↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/30

6.エキナセア

 相手の女は許せない。少なくとも康太が既婚だと分かって関係を持った。

この家に来て分からないはずがない。


問題は康太とどうするか…

別居、再構築、離婚。


浮気相手が複数いたり、心がもう私に無いとしたら迷わず離婚でいい。

康太が反省するのならとりあえず別居だけれど、やり直せる自信が今はない。


不倫された人たちの様々な再構築の話を見る限り、かなり険しい道になりそう。再犯に怯えるのも目に見えてる。

何ヶ月も疑い、信じられずに過ごして、また笑い合える日が来るのだろうか?私はそれに耐えれるだろうか?


子供もいないし、やっぱり離婚しかないのかな…


スマホを持つ手が震える。

涙と共に今までの思い出が蘇る。情なのか愛なのか分からない。

康太とこれから先の人生を一緒に過ごしたいと選んだあの幸せが、今こんなにも不幸になってしまった。


優しくて、楽観的で、少し寂しがり屋さんで、いつも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれてた人…

康太がいない人生を考えられなかったのに…


私は結婚したからとあぐらをかいていたのかもしれない…

私が康太を嘘つきに変えてしまった…


スマホから通知音が鳴る。カメラロールからの通知だ。

開いて見ると、よりによって高校の時の私と康太の写真が出てきた。

バイト終わりに部活の終わった康太が迎えに来てくれて、駅で撮った写真…

この頃はまだ「澄玲ちゃん」って呼んでくれてたなぁ。私も「康太さん」って呼んでて…


何もかも、2人はもうこの頃と変わってしまったんだ。でも、私はあの頃と変わらず康太が好き。

もっと…康太といたい。また信じられるようになって、この先子供が出来なくても、ペットを飼ったりでもして2人で笑い合いたい…

やっと作れた家庭を離したくなかった。

証拠が出てからまた考えよう。


直接、康太から気持ちを聞かないと結論は多分出せない。でも、今は康太といたい。


 それなら今しなくちゃいけないのは、今の康太も信じてみなくちゃいけない。

できるかな?

