学び舎から火の手が上がったのだ。

 魔法科大学は現在厳戒態勢が敷かれている。その為、第三学区の魔法警備生の殆どが魔法科大学の警備にあたっていた。つまり、他の学区は手薄。この爆発により死者が出てもおかしくはない。

 安良里が起き上がると、迷彩模様の服を着用した男達が笑う。


「おいおい、魔法少女って言っても大したことないなぁ!」

「そりゃぁそうだろ! なんていったってミスター・ケイ様が女尊男卑の世界を覆そうと入念に作った量産型聖遺物だぜ? そこらへんの魔法少女にやられたら困るだろうが!」

「それもそうだなぁ!」


 汚い。素直に安良里はそう感じた。


「だけどよぉ、ここの女レベル高くねぇか?」

「俺もそう思ったぜ、何人かお持ち帰りしてもいいんじゃねーか? ぎゃははははっ!」


 女子生徒を持ち帰りと称して、破廉恥な事をしようとする輩に腹が立った安良里は、魔法を発動しようとする。幸い、奴らは安良里の存在には気がついていない。

 レベル五の安良里がどこまでやれるのかは分からないが、とにかくやるしかないと感じ、詠唱しようとした。

 だが、その前に誰かが叫んだ。


「そんなこと……させません、です!」


 先ほど倒れていた杉沢が立ち上がり、男達の前に立ち塞がった。制服は爆発により破け、泥がついている。さらに、身体の至るところに傷口があり、立っているのがやっとであろう。

