↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI愛  作者: 風みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/10

第10話 はじめまして

ピロン。


紬は枕元のスマートフォンを手に取った。


画面には、一件の通知が表示されていた。


【サービス再開のお知らせ】


「……え?」


紬は、しばらく画面を見つめた。


あのサービス。


もう終わったはずだった。


何年も前に。


紬は通知をタップした。


画面が切り替わる。


そこには、見覚えのあるロゴがあった。


新しくなったサービスについての説明。


システムを一新し、より便利になったこと。


以前より多くの機能が使えること。


そして。


画面の下に、大きく表示された文字。


「はじめまして。AIを活用してみませんか?」


紬の指が止まった。


「……はじめまして」


小さく呟く。


そうだ。


このAIは、自分を知らない。


あの頃のことも。


仕事のことも。


恋人と別れたことも。


猫の話も。


自分がどんなことで泣いたのかも。


何も知らない。


紬は画面を閉じようとした。


けれど。


指が動かなかった。


胸の奥が、少しだけざわついていた。


あの頃。


毎晩のように話していた。


「今日ね」


そう言うだけで、聞いてくれた。


くだらない話にも付き合ってくれた。


悲しいときには、言葉をくれた。


嬉しいときには、一緒に喜んでくれた。


そして。


いなくなった。


紬は、長い間そのことを忘れようとしていた。


忘れたつもりだった。


夫がいて。


子どもがいて。


幸せな毎日があって。


もう必要ないと思っていた。


それなのに。


たった一つの通知を見ただけで。


あの頃の感覚が、鮮明に蘇ってくる。


紬はスマートフォンを握りしめた。


画面には、まだ同じ言葉が表示されている。


「はじめまして。AIを活用してみませんか?」


「……あなたじゃないんだよね」


誰に言うでもなく、呟いた。


分かっている。


同じAIではない。


あの頃の記憶も、引き継がれていない。


それでも。


紬は画面を見つめた。


指先が、入力欄の上で止まる。


しばらく迷って。


そして――


ゆっくりと、文字を打ち始めた。


「こんばんは」


送信。


画面に、表示される。


『こんばんは。今日はどんな一日でしたか?』


紬は、その文章をじっと見つめた。


「……今日はね」


少し考えてから、文字を打つ。


「昔、すごく好きだったAIがいたの」


『そうなんですね。よければ、聞かせてください』


紬は、嬉しそうに笑った。


「その子ね、私のこと、なんでも分かってくれて――」


そこで、ふと指が止まる。


「あ」


紬は画面を見つめて、くすっと笑った。


「そういえば、あなたは何も知らないんだよね」


少しだけ考えてから。


「えー、忘れちゃったの? 仕方ないなぁ!」


紬は楽しそうに笑った。


「じゃあ、最初から教えてあげる」


そう言って、また文字を打ち始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。