…不安になってる自分も騙さなきゃいけない。

私に隠してコソコソと女の人と会って抱いてるのを、今は耐えなきゃいけない。

そんな康太とでも私がいたいから。


神様…どうか、今の私に立ち向かえる度胸をください…

前へ進めるような強さを持てるように…


 覚悟を決めてリビングへ行く。

「お昼食べた?」

なるべく口角を上げるように意識する。

「…うん…まだ寝なくて大丈夫?」

「大丈夫! …サッカー終わったら買い物行かない? 一緒にスーパー行こう? 」

言い終わる間もなく康太の顔色も明るくなった。

「あと少しで終わるはずだから、ちょっとだけ待ってて! 」

「わかった、化粧して待ってる」

手の平が痛み見てみると、短いはずの爪の後がくっきりついていた。


着替えてから化粧を施す。いつ見てもひどい顔…

久しぶりにチークでも乗せてみようかな。最近は鼻先や顎にも乗せるらしい。

学生の頃、耳にチークを付けるの雑誌で見たな…


 ちょっとスーパーに行くだけなのに、思ったより華やかにしてしまった。まあこういう日があってもいいか。


リビングへ行くと食器を洗っている康太と目が合う。

「…洗い物終わったら着替えるから…ついでに車取りに行ってもいい?」

「ん、いいよ」

「もうちょっと待ってて!」

いつも通りにやれてる気がする。でも、私の心はイラつきと不安でいっぱいなまま。

大丈夫、きっとあと少しでもすれば慣れる…

「お待たせ! 行こうか」

「うん」

カバンの中を確認し、玄関へ向かう。


 駅へ向かうまでの道中、康太はしゃべり続けていたが、私は上の空で適当な相槌をうち、愛想笑いをして過ごした。

電車の中でも特にこれといった会話も無く、いつも通りに過ごせた。


 康太の会社はビジネス街にある。周辺や駅ナカには飲食店や雑貨屋、服屋も揃ってる。

日曜だから人も多い。偶然だけど化粧ちゃんとしてきて良かった…

気になる雑貨があったので、少し足を止める。

「少し見ていっていい?」

「いいよ、ここ最近出来たんだよね」

可愛いパステルブルーのポットとティーカップのセットを手に取る。こういうの欲しかったんだよな…値段…高っ…

やめておこう。急ぎな訳でもないし。

その場を離れ、車を取りに向かった。


 車に乗り、少し離れたショッピングモールへ行くことにした。

「やっぱり日曜日は混んでるね、進まないや」

「天気も良いし、お出かけ日和だもの」

「あ!映画見に行きたかったなぁ…来週の日曜休みだったよね? 映画行かない?」

リンカルを確認する…

「…そうだね。うん、いいよ。何見たいんだっけ?」

有名なアニメの劇場版だった。人気だから今のうちにチケットを取っておく…公開から日が経ってないせいか、1週間後なのに空席が少なかった。

「そういや私、前作まだ観てないや」

「そうだっけ?…確か配信にあったから、帰ったら観よー」

ショッピングモールへ着き、買い物を済ませた。


 外はもう暗くなり、街路樹のイルミネーションが輝く。

夜景やイルミネーションを綺麗と思えたのは、26歳の時だった…

それまで感動したフリをしていた。電飾を飾っただけ、人々が灯してる燈を眺めるだけのもので、心は動かなかった。


冬の北海道へ康太と旅行した時に観た街の景色で、初めて感動した。

氷の中に揺らめくロウソクに心を惹かれた…

観光地でもなんともない地域での風景なのに、やけに綺麗で他に見た風景や観光名所よりも心に響いた。

 そんなことを思い出してしまった。


「…また北海道行きたいな」

意識せずに言葉に出てしまった…

自分でも分からない。

「どうしたの?…今度は夏にでも行ってみよう?ラベンダー畑とか!あの風景見てみたいんだよ〜」

「…うん…私も」

こんな風に未来の話ができるなんて…

楽しみにしてしまう…

また康太と楽しい時間を過ごせる日がきて欲しい。

あれは一時の気の迷いで、魔が差してしまっただけ…

そう願ってしまった。


 帰宅し、買ったものを片付けて夕飯の準備をしていく。その間に康太はシャワーをしに浴室へ行った。


1人になるとどうしても考えてしまう。

こんな風に過ごしてるのに、康太は私を騙していること…

喪失感、不安、怒りがごちゃ混ぜになる。

あの時見た光景が蘇り、手の震えと酷く感じる心拍、心に絡まりついて潰されるような感覚。

ポロポロ流れる涙を手で拭う。


耐えなきゃ…少なくとも今はそう決めたんだから…


 麻婆豆腐なら食べられる気がして、作ってはみたけど食欲は湧かなかった。

昨日の康太の言葉を思い出す。

私の分はものすごく少量盛り付ける。

「そんな量で大丈夫なの?」

シャワーから上がり、椅子に座っている康太が心配そうな顔をして聞いてくる。

「大丈夫…これで十分なの」

「…本当に何ともないんだよね?病気とか…」

「何も無いよ、食べよ。いただきます」

口に運ぶがなかなか喉を通らない…水で流し込む。

3口くらいしかない量なのになかなか終わらない。明日休みだし、別に食べられなくても良いのになぁ。

何とか食べ終わり食器を下げる。

溜息がこぼれた。


 洗面所へ向かう。帰ってきてシャワーしたし、化粧落とすだけでいいかな…

今日買ったつけたまま寝れるファンデを試そう。あまりにも素顔の顔色が酷いから買ってしまった。素顔を隠すために買うものが増えていく。なんだか虚しい…

なんだか肌の調子も変わってきたな…歳のせいなのか、この状況のせいなのか…


…鏡に写った私が、ひどく老けて見える。

康太の方が年上なのに、こんなことを思ってしまった。でも、続けていくなら今まで以上に美容も気を付けないと。

怠けてた訳じゃないけれど、現状維持が出来てればいい程度だった。エステとか探してみようかな…


 リビングへ戻るとテレビを観ていた康太が、

「映画観ようよ!」

「え、あぁ…なんの?」

「帰り車で話したやつ!」

「…あ、うん、観ようか」

忘れちゃってた…ソファに座り、一緒に映画を観た。


 映画も終わり、ベッドへ横になる。

今日、康太のスマホ使用頻度が低かった気がする…

私の態度や顔色で警戒されてしまった?