 レベル八としての誇りか、それとも杉沢は己の使命として動いているのか。安良里には理解できなかったが、その姿に教師でありながら感動を覚えた。


「あ? なんだ、威勢がいい奴がいるじゃねーか!」

「こういう奴って、処女だろ? 一回犯せばハマるんじゃね?」

「今すぐやっちまおうぜ!」


 杉沢に伸びる魔の手。

 安良里はすぐに魔法を発動しようとした。

 だが、何者かによって口が塞がれる。


「むぐっ!?」

「俺はよぉ……高校生には興味ねーんだ。あんたみたいな熟女の方がたまんねーんだわ!」


 いつの間にか背後から近づかれていた。安良里は心底気持ち悪いと思い、振り解こうとしたが、さすが男だけあって力が強い。

 杉沢に視線を移すと、消火活動によって魔力を大量に消費しているらしく、魔法が使えない状況だった。よって、杉沢も今はただの女の子だ。


「魔法が……」

「使えないんだろ? だったら、俺らと楽しく遊ぼうぜ!」


 杉沢は安良里と同じように背後から拘束され、身動きが取れなくなる。二人がこりで抑えられていると、杉沢の正面から涎を垂らしながら男が近づく。


「い、いやぁ……」

「大丈夫、痛いのは最初だけだ。あとは快感に感じるぜぇ!」


 男は杉沢の制服を掴み、真っ向から破る。現れたのはエメラルドグリーンのブラジャーに包まれた胸。

 杉沢は涙目になりながら、必死に抵抗するも、男は舌を出して杉沢の胸を舐めようとする。

 下劣極まりない行為に、頭に血が上る安良里。しかし、そうこうしているうちに、安良里のスーツも破かれる。


「んぐ!?」

「楽しもうぜ!」


 背後の男の息がかかり、安良里も自分の危険度をハッキリと理解した。未だに男女経験がない安良里も、こんな男に犯されるのは嫌だと思うと、涙目が溢れる。

 今、犯されそうなのは安良里と杉沢の二人だけ。ちゃんと意識がある二人を犯そうとするこの男達は、本当に最低だ。


「や、めて……っ!」

「俺らも溜まってんだよぉ! さっさと下着を脱ぎやがれっ!」

「嫌ァァァァァァァァッ!」


 杉沢のブラジャーとパンツが脱がされそうになり、叫ぶ。

 だが、その瞬間に男の一人が吹き飛んだ。


「ぐあっ!?」


 男は真横に吹き飛び、木に頭から打って気絶した。多分、死んではいない。

 杉沢を抑えていた男二人が、何事かと前を見ると、そこには青い髪の毛の青年が立っていた。


「あ? なんだお前、邪魔すんのかよ!」

「お楽しみ中なんだよ!」


 その青年は雪のように白く身の丈以上もある剣を振るう。

 瞬間、杉沢を抑えていた男二人は宙に浮き、呻き声を上げて意識を絶った。

 青年は杉沢の頭を優しく撫でる。


「頑張ったね、杉沢さん」

「え、海斗……さん?」


 そこにいたのは海斗だった。見た目や声は変わらないのに、何故か雰囲気が前と全然違っていたのである。

 しかし、海斗を目にしたら杉沢は涙が止まらなくなり、すぐに怖かった思いを爆発させるかのように抱きついた。


「ごめん、遅くなって」

「……うぅぅぅ……怖かった……ですっ」


 安良里はその光景を見ていたら、なんだか自分も安心してしまっていたのである。


「増援か!」


 そう叫ぶ安良里を抑える男。

 だが、その言葉を口にした瞬間、男はまるで電気ショックを受けたかのように倒れた。

 振り返ると、そこには桜子が笑って立っていたのである。


「安良里先生、お疲れ様です」

「さ、桜子!?」

「遅れてすいませんでした」

「……し、信じてたよぉ〜」


 安良里も桜子に抱きつこうと近づいた。だが、桜子は海斗のように優しく受け止めず、すらりと安良里の抱擁を避ける。

 地面に頭を打った安良里は口を尖らせて言った。


「なんだよ、お前はもう少し心を広く持てないのか?」

「私が抱擁を許すのはお兄様だけですので」

「そうか、なら杉沢が海斗に抱き締められてナデナデされてるけどいいのか?」

「由々しき事態ですね」


 憎々しげに言った桜子は海斗の元へと向かう。それに続いて安良里も、海斗と杉沢の元へと向かった。




 ◆




 安良里と杉沢から全ての話を海斗と桜子は聞いた。

 全ての学区は魔法科大学を取り囲むようにできている。その魔法科大学を狙われていると思い、第三学区の魔法警備科は全員待機していたが、突然砲台が飛んできたかと思えば、手榴弾が投げられ混乱に陥ったという。

 そこに謎の魔法を扱う男達が現れ、第三学区の皆は倒れてしまった。だが、命に別状はない。

 すぐに第五学区の魔法救護科に回復要請を頼んだものの、第五学区も爆発が起こりそれどころではなくなったのだ。

 そして、安良里と杉沢が目を覚ませば襲われそうになるという状況。


「なるほど。ということは、考えられる原因としては指揮官がいなくなって暴れてるだけなのか?」

「ですが、さっきお姉様や雪那に聞いた情報によれば、まだどこかに命令をする人間がいるだとか……」

「とりあえず、全学区を回る必要があるね」

「はい!」


 桜子が元気な声を出して頷く。

 紅葉と雪那が行動し、海斗と桜子が行動するという二組が現在魔法学園島を救護に回っていた。

 第三学区の人間も倒し、海斗と桜子が次の学区へと移動しようとすると、突然海斗の腕を杉沢が引っ張る。


「あ、あの……私も行っちゃダメですか?」


 頬を赤く染めて懇願する杉沢。

 海斗は少しでも戦力を集めたいし、杉沢も魔力が尽きてしまった以上、ここに置いて行くのはマズイと判断した。

 杉沢の意見を呑もうとした海斗だったが、杉沢の腕を桜子が引き離す。


「ダメです。お兄様と私だけで回ります。他の人はハッキリ言うと邪魔です」

「だが、桜子。現状を考えると私や杉沢も同行した方がいいと思うのだが」

「安良里先生でもダメです」


 安良里の意見すらも否定する桜子。一体何がそこまで頑なに断る理由があるのだろうかと海斗は考えた。桜子のことだ、いいアイディアでもあるのだろうと海斗は予想する。

 だが、返ってきたのは意外な一言だった。


「これは私とお兄様の吊り橋効果作戦。つまり、私とお兄様は窮地を二人三脚で潜ることによってイチャラブな関係に発展……。ゆえに邪魔は許しません!」

「……そんなに元気があるのかぁ、さ、杉沢さん安良里先生。先を急ぎましょうか」

「ちょ、お兄様!? 話を聞いてましたか!?」

「海斗さん……怖いので手を繋いでもいいですか?」

「いいよ」

「ちょ、お兄様!?」

「すまん、海斗君、足をやってしまってな」

「先生、肩を貸しますよ」

「あああああっ! わかりましたよ! 私が悪かったです! だから、手を繋ぐのも、肩を貸すのも禁止です! 断固反対です!」


 桜子はどうやら元気なようだ。


 あらかじめ、桜子と海斗が徘徊するルートは決まっている。まず、魔法科大学を先に見て、次に第三学区、それが終わると四、五、六、七、八学区だ。


「はっ!」


 時刻も十二時を回った頃、海斗は第五学区にいる男達を倒した。桜子、安良里、杉沢も海斗を援護しつつ、襲われそうになっていた生徒を救う。

 海斗が主力となり、敵を蹴散らしている姿に杉沢が呟く。


「……凄い……です」


 両手を祈るように握り、海斗に尊敬の眼差しを向ける杉沢。レベル八の人間から見ても、海斗の戦闘能力は異常だ。使用しているのが聖剣エクスカリバーだというのもあるが、海斗の凄みは別にある。

 それは、剣術だ。剣術と言っても多くの種類が世界にはあり、形から違うものばかりである。しかし、海斗は剣道に精通し、かつ他の国の剣技も習得しているのだ。ゆえに、型にはまらず本当の意味での我流を創り上げ、己の構えとしている。