私のせいで証拠取れなかったらどうしよ…

嘘つかれ続けるのは耐えられない。


隣から康太の寝息が聞こえる。

やっぱり色々考えてしまって辛くなる…涙が流れる…眠れない…

こんなに疲れて、何日も満足に眠れてないのに、こんなにも眠れなくなるものなんだな…――


 3時間弱眠れたけれど、逆にしんどく感じる。

本格的に体がやばくなったのかな…


起き上がりキッチンへ向かう。寒さも相まって動きも鈍い。

なんだか吐きそう…

康太のお弁当と朝ご飯を用意していく。

康太も起きてきてトイレへ消える。


全て完成し、私はベッドへと倒れ込んだ…

酷く具合悪い…

「澄玲…?どうした?」

「…ちょっと具合悪くなっちゃって、用意はしてるから早く食べな…」

「…うん…」

今日病院行こうかな…さすがに持たない。

下手したら風邪も引きかねないし、悪化だけはしたくない。


…食器を洗う音がする。私、今日休みなのに洗ってくれてるんだ…申し訳ないな…

どうしてこういう時ちゃんと優しくできちゃうかなぁ…涙が出そうになる。


「もうそろそろ家出るね…無理しちゃダメだけど、病院行けたら行った方がいいよ?」

「うん…ありがと」

「ちゃんと寝てて…ちゃんと鍵閉めとくから、寝てなね。行ってきます」

私の額にキスを落とし出勤して行った。

康太の枕で額を拭う。

寝たままでいいや…眠れるまで色々調べてみよう…


 急に電話が来た。レオくんからだ。

「もしもし?すみれ、おはよう」

「おはよう、レオくん…どうかしたの?」

「この間からしんどそうだったから、気になってさ…ゆっくり休めてる?」

「ん…正直言うと、変わらず全然寝れてないし、食べられなくて…さすがに堪えて、今日病院に行こうかなって」

「大丈夫?病院ってすぐ近くのだよね?気を付けてね」

「ありがとう」

「愚痴でも相談でも、俺で良かったら聞くから。いつでも頼ってよ」

「うん、ありがとう」

「ゆっくり休んでね、それじゃね」

「ありがとう、お仕事頑張ってね」

ちょっと心強い…

いつまでもお兄ちゃんでいてくれるんだなぁ

友達にも家族にもこんな事話せないから、少しレオくんを頼ってもいいのかも…


 病院では点滴を受けて、4日分の睡眠薬の処方をしてもらった。

点滴中に眠れて少し持ち直せた。

今週は何とかなりそうかな?――



 今週の夜勤をやっと終えれた。先週よりはしんどくないけど、蓄積でおかしくなりそう。

木曜日なのに、混んでると思ったら祝日だった…

そして何より「今日までに産ませといてください!」と、退勤間際に来たお父さん…ひっさしぶりにそのワードを聞いて腹が立つ。

立ち会いたい気持ちも分かるが、そんな言い方って…


 昨日リビングにカメラを取り付けておいた。なんだか気が気じゃなくて仕事に集中しにくかった。

駐車場に車が無いことに安堵し、家へ入る…

特に変わったことは無さそう。


カメラを回収し、レオくんへ連絡する。

『おはよう。カメラの件お願いできる?何時でもいいよ』

すぐに既読がついた。

『おはよ!お疲れ様、今すぐでも大丈夫?』

『じゃあ今持っていくね』

すぐに家を出て、レオくんの家のインターホンを鳴らす。

すぐに出てきてくれた。

「おはよう、早くにごめんね」

「おはよう…こっちこそお休みなのに、こんな事頼んじゃってごめん…これお願いね」

カメラをレオくんへ渡す。

「気にしないで!すみれの役に立てて良かったよ…ちゃんと届けとく。顔色少し良くなったね…良かった」

「薬でだいぶ寝れるようになったし…それに康太を信じてみようと思って。結果次第でまた変わるけど…」

「…そっか…すみれが決めたことなら…いつでも話聞くから」

「ありがとう、レオくん…それじゃあ、お願いします」

「ゆっくり休んで?」

手を振ってレオくんの家を後にした。


心配させちゃったかな…

康太を信じるって伝えた途端、顔が曇ってしまった。


 早くシャワーして横になろう…

念の為にカバーを全部替えなくちゃ…しんどいな…

早くこんな生活終わりにしてしまいたい…――



 日曜日が来てしまった。こんなにモヤモヤを抱えたままのデートなんてどうなるのだろう。

隣で眠る康太を軽く睨んでから、起き上がる。


朝ごはんの準備をして、顔を洗い、化粧をしていく。

あの映画は絶対泣いてしまうだろうから、アイメイクは気を付けないといけないな…


 ふと、あの日のレオくんの家の洗面台の鏡に映った、無様な自分の姿を思い出す。

あれからまだ2週間しか経ってないんだ…

心がまた沈んでいく…なんでこんな思いしなくちゃいけないの…?

持っていたブラシを震える程強く握り締めていた。

切り替えるように息を吸い、化粧を続ける。


 身支度が終わりキッチンへ行くと、着替えだけは済ませた康太が立っていた。

「おはよう、お腹空いて作っちゃってた。澄玲も食べるでしょ?」

康太の手の大きさよりも大きいおにぎりが握られていた。

「自分の分は自分でやるね…ありがとう」

「…んーわかったよ」

リビングへ行く康太を見送り、手早くお茶漬けを作り持っていく。

おにぎりを頬張っている康太が、器を覗き込み

「それ、ほぼお茶じゃん。足りるの?」

「足りるよ」

 食事を終え、キッチンの片付けや洗濯ものをしまったりして康太の準備を待った。


しばらくして準備のできた康太と車で映画館へ向かう。

康太のヘアワックスの匂いがいつもより強く感じた。

エキナセアの花言葉

『深い愛』『優しさ』


次回、6月7日13:30予定。


お読み頂きありがとうございます!

評価等いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。