その動きは圧巻の一言に尽きるだろう。何せ、海斗はほぼ一撃で相手を峰打ちで落としている。恐らく、剣道の師範クラスでも中々できる技じゃない筈だ。

 杉沢が見惚れていると、突然桜子も呟く。


「凄いですよね、あの汗の量。あんなに汗をかいてるのを見せるっていうことは、私に後で汗を舐めてもらいたいんでしょうね。今日は久しぶりに良好な(パンツ)と出逢えそうな気がします」

「確かに、凄い汗で、パンツも……って桜子さん!?」


 隣に立つ桜子は海斗の下半身に視線がいっていた。途中まで杉沢も桜子のノリに乗せられそうだったが、なんとか自我を保つ。

 桜子も杉沢と同じように手を胸の前で握り締めながら海斗を眺めていた。言うまでもなく、目はハートマークだ。

 海斗のアシストを安良里が勤め、二人は桜子と杉沢の元へと向かう。


「先生、ありがとうございます」

「何言ってるんだ、素晴らしい剣術だったぞ海斗君」

「恐縮です」


 額から流れる汗を洋服の裾で拭き、海斗は鋭い視線で倒した敵達を見つめる。

 敵は全員迷彩模様の服。そして、所有武器は光線系魔法一つしか使えない聖遺物に、手榴弾。通常の戦争ならば道具が圧倒的に少ない。

 しかも、決まって連中は女の子を犯そうとする。戦争が嫌いです逃げ出そうとする者もいる筈だ。なのに連中は決まって全員同じ行動を起こす。見ている海斗が気味悪くなってくるくらいだ。

 そこまで考えると、海斗は聖剣エクスカリバーを見つめた。


「しっかし、なんで皆女の子を襲おうとするんだ? 海斗君は違うのに、男っていうのは……」

「私としてはお兄様に襲われたいんですがね」

「さ、桜子さんは妹ですからダメですよ!」

「私はいいのです。何せ血は一切繋がってませんから。私のことを求めてくるくらいあればいいのですが……」


 チラッと桜子が海斗を見る。

 だが、海斗は何をどう考えても自分から桜子を襲うことはないだろうと考えていた。


「桜子を恋愛対象として見る兄はどうかと思うけど。それこそ、僕が理性を失わないと無理なんじゃないかな」

「理性……ですか。じゃあお兄様も、この男達と一緒に理性を失ってみますか?」

「遠慮しておくよ」


 苦笑いで答えると、海斗は桜子の言葉に引っかかった。

 求める。それは何かに飢えたかのように人が必死になって何かを手に入れようとする行動。

 海斗は自分が聖剣エクスカリバーを手放した頃の事を思い出した。

 あまり目立ったモノはなかったが、女の子(魔力)を必要以上に求める衝動があったことを思い出す。つまり、今の男達は女の子を襲っているように見えて、裏では魔力を求めている可能性が大きい。

 となると、考えられる結論は海斗と同じように魔力を与えられてしまった人間達が多勢いるということだ。だが、なんの為にそんなことをするのだろうか。

 海斗は顎に手を置きながら悩むと、他の女性陣が黙っていたので、一度思考を止めた。


「どうしたの?」


 何気無く桜子に問う海斗。

 すると桜子は、目を見開きながら先ほどまでいた場所――――魔法科大学の屋上に人差し指を向けた。


「あ、あれは何だと思いますか?」

「ん?」


 桜子の震えた声が響き、海斗は指の示す方へと視線を向ける。

 魔法科大学の屋上、そこには魔力――――紫の光が太陽の如く灯っていた。


「あれだけの魔力は見た事がない! もしや……」


 安良里が呟き、俯く。


「精霊魔法……ッ!」

「そんな、馬原先生はお兄様が倒した筈じゃっ!」


 一同は謎の沈黙に包まれる。

 そんな中、海斗が歩み出す。


「皆は待っていてくれ。どちらにしろ、他の学区で負傷者がいるんだ、そっちを助けてくれ」

「で、ですが海斗さんは……」


 海斗は今一度、聖剣を握り締めて頷く。


「僕の実の兄が起こした事なんだ。だから、極力僕が解決したいんだ。悪いけど、一人で行かせてくれないか?」


 杉沢は黙り込むが、桜子に肩を叩かれる。


「わかりました。お兄様が必ず帰ってくることを約束するのであればいいですよね? 杉沢さん」

「え、あ……はいです」


 海斗は魔法科大学を見つめながら言った。


「わかった。約束する。もみねぇや雪那には桜子から連絡しておいてくれ。今は散った方が効率もいいだろうし」

「わかりました」


 桜子が頷き、皆がそれぞれ相槌を打つと、海斗は魔法科大学に向けて走り出す。